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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第十章 AT和田総合体育館(II)
338/374

A-14(史子) 固く握り締めた拳

 烏山史子(ふみこ)です! 『とりやま』じゃなくて『からすやま』――なんて自己紹介している場合ではないようです!


「はあっ、はあっ……はぁ……っ!」

「だ、大丈夫ですか、珠衣ミィ先輩!?」


 すごい汗……! それにふらふらです!


「監督……ちょっと、ここ(ベンチ)で休んでいいですか?」

「構いませんよ。冷えないように気をつけてください、ミス・佐間田(Ibis)

「はい、ありがとうございます……」


 どさっ、と糸が切れたようにベンチに腰を下ろす珠衣ミィ先輩。肩にタオルを掛けて、ドリンクをごくごくと飲み干します。そうして、ぷはぁっ、と一息つくと、先輩は私に笑顔を見せてくださいました。


「いやー……心配させてごめんね、史子。さすがにしんどくって」

「い、いえ、どうぞゆっくり休んでください! あっ、飲み物、まだ要りますか?」

「ありがとう。でも、大丈夫。あんまりお腹たぷたぷだと、次出たときに動けなくなっちゃうから」


 冗談めかしてそう言うと、珠衣ミィ先輩はコートに視線を戻しました。相手のレフト対角の人が、スピードのあるフローターを放ちます。レシーブに入ったのは、小夜子さよこ先輩。丁寧に拾ったボールはぴたりと月美先輩に返り、それをはる先輩が「うりゃあ!」と決めてくれます。


「よしっ、ナイス!」

「いい感じですねっ!」


 現在のスコアは、11―12。

 第一セット、あの左打ちの人のジャンプサーブ以降、ずっと相手にリードされている感じでしたが、ようやく盛り返してきました! コートに響く声がハキハキしているし、動きも全体的にキレキレです! まさにこっちのペースですね!


「今日一番の大波ビックウェーブだよ、間違いない」

「乗るしかない! ですねっ!」

「たぶん、もう乗ってる」


 そう、珠衣ミィ先輩が笑みを浮かべた、次の瞬間です。ばしんっ、と激しくボールが弾ける音がして、こちらのコートに山なりのボールが飛んできます。相手のレフトからのスパイクを、信乃のの先輩とはる先輩がワンタッチしたのです。


「っしゃああ決めろお前らああああ!!」

「「はあああああいっ!!」」


 雄叫びとともに上がるチャンスボール。月美るみ先輩の滑らかなトス。そしてフィニッシュは――ライトの信乃先輩!




 ずばごんっ!!




「よっし来たーっ!」

「やりましたね! ブレイクですっ!」


 珠衣ミィ先輩と私はベンチで大はしゃぎです。スコアは、11―13。


「みなさん乗ってますね! ノリノリ大波ビックウェーブです!」

「うん、本当にね。こうなったら南五和うちは恐いものなしなんだよ」


 親ばかならぬ仲間チームばか、といった感じで自慢げに語る珠衣ミィ先輩。このあたりで、私はようやく珠衣ミィ先輩が汗だくになって戻ってきた理由を理解しました。

 つまり、逆転にこぎつけた珠衣ミィ先輩の奮闘は、『こうなったら』の『こう』を実現させるためだったのだ――と。


「……頼むよ、みんな……っ」


 自らが引き寄せた大波に乗る仲間メンバーを、じっと見守る珠衣ミィ先輩。


 このとき、膝の上で固く握り締めた拳に、先輩がどういう気持ちを込めていたのか。


 先輩の横顔に見惚れていた私がそれを知るのは、もう少し後のことです。

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