A-16(芹亜) 小さくて大きな差
小さくて大きな差だった。
法栄大立華と南五和の準々決勝、第二セット。
14―14の同点で迎えた中盤。両校の前衛は、全員が二年生だった。
法栄大立華は、レフト・小松里一凪さん、センター・新垣愛さん、ライト・天久保純さん。
南五和は、レフト・赤井雫さん、センター・結崎はるさん、ライトの生天目信乃さん。
その衝突は、結果だけ見ると、一方的だった。
法栄大立華の三連続ブレイク。
スコアが17―14になったところで、南五和は一回目のタイムアウトを取った。
「………………」
急な展開に隣にいる梨衣菜は唖然として固まっていた。
私は、いま見たものを整理するために、夜空の星のようにライトが煌めく天井に目を向ける。
個々の決定力を比べるなら、両者の間に大きな差はないように思える。
天久保さんについてはまだなんとも言えないけど、対する生天目さんだって十分にすごい。七絵さんが一人で止められるかわからないと言うくらいだし。
レフトなら、赤井さんには小松里さんを凌ぐ力強さがある。
センターの結崎さんも、高さや運動量で新垣さんと張り合っている。
加えて、南五和は勢いに乗っていた。第一セットより気迫があり、ボールへの反応も速い。
それでも、はっきりと明暗が分かれた。
けれど、それは単なる個人の力の差によるものではない。同じ連続ブレイクでも、第一セットの天久保さんのジャンプサーブのときとは質が違う。現に、この連続ブレイクでは、天久保さんはきっかけを作っただけで、そのあとは一点も取っていない。
南五和は、一方的に決められたのではなく、ラリーの末に競り負けたのだ。
このラリーというのが、くせものだ。
南五和は、法栄大立華と同じでリベロが起点となるチーム。リベロの有野さん、それにキャプテンの江木さんがレシーブを安定させて、それを逢坂さんが冷静なトスワークで二年生に繋ぐ。法栄大立華がそうだと胡桃さんが言ったように、土台がしっかりしているから、攻撃陣が点を取ることに集中できるのだ。
そうして生まれたいいリズムを、法栄大立華は乱してきた。サーブで前衛を狙い、後衛の有野さんと江木さんを蚊帳の外にしつつ、アタッカーに楽をさせない。ラリーの中では、フェイントやコース打ちで逢坂さんを狙い、二段トスからの攻撃を強いる。
個々の決定力が拮抗しているからこそ、単発の点の取り合いではなく、ラリーに持ち込んだ。そしてラリーが長引いたとき、最終的に勝敗を分けるのは一つ一つのプレーの精度だ。
例えば、セッターがファーストタッチしたときの、二段トス。
宮野さんがレシーブをして、後を託された新垣さんは、両サイドに開いた小松里さんと天久保さんからトスを求められ、迷わずレフトの小松里さんにボールを送った。
逆に、ほぼ同じ状況になったとき、結崎さんは赤井さんか生天目さんかで少し迷った。その判断の遅れはトスの精度に現れて、結果として得点の機会を逃した。
あるいは、小松里さんと赤井さんでは、軟打の使い方に違いがあった。
立ちはだかる相手のブロックが高く、真正面に強打すれば止められそうな状況。赤井さんは、小松里さんの前にフェイントを落とした。けれど、それは小松里さんに読まれて難なく拾われてしまう。
対する小松里さんも、生天目さんと結崎さんを相手に軟打を使う場面があった。赤井さんもそれを読んで、前に飛び出した。ただ、小松里さんはその飛び出しまで読んで、前に落とすのではなく、奥に飛ばして強襲。レシーブを乱すことに成功した。
天久保さんと生天目さんも、二段トスの捌き方で違いがあった。
天久保さんは、二段トスを受け、柔らかい打ち方で的確に逢坂さんを狙った。逢坂さんはそれをレシーブし、有野さんが二段トスで生天目さんに繋いだのだけれど、生天目さんはそこで、思い切り強打することを選んだ。だが、それは惜しくもアウトになってしまった。
咄嗟の判断力や読みの深さ、取れる選択肢の幅――それらの大本にあるのは、きっと経験の差だろう。
点差に現れているのは、そういう、目に見える部分は小さくとも、そう簡単には埋められない、大きな差だ。
私には、何をもってその差を詰めるのか、どうすれば南五和が立て直せるのか、ちょっと思いつかない。
こういうの、夕里だったら色々とアイデアを出してくれそうな気がするんだけれど……。
「芹亜殿、なに考えてるっスか?」
天井を見上げていた私に梨衣菜が話し掛ける。んー、と私は梨衣菜に目を向けて、言う。
「今はね、夕里のこと考えてた」
「えっ!? 試合のこと考えてたんじゃないっスか!?」
「試合のことを考えてて、そうしたら、いつの間にか夕里のこと考えてた」
「どういうことっスか!? どんだけ芹亜殿は夕里殿に心奪われてるっスか!?」
「ふふっ。梨衣菜って、たまに突拍子もないこと言うよね」
「芹亜殿にだけは言われたくねーっス!?」
梨衣菜の声に重なるように、タイムアウト終了の笛が鳴った。




