C-9(瑠璃) 邪な気持ち
ごす……っ!
と、いちいの肩が私の背中にぶつかる。バックアタックを決めたはいいものの、跳躍の勢いがあり過ぎて着地後にオーバーランし、私をクッション代わりにしたのだ。悪い、と言われたが、確実に悪いと思ってない。これで得点してなかったら蹴りを入れてやるところだ。
「おーい、瑠璃や。今は相手に集中してねえ」
「わかってます。全弾止めてやりますよっ!」
気を取り直して、状況を確認。
タイムアウトを終えて、いちいが一発ぶちかまし、スコアは14―13。
ここらで主導権を取り返さないと、マリチカさんが前衛に戻ってきたときに詰む――というのはなんとなくわかる。そして巻き返しを図るなら、今だということも。なぜなら音成女子は現在、セッターが前衛の二枚攻撃で、しかもマリチカさんもキャプテンの人も不在という、最も手薄なローテなのだ。対するこちらは明晞さん・玲子さん・私の三枚攻撃。加えていちいのバックアタックもある。
まさに、チャンス。
私が活躍する、チャンスだ。
タイムアウトを経て、いちいのヤツがなんか急にやる気になってるが、それも好都合。
せいぜい後衛から睨みを利かせて、私のために敵のブロッカーを引きつけてくれ!
――ぱしんっ、
と千里さんがサーブを放つ。レシーブしたのは相手のミドルブロッカー。そのままAクイックに入ってくる。が、なんか嫌な予感。あのミドルブロッカー――あの目は、今の私と同じ、チャンスを狙ってる目だ。
直後、ミドルブロッカーは進路を切り替えてセッターの背後に回った。
Cクイックだと!? 小癪な――っ!!
「ちょい失礼しますっ!」
「おい瑠っ、のわ!?」
私は玲子さんを押しのけて、ミドルブロッカーの動きを追う。ワンテンポ遅れたが、問題はない。私は相手の踏み切りに合わせて跳び上がり、空中で体勢を整えつつ、アタッカーの鼻先に向かって両手を突き出す。捉えた! と思わず口元が緩む。相手ミドルブロッカーは私の挙動に目を見張り、動揺で精彩を欠いたスパイクを――って、あれ? ボールはいずこ……?
ぱんっ、
と軽めの打音が少し離れたところから聞こえる。目を向けると、打ったのはセッター。すなわちツーアタック。しかも私が押しのけたせいで玲子さんのブロックが間に合ってない。咄嗟のことで杏子さんも反応が遅れている。
うっわ、やっば! (主に私のせいで)万事休す――!?
「ちっ……!」
聞こえよがしな舌打ちがした、次の瞬間、いちいの巨体が床を滑る。そうして掬われたボールは、絶妙なコントロールでFRの明晞さんの頭上へ。
「っ――!」
反射的に、私はそちらへ駆けた。足元に転がるいちい(邪魔だ!)を避けながら、超ダッシュで。
「頼むよ、瑠璃っ!」
言って、明晞さんはセミとクイックの間くらいのトスを上げる。ダッシュの勢いそのままに跳んで、ちょうどいいタイミング。私はブロード攻撃の要領で、片足で踏み切り、ネットに正対するように身体を捻る。だが、そこには先回りした相手ミドルブロッカー。捉えた! と思われているのが雰囲気でわかる。しかし、甘い――空いている左を狙って私はさらに身体を捻る。と、気づいた相手もそちらを塞ぎにかかる。だが、それすらも計算済み! 左と見せかけて右だぁ――!
ぱんっ!
「う、えっ……!?」
と、左に抜けたスパイクを見て、相手が困惑の声を上げる。そう――左と見せかけて右と見せかけて左に打ち込んだのだ。してやったり、と私は八重歯を見せる。そして渾身のガッツポーズを、
ごすっ!
「痛っ!? おい、いちい、何をしやがる!」
「ムカついたから肩を当てた」
「暴力に躊躇いがないな貴様!?」
「試合が終わったら蹴りも入れる」
「いや、そこは『決めたからやめとくか』ってなっとけよ!」
腹が立ったので裏拳を放つ。いちいは面倒臭そうにそれを避けた。
「次ふざけた真似をしたら、マジで蹴る」
「貴様こそ、ヘマこいて私の見せ場を潰したら許さんからな!」
凄むいちいを睨み返し、私はどすどすとコートポジションに戻る。
スコアは、14―14。
同点に戻した。けれど、もちろん、この程度で終わらせる気はない。
もっともっと活躍して、遠くで見守るしず姉にカッコいいところを見せる!
そして近いうちにしず姉の家に押し掛けてちやほやしてもらうのだ!
「……やってやるぜぇ……!」
邪な気持ちを原動力に、私は集中を高めた。
『A-9』も更新されています。↓
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