C-2(明晞) 余所見
「私は常々……君たちは優秀だと思っていますが……それは君たちの優秀さを君たち自身がよく知っていると思うからです」
聞き取りにくい声とわかりにくい言い回しが不評な歴史教師・仄原縣先生(44歳)は、例によって聞き取りにくい声とわかりにくい言い回しで試合前の私たちを激励した。私は通訳を求めて、仄原先生の隣に視線を送る。
「みんな強い、って」
仄原夫人の気の強さが偲ばれる言い切り口調で、仄原蔀はそう言った。バレーボール未経験者ながら「パパが心配で」入部を希望しマネージャーになった変わり者である。ちなみに、私と蔀は一年の頃からずっとクラスが一緒だ。
「明晞、パパからは以上だって。あとよろしく」
「はいはあい」
バトンを受け取った私は、仲間の顔を一人一人見ていく。誰もがやる気十分。不安要素はなさそうだねえ。
ただ、余所見をしているメンバーが、二名ほど。
「瑠璃、どうだい? 静は見つかったかなあ?」
「もうちょっとだけ待って――あっ、発見! でも、ぬああっ、なんてこった!」
「どうした?」
「もろ反対側です!」
「うん、まあ混んでるしねえ。仕方ない。でも静ならちゃんと見ててくれるでしょ」
「はいっ! いま目が合いました!」
「うんうん、それはよかったねえ」
さあて、と私は微笑し、次なるメンバーに声を掛けた。
「いちい君や、続きはコートの中でよかろう?」
私がそう言うと、音成女子陣営を睨みつけていた藤本いちい君は、失礼しました、とこちらに向き直る。かくして全員の意識が一つになったところで、すかさず私は輪の中心に右手を差し出す。全員がそれに倣って手を重ね、いよいよ緊張が高まっていく。
「そんじゃあ、一つ暴れてやるとしようかねえ……」
敵は四強、東の覇者・音成女子――相手にとって不足はない。
「館商おおぉー――――気合い入れていくぞッ!!」
「「おうッ!!」」
『A-2』も更新されています。↓
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