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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第十章 AT和田総合体育館(II)
349/374

C-5(愛梨) 同じ二年生

 水を打ったような静けさがコートを支配していた。観客席ギャラリーにいる石館商業の応援メンバーまでもが口を閉ざしている。まさに泣く子も黙るような威圧感を放ちながら、サービスゾーンの藤本ふじもといちいはボールを構える。


「あーり、もうちょい前に出てくんね?」


 どこか独り言めいた低めのトーンで、リベロの浦賀さやか(さーや)が呟く。集中しているときのさーやの喋り方だ。ちょうど、法栄大立華ほうえいだいりっか天久保あまくぼじゅんのサーブを受けるときにも、さーやはこんな感じになる。藤本いちいのサーブは、それほどの脅威だということだろう。

 私も気を入れ直さなきゃ――と、さーやの指示通り少し前に出て、その瞬間に備える。やがて、


 ――ぱあんッ!!


 とサーブが打ち出される。方向は私の正面。ただ、軌道が少し高い。レシーブするにはいくらか後ろに下がる必要がありそうだ。

 が、たぶんこの場合の正解は、そうじゃない。


「あーり、避けとけ!」

「任せた、さーや!」


 さっ、と私は半身になって、さーやの視界を開ける。さーやは素早く落下点に入り込み、ぱんっ、とボールを捌いた。


「ヅカっさんすんません! ちょい微妙っす!」

「問題ないわ! ヘーイ、愛梨アイリー、入っといで!」

「わかりました!」


 ややライト寄りに逸れたカットを見てから、私は助走に入る。そんな私を追ってくるのは、相手の猫っぽいミドルブロッカー。そいつは私が踏み切る直前に、ぴょん、と跳び上がった。


 ちょ、コミット!?


 一瞬ぎょっとしながら、私も跳び上がる。だが、おかげでブロッカーの位置は掴めた。落ち着いて空いているコースを見極めれば、止められはしないはず――そう考えながら、頭上に上がったトスと、目の前のブロッカーを視界に収め、私は腕を振り下ろす。


 ぱぁんっ!


「っ、ワンチー!」

「ナイスだ、瑠璃るり!」

「……っ!?」


 触られた……!? かなり『待って』から打ったのに、空中で粘られた。先に跳んだのはあっちだから――この瑠璃って人、滞空時間が相当長いんだ。


「チャンスボール、行くぞ!」

「はいさっ!」「ほいさあ!」


 たっ、とリベロがワンタッチボールを低めの弾道で返す。相手の前衛フロントは二枚。サイドアタッカーのキャプテンの人も放っておけないが、それより目の前のミドルブロッカー(瑠璃って人)――なんか踏み込みのタイミングがさっきと違うんだけど!?


 なんて前衛まえばかりに気を取られていたところへ、トスが後衛うしろへ上がる。


 っ……藤本いちいのバックアタックか――!? 間に合え……っ!!


 すぱんっ!!


 と弾丸のように真っ直ぐ突き進むスパイク。それは恐ろしく正確なコントロールで私の指先を掠め、そのままエンドラインを大きく越えていく。やがてボールは、ごんっ、と後方の壁に当たり、コートまで跳ね戻ってきた。


「景気よく決めてくれるじゃねーの、モッチー。出し惜しみする気はねーってか?」


 ひょい、とボールを拾い上げ、藤本へと鋭い視線を送るマリチカさん。


「……力を惜しんで勝てる相手とは思ってないので」


 対する藤本は、そう下腹に響く低音で凄み、マリチカさんを正面から見据える。マリチカさんは「ちげーねー!」と愉快そうに笑って、ボールをワンバウンドで投げ返した。それを片手で受け止め、不機嫌そうな表情のまますたすたとサービスゾーンに向かう藤本。私はその後ろ姿を呆然と眺めながら、藤本について試合前にさーやが言っていたことを思い出した。


『ちっとむっつりしてっけど、仲良くなっとおもしれーよ?』


 どこが『ちっと』なの!? むちゃくちゃ恐いって!! そして仮に仲良くなったら面白くなるとして、そこまでに越えなきゃいけないハードルが多過ぎるから!!


 さておき――これで、スコアは3―4。


 先に一歩前に出たのは、石館商業。

 一人で試合を決められそうなほど強力なエースに、足並みの揃った連携コンビ――音成うちと近しい戦型スタイル――得点力の高いチームだ。前衛ブロックでしっかり抑えなければ、止めどなく決められてしまうだろう。


「あーり、大丈夫だいじょぶけ?」

「さーや……ごめん、まんまとやられたよ」

「ま、相手はもっさんだかんな。そういうこともあっさ」


 さーやはそう言うと、グーにした手を私の胸元に突きつけた。


「ブロック――頼りにしてっぞ?」

「……やってみる」


 ぱふっ、と私はさーやのグーをパーで包んで、放す。

 石館商業はうちと同じ攻撃型。半端なブロックでは止められない。それどころか逆に利用されてしまう。スパイクレシーブ(ディグ)に強いさーやの持ち味を活かすためにも、まずブロックがしっかりしなければいけない。


 藤本いちいも瑠璃って人も同じ二年生――喰らいついてやるぞ……!

『A-5』も更新されています。↓

https://book1.adouzi.eu.org/n5390ct/329/

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