A-13(叶実) 二桁
ブロック大会県予選、第二日目、Aコート準々決勝。
法栄大立華VS南五和。
第二セットは、序盤まで第一セット同様こちらが試合をリードしていた。
しかし、中盤に入り、南五和で唯一の県選抜経験者――二年生センター・佐間田珠衣が牙を剥く。
そうして、ついにスコア、9―9。
着実に引き離していたところを振り出しに戻された。
思い切って仕掛けた揺さぶりも凌がれてしまったし、いよいよ勢いに乗った、と見るべきよね。この感じのままラリーになると、何が起こるかわからない。なるべく一撃で仕留めたいところ。
そんなとき、ついつい頼りにしちゃうのはやっぱり……。
「カナミン先輩っ!」
トスちょうだいっ、と笑顔でサーブカットを上げたのは、純だ。私はセットアップに入りつつ、純がバックアタックの助走に開くのを見る。そしてほとんど悩むことなく、『そこ』にトスを上げた。
つまり、ミドルブロッカーの豊見もなみに。
「がっくし!?」
などとずっこけている純に目を留める選手は、この場には誰もいなかった。私のトスに合わせ、もなみは速攻に踏み切り、ほぼ同時に佐間田さんもブロックに跳ぶ。サイドブロッカーの江木さんと逢坂さんは間に合わない。ミドルブロッカー同士の一対一。
たぶん――と、私は思う。もなみは右か左か、どちらかを抜きにかかるだろう。けれど、もなみがそのどちらに打つのかは、そばで見ている私にも予測できない。なんとなく、右な気がするけれど――。
「右だあああ!!」
「………………」
ぱしんッ!
と、鋭いスパイクが『真正面』へ打ち込まれた。予想が外れ、私は微笑み、佐間田さんは「げっ!?」と頬を引きつらせる。
さて、これで決まるようならいいのだけれど――と、横目に南五和コートを見やった、瞬間だ。
「おらあああああああああー!!」
甲高い鳴き声を伴って、一羽の金糸雀が視界に飛び込んでくる。
その眩しさに、私は思わず目を細めた。
――これは……少しまずいかしら?
佐間田さんをかわし、誰もいないはずの場所に打ち込んだはずの、もなみのスパイク。それを、どうやってか拾ってみせた有野さん。
しかし、重要なのは、手段ではなく結果のほうだ。
リベロがいい仕事をすればするほど、チーム全体が勢いに乗る。
南五和が私たちとよく似たチームだからこそ、ここで決められたらどうなるかなんて、火を見るより明らか。
私はもなみと一凪に目配せし、ボールに視線を戻す。センター付近に高々と上がったボールは、ほぼセッターの定位置へ向かっていた。
ここで、逢坂さんがどう出るか――。
直後、ぴりっ、と静電気のような不穏な気配を感じて、私は素早く逢坂さんを見る。逢坂さんはセットアップの体勢を取りながら、鋭く目を光らせてこちらのコートを伺っていた。その最中、ほんの一瞬、私たちの視線が交錯する。
まさか……ツーを狙っているの? 私が今さっき仕掛けたばかりで? こっちは私ももなみも一凪も、後衛のひよりだって警戒しているのに――それでもなお、あなたなら決められるというの……?
逢坂さんの意図が読み切れない。そうしている間にも、状況は刻々と変化する。
「月美さあああんっ!!」
気迫十分に、ミドルブロッカーの佐間田さんが切り込んでくる。Aクイックだ。そしてその影に隠れるようにして、レフトでは江木さんが助走に入っていた。
江木さんのテンポが少し早い――? 逢坂さんと佐間田さんでこちらの意識をセンターに引きつけて、サイドに振るつもりかしら。なら、佐間田さんはもなみに任せて私は江木さんを――、
と、私が右へ重心を傾けた、直後、
ふっ、
と逢坂さんはボールを『背後』へと送った。
「っ――!?」
声にならない声を上げ、私はトスの上がったほうへ目を走らせる。私とはネットを挟んで対角のBR――そこへ踏み込むのは、大きく長い翼を広げる、183センチの巨鳥。
ごくりっ、と喉が鳴る。
そうだった――そんな切り札もあったわね……! 第一セットは一度もお目にかかれなかったけれど……!!
「ぶちかませえええええ信乃おおぉー!!」
「はいっ!!」
――ばちんっ!!
と会心の一打がクロスへ放たれる。ボールはライト側を守る私と純の間へ突き刺さった。私たちはぱっと互いの顔を見合い、それからゆっくりと、逢坂さんと生天目さんへ視線を移す。
「……やられたわね」
「やられましたねっ!」
言って、ぱちっ、と気持ちを切り替えるために軽く手を合わせる。
「カナミン先輩、次こそぼくにお願いしますっ!」
「いい子にしてたらね」
「なにとぞ!! なぁーにとぞぉー!!」
「わかったわかった」
「それわかってないやつですよね!?」
純のきらきらした瞳から逃れるように、私は周りを見る。スコアボードの表示が、9―10に変わる。この試合で初めての三連続失点。逆転された上に、先に二桁に乗られた。
ふと気になって、私はひよりの様子を伺う。ひよりはもなみと一凪と心を集めて何やら話をしていた。
なんというか……チームのピンチに純と遊んでいるだけの司令塔よりも、ずっと司令塔らしい。
ひよりにキャプテンの座が脅かされていると悩む心の気持ちが少しわかって、私は苦笑する。
「……私も私の仕事をしないとね」
昇りきるにはまだ少しかかる――それまでは、しっかり司令塔の役割を果たすとしましょう。




