A-14(史子) 固く握り締めた拳
烏山史子です! 『とりやま』じゃなくて『からすやま』――なんて自己紹介している場合ではないようです!
「はあっ、はあっ……はぁ……っ!」
「だ、大丈夫ですか、珠衣先輩!?」
すごい汗……! それにふらふらです!
「監督……ちょっと、ここで休んでいいですか?」
「構いませんよ。冷えないように気をつけてください、ミス・佐間田」
「はい、ありがとうございます……」
どさっ、と糸が切れたようにベンチに腰を下ろす珠衣先輩。肩にタオルを掛けて、ドリンクをごくごくと飲み干します。そうして、ぷはぁっ、と一息つくと、先輩は私に笑顔を見せてくださいました。
「いやー……心配させてごめんね、史子。さすがにしんどくって」
「い、いえ、どうぞゆっくり休んでください! あっ、飲み物、まだ要りますか?」
「ありがとう。でも、大丈夫。あんまりお腹たぷたぷだと、次出たときに動けなくなっちゃうから」
冗談めかしてそう言うと、珠衣先輩はコートに視線を戻しました。相手のレフト対角の人が、スピードのあるフローターを放ちます。レシーブに入ったのは、小夜子先輩。丁寧に拾ったボールはぴたりと月美先輩に返り、それをはる先輩が「うりゃあ!」と決めてくれます。
「よしっ、ナイス!」
「いい感じですねっ!」
現在のスコアは、11―12。
第一セット、あの左打ちの人のジャンプサーブ以降、ずっと相手にリードされている感じでしたが、ようやく盛り返してきました! コートに響く声がハキハキしているし、動きも全体的にキレキレです! まさにこっちのペースですね!
「今日一番の大波だよ、間違いない」
「乗るしかない! ですねっ!」
「たぶん、もう乗ってる」
そう、珠衣先輩が笑みを浮かべた、次の瞬間です。ばしんっ、と激しくボールが弾ける音がして、こちらのコートに山なりのボールが飛んできます。相手のレフトからのスパイクを、信乃先輩とはる先輩がワンタッチしたのです。
「っしゃああ決めろお前らああああ!!」
「「はあああああいっ!!」」
雄叫びとともに上がるチャンスボール。月美先輩の滑らかなトス。そしてフィニッシュは――ライトの信乃先輩!
ずばごんっ!!
「よっし来たーっ!」
「やりましたね! ブレイクですっ!」
珠衣先輩と私はベンチで大はしゃぎです。スコアは、11―13。
「みなさん乗ってますね! ノリノリ大波です!」
「うん、本当にね。こうなったら南五和は恐いものなしなんだよ」
親ばかならぬ仲間ばか、といった感じで自慢げに語る珠衣先輩。このあたりで、私はようやく珠衣先輩が汗だくになって戻ってきた理由を理解しました。
つまり、逆転にこぎつけた珠衣先輩の奮闘は、『こうなったら』の『こう』を実現させるためだったのだ――と。
「……頼むよ、みんな……っ」
自らが引き寄せた大波に乗る仲間を、じっと見守る珠衣先輩。
このとき、膝の上で固く握り締めた拳に、先輩がどういう気持ちを込めていたのか。
先輩の横顔に見惚れていた私がそれを知るのは、もう少し後のことです。




