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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第十章 AT和田総合体育館(II)
355/374

C-11(愛梨) 一撃で殺すつもり

 ブロック大会県予選、第二日目。

 Cコート、準々決勝、音成女子VS石館商業。


 現在のスコアは、14―16。


 逆転を許し、さらに差を広げられてしまった。こちらも手を緩めているわけではないのだが、石館商業の攻勢が止まらない。さっきからラリーに競り負けてばかりだった。

 原因の一つは、エースの藤本ふじもとさんが後衛バックだろうとお構いなしに打ってくること。

 そしてもう一つは、キャプテンの人がミドルブロッカー(瑠璃って人)の手綱を握るようになって、ブロックの隙が減ったこと。

 破らなくてはならない壁が、徐々に厚くなっている。

 八方塞がりになる前に、どうにか突破口を見つけないと……。


「どーもハマってるみてーだな、愛梨アイリー和美バタミよ」


 後ろから、どこか面白がるような声。蜂の羽音を耳にしたときのように、反射的に振り返る。そこには擬人化した突破口――もとい、マリチカさんが片手を腰に当てて立っていた。


「手ぇ、貸すか?」


 焚きつけているのか、あるいは純粋に義侠心からか、自信たっぷりな笑みを浮かべるマリチカさん。私は一も二もなく「お願いします!」と言ってしまいそうになる。しかし、先に返事をしたのは和美さんだった。


「わたしは要らないよ〜」


 呑気そうな調子でそう言うと、和美さんは首を傾け、「あーちゃんは〜?」と私に目を向けた。


「えっ、あ、私は……! えっと、私も、大丈夫です!」

「おう! んじゃ、しっかり頼んまー!」


 あっさりと引き下がるマリチカさん。そして「頑張ろうね〜」と手を振ってレセプションの位置に戻る和美さん。


 そのあたりで、はっ、と私は我に返った。


 ……やってしまった。マリチカさんもマリチカさんだが、和美さんも和美さんで他人を自分のペースに巻き込む人なのだ。つい釣られて大丈夫ですなんて言っちゃったじゃないか……。


「ヘーイ、強気ね、愛梨アイリー。そこまで言うなら私も頼っちゃうわよ?」


 たぶん全部わかっててからかってくる美波みなみさん。だが、今更いいえ無策ですとも言えないので、頑張ります、と返す。


 というわけで、本気でどうしようか――私は答えを求めて相手コートを伺う。

 兎にも角にも厄介なのが、藤本さんの存在だ。彼女をフリーにさせてはいけない。

 なら、敢えて狙ってみるか……?


 そこまで考えたところで、ばしっ、とサーブが飛んできた。落下点にいるのは、さーや。意識を攻撃のことに切り替える。しっかりとレシーブが上がり、私はサイン通りのAクイックへ――さっきまでより大股に踏み込みながら、思考の続き。


 藤本さんをフリーにさせない。レシーブさせる。かといって、フェイントは拾われる気がする。チャンスボールにされたら、それはそれで不利。やはり強打……? でも今はブロックが厚い。真正面ではシャットもありうる。だとすれば――、


 とんっ、


 と目の前にトスが置かれた。ブロックは二枚。狙うはレフトアタッカー――その左手。


「このっ……!」


 ごっ!


 と重めの衝突音。手応えあり。私の打ったボールはブロッカーの手を弾き、レフトサイドの外側、石館商業ベンチへと飛んでいく。


 あわよくばそのまま決まって――!


 そう念じるも、私の願いは天に届かなかった。代わりに藤本さんの手がボールに届く。


「――やなぎ!」


 レシーブの瞬間、藤本さんがセッターの人の名前を叫んだ。いやっ嘘ベンチまで突っ込んでおいて打つつもりなの――!? と冷や汗が噴き出たが、さすがにそうではなかった。藤本さんは単に、レシーブしたボールの行く先を知らせたのだ。


 どんっ、


 と、コート外まで吹き飛んだワンタッチを、荒っぽくも確実にネット際のセッターのところまで返す藤本さん。


 って、チャンスボールにされてる……!? まずいまずいまずい!!


「私のためによくやったいちいっ!!」

「……くだらないこと言ってないでボールよく見ろ」

「ちゃんと見てるっての――それいっ!」


 言いながら、瑠璃って人(ミドルブロッカー)は、それ正気ですか(明らかにボールは見ていない)!? というテンポで踏み込んでくる。この攻撃が本当に成立するならリードブロックでは間に合わないが――いや、惑わされるな! 冷静に、トスを見て、どこに上がっても瞬時に動けるように……!


 ひゅ、


 とトスが送られる。まさかの瑠璃って人の速攻クイックへ。私は私に出せる最高速でブロックに跳ぶ。が、トスが上がる前から踏み切っていた瑠璃って人にはどうしたって追いつかない。ただ案の定と言うべきか、トスは合っていなかった。まともなスパイクは打てないだろう――と思った次の瞬間、「うにゃろっ!」と瑠璃って人は空中でぐにゃりと体勢を変え、トスに合わせる。そんなのってアリ!? と焦って手を伸ばすが、届かない。


 やられた……っ! と失点を覚悟した、その、直後、


「おっと〜」


 ばごっ、


 と鈍い音が聞こえる。間一髪で和美さんが片手を伸ばし、ワンタッチを取ったのだ。


「さーちゃん、うしろ行ったよ〜」

「あざっす、シバっさん!」


 ワンタッチボールの落下点へ先回りするさーや。ピンチから一転、今度はこちらにチャンスが巡ってきた。


「あーり、いっちょ決めとけーっ!」


 チャンスボールを返しながら、そう声を張り上げるさーや。


「っ……!」


 そのとき、私は自分の作戦に、大事な前提が抜けていたことに気づいた。


 音成女子のモットー――すなわち、『一撃決殺』。


 音成女子でプレーする以上、点とは与えられるものではなく、奪うものである。

 藤本さんを警戒するあまり、私はいつの間にか、攻撃の主眼を『藤本さんを抑えること』に置いてしまっていた。

 でも、そうじゃない……この音成女子において、攻撃の目的とは常に『点を決めること』のはず。

 藤本さんを抑えるのは、あくまで万が一決められなかったときの保険、副次的な目的に過ぎない。

 藤本さんさえ抑えていればそのうち得点のチャンスが巡ってくるだろう――なんて、そんな心構えで打つスパイクが決まるわけないじゃないか……!


「――美波さんっ!」


 私は美波さんに合図を送り、フロントセンターから、ライトへ切り込む。

 相手のブロックが厚い――? それなら、自分から動いて、振り切ればいい。

 移動攻撃ブロードなら、多少なりともブロッカーを散らせるはず。


 ぱしゅ、


 と美波さんからトスが送られてくる。タイミングばっちり。私は力いっぱいコートを蹴った。ブロッカーは一枚。揺さぶりが利いたのか、藤本さんの構えるストレート方向が空いている。いや、むしろわざと空けているのか? 確かに藤本さんならどんな強打でも眉一つ動かさず拾ってきそうだが……って、ええい、気を強く持て、私!


 できる限りの好条件を整えた。

 念のための保険もかけた。

 ならばもう、私のやるべきことは一つ。


 一撃で殺すつもりで……打ち込めッ!!




 ――ぱんっ!




「……ふん」


 打音に混じって、そう、小さな溜息が聞こえた気がした。

 私のスパイクは、ブロックをかわし、藤本さんの手前に刺さる。

 打った手の平がひりひりと熱を持ち、心地よい。


「うーっし! やったな、あーり!」


 そう言って、さーやはバックゾーンから私にグーを突き出した。私もそれにグーで返す。さらに続けて、さーやと交替で戻ってきたつばめさんが、


「よくやったわね、愛梨」


 と私にパーを差し出した。私も同じくパーを出し、ぱちんっ、と手を合わせる。

 ローテが回って、私は後衛バック。サービスゾーンに立って、ひと呼吸。


 スコア、15―16。


 大分やられてしまったが、致命傷は避けられた。これで石館商業――もとい藤本さんの攻勢に待ったをかけられれば、言うことなしなんだけれど……。

 そう思いながらサーブを打ち、相手の攻撃に備えた、数秒後、




 ――どごんっ!!




 骨とか折れたんじゃないかってくらいの激しい衝突音を響かせ、ボールが私の前方へ零れ落ちる。

 ネットの向こうでは藤本さんがゆらりと身を起こし、ネットのこちら側ではつばめさんが顔を顰めて両手をぶらぶらさせている。

 待ったをかけるどころか、火に油を注いでしまったらしい――。

 っていうか、もしかしなくても今、正面衝突でつばめさんが押し負けたのか……?

 となると、ほぼ自動的に、音成うちに藤本さんを抑えられる人間ブロッカーがいないってことになるような……。


「うーい、あーり! とっとと代わりー!」

「あっ、う、うん」


 さーやと手を合わせ、私はコートの外に出る。


 スコアは、15―17。


 次に私が前衛フロントに上がるときには、きっと二十点台の勝負になっている。

 そこでさっきみたいな連続失点を許せば、ほぼ確実にセットを持っていかれる。


「無策で戻るわけにはいかないよね……」


 アップゾーンの先輩たちやアンにも後で色々訊くとして、まずは――。

 私はアドバイスを求めて、ベンチの監督の元へ走った。

『A-11』も更新されています。↓

https://book1.adouzi.eu.org/n5390ct/335/

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