C-3(美波) 学年を代表するレフト・ウイングスパイカー
FRの位置に立ち、背番号を副審に向けながら、私は横目でネットの向こうを伺っていた。私の真横――最も近いところにいるのは、相手のFL、二年生エースの藤本いちい。その身長は両チーム合わせた中で最高の、179センチだ。
威圧感すご……。
この試合は右のエース対決になる――というのは、誰の目にも明らかだろう。コートに入る前から、藤本いちいは鞠川千嘉へ鋭い視線を送っていたし、一方のマリチカのほうも、飄々とした表情ではあるが、やはり藤本いちいを意識しているご様子。
まあ、でも、無理もないか。
鞠川千嘉と、藤本いちい。どちらも学年を代表するレフト・ウイングスパイカーであり、事実上県内の右の頂上対決である。私も、県内の右ではただ一人、藤本だけは、マリチカと同じ舞台で勝負できる存在だと感じていた。
いや……でも、そう言えば、もう一人――あの子が『化けたら』……。
思い浮かべたのは、先月に縁あって対戦した一年生――城上女子の藤島透。彼女もまた学年を代表するレフト・ウイングスパイカーだ。身長だけで言えば、県内最高の右。その潜在能力は計り知れない。
マチ子たち城上女は北地区だから、地区予選ではこの石館商業と当たるわけよね。となると必然的に、藤本いちいと藤島透が右対決をするってことに――。
なんて考えていると、視線に気づいたのか、藤本いちいがこちらを見た。なぜかはわからないが、ものすごく不機嫌そうな表情で。
やっぱ威圧感すご……。
頬を冷や汗が伝う。私はすぐに藤本から目を逸らし、コートの後方をなんとはなしに見る――ん? なんか観客席の上で立ち見してる子すごくデカくて見覚えが……って噂をすれば藤島透じゃないの! 三園妹に両利きの子も一緒だ。マチ子の姿は見えないが、制服ってことは部を挙げての偵察なんだろうから、会場のどこかにはいるはずよね……。
と、コートの外に飛んでいた意識が、ちゃきちゃきした声に引き戻される。
「てやんでー! 聞いてっかー、美波!!」
「えっ!? あっ、ごめん、なんて?」
「初っ端、私に持ってこいっつったんでー!」
「あっ、ああ、うん!」
見ると、マリチカは既にレセプションの位置についていた。いつの間にかラインアップのチェックは終わっていたらしい。私も慌ててネット際の定位置につく。
まあ、藤本や藤島のことを私がアレコレ考えても仕方がないわよね。よそはよそ、うちはうち、ってことで、まずは仲間の面倒をしっかり見るとしますか。
サーブは石館商業からだ。キャプテンマークをつけたレフトが、ボールをワンバウンドさせ、それからごく普通のフローターを放つ。ボールは後衛の和美とさやかの間に飛んでいき、二人は声を掛け合って、拾ったのはさやか。
ナイスカット――つばめが速攻に入る。私はマリチカへトスを上げる。そしてボールが私の手から放たれるのと同時に、大きな影が視界の端を過り、ボールを追った。藤本いちいがマリチカのほうへ詰めたのだ。
三枚ブロック!? しかし、マリチカ的には想定内だったようで、
「しゃーらくせー!!」
――ぱあんっ!!
と、鋭い強打がストレートへ決まる。見た目ほど簡単に抜ける壁ではなかったはずだが、うちのエースは涼しい顔でにやりと笑った。
「そう恐い顔すんなよ、モッチー。楽しくやろーぜぃ」
「これが素の顔です。あと、モッチーはやめてください」
「私に勝てたらやめてやるよぃ」
「……不愉快な人だ」
吐き捨てるようにそう言って、柳眉をひそめる藤本。しかし、内面はさざ波さえ立っていないように見える。さやか曰く、無類のパワー派である藤島に対して、藤本は鬼がかってる技巧派とのこと。案外クールな性格なのかもしれない。
「柳さん……次は僕にください」
……いや、やっぱめっちゃキレてんじゃないこれ?
放たれる威圧感に、私は尻尾を巻いてサービスゾーンに逃げ込む。藤本を崩せるものなら崩したいが、どうだろう。でも、まあ、試してみますか――。
笛が鳴り、私は助走に入る。軽くジャンプして、ばしっ、とレフト線を狙った。
「――レフト」
ぱんっ、と虫でも払うようにカットされる。マジか……と驚きつつ、守備位置に。さやか情報では、藤本の得意技はフェイント――なら、わざと前を空けておいて、インパクトの瞬間に飛び出せばワンチャンあるんじゃ……?
などと、BRから不用意に一歩踏み出した、次の瞬間、
――ひゅ、
顔面の横を何かが通り過ぎ、
どごんっ!!
後方でなんか爆発したような音がした。
「ちょっと、さやか!? フェイント注意じゃなかったの!?」
「あ、すんません。でも、もっさんはフツーに強打もあっすよ」
危うく死ぬところだったじゃないの!?
「……もっさんもやめろ」
そんな呟きが聞こえたような気もしたけれど、定かではない。
ともあれ、スコア、1―1。
戦いの火蓋は切って落とされた。
『A-3』も更新されています。↓
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