表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第十章 AT和田総合体育館(II)
347/374

C-3(美波) 学年を代表するレフト・ウイングスパイカー

 FRフロントライトの位置に立ち、背番号を副審に向けながら、私は横目でネットの向こうを伺っていた。私の真横――最も近いところにいるのは、相手のFLフロントレフト、二年生エースの藤本ふじもといちい。その身長は両チーム合わせた中で最高の、179センチだ。


 威圧感すご……。


 この試合はレフトのエース対決になる――というのは、誰の目にも明らかだろう。コートに入る前から、藤本いちいは鞠川千嘉マリチカへ鋭い視線を送っていたし、一方のマリチカのほうも、飄々とした表情ではあるが、やはり藤本いちいを意識しているご様子。


 まあ、でも、無理もないか。


 鞠川まりかわ千嘉ちかと、藤本いちい。どちらも学年を代表するレフト・ウイングスパイカーであり、事実上県内のレフトの頂上対決である。私も、県内のレフトではただ一人、藤本だけは、マリチカと同じ舞台で勝負できる存在だと感じていた。


 いや……でも、そう言えば、もう一人――あの子が『化けたら』……。


 思い浮かべたのは、先月に縁あって対戦した一年生――城上しろのぼり女子の藤島ふじしまとおる。彼女もまた学年を代表するレフト・ウイングスパイカーだ。身長だけで言えば、県内最高のレフト。その潜在能力ポテンシャルは計り知れない。


 マチ子たち城上女じょじょじょは北地区だから、地区予選ではこの石館いしだて商業と当たるわけよね。となると必然的に、藤本いちいと藤島透がエース対決をするってことに――。

 なんて考えていると、視線に気づいたのか、藤本いちいがこちらを見た。なぜかはわからないが、ものすごく不機嫌そうな表情で。


 やっぱ威圧感すご……。


 頬を冷や汗が伝う。私はすぐに藤本から目を逸らし、コートの後方(反対側)をなんとはなしに見る――ん? なんか観客席ギャラリーの上で立ち見してる子すごくデカくて見覚えが……って噂をすれば藤島透じゃないの! 三園妹に両利きの子も一緒だ。マチ子の姿は見えないが、制服ってことは部を挙げての偵察なんだろうから、会場のどこかにはいるはずよね……。

 と、コートの外に飛んでいた意識が、ちゃきちゃきした声に引き戻される。


「てやんでー! 聞いてっかー、美波ヅカミー!!」

「えっ!? あっ、ごめん、なんて?」

「初っ端、マリチカに持ってこいっつったんでー!」

「あっ、ああ、うん!」


 見ると、マリチカは既にレセプションの位置についていた。いつの間にかラインアップのチェックは終わっていたらしい。私も慌ててネット際の定位置につく。


 まあ、藤本や藤島のことを私がアレコレ考えても仕方がないわよね。よそはよそ、うちはうち、ってことで、まずは仲間(身内)の面倒をしっかり見るとしますか。


 サーブは石館商業からだ。キャプテンマークをつけたレフトが、ボールをワンバウンドさせ、それからごく普通のフローターを放つ。ボールは後衛バック和美かずみとさやかの間に飛んでいき、二人は声を掛け合って、拾ったのはさやか。

 ナイスカット――つばめが速攻に入る。私はマリチカへトスを上げる。そしてボールが私の手から放たれるのと同時に、大きな影が視界の端を過り、ボールを追った。藤本いちい(レフトブロッカー)がマリチカのほうへ詰めたのだ。

 三枚ブロック!? しかし、マリチカ的には想定内だったようで、


「しゃーらくせー!!」


 ――ぱあんっ!!


 と、鋭い強打がストレートへ決まる。見た目ほど簡単に抜ける壁ではなかったはずだが、うちのエースは涼しい顔でにやりと笑った。


「そう恐い顔すんなよ、モッチー。楽しくやろーぜぃ」

「これが素の顔です。あと、モッチーはやめてください」

マリチカに勝てたらやめてやるよぃ」

「……不愉快な人だ」


 吐き捨てるようにそう言って、柳眉をひそめる藤本。しかし、内面はさざ波さえ立っていないように見える。さやか曰く、無類のパワー派である藤島に対して、藤本は鬼がかってる技巧派とのこと。案外クールな性格なのかもしれない。


やなぎさん……次は僕にください」


 ……いや、やっぱめっちゃキレてんじゃないこれ?

 放たれる威圧感に、私は尻尾を巻いてサービスゾーンに逃げ込む。藤本を崩せるものなら崩したいが、どうだろう。でも、まあ、試してみますか――。

 笛が鳴り、私は助走に入る。軽くジャンプして、ばしっ、とレフト線を狙った。


「――レフト」


 ぱんっ、と虫でも払うようにカットされる。マジか……と驚きつつ、守備位置バックライトに。さやか情報では、藤本の得意技はフェイント――なら、わざと前を空けておいて、インパクトの瞬間に飛び出せばワンチャンあるんじゃ……?

 などと、BRバックライトから不用意に一歩踏み出した、次の瞬間、


 ――ひゅ、


 顔面の横を何かが通り過ぎ、


 どごんっ!!


 後方でなんか爆発したような音がした。


「ちょっと、さやか!? フェイント注意じゃなかったの!?」

「あ、すんません。でも、もっさんはフツーに強打もあっすよ」


 危うく死ぬところだったじゃないの!?


「……もっさんもやめろ」


 そんな呟きが聞こえたような気もしたけれど、定かではない。


 ともあれ、スコア、1―1。


 戦いの火蓋は切って落とされた。

『A-3』も更新されています。↓

https://book1.adouzi.eu.org/n5390ct/327/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ