A-12(珠衣) 二点目
「……まだまだ、これくらいで収めてたまるかっての……っ!」
珠衣はネットの前に立ち、相手の動きをチェックしながら頭をフル回転させる。
ひとまず、この手で1点を取ることができた。
珠衣たちに足りないものがなんなのか――その答えが、はっきりと出たわけではない。
けれど、超シンプルに考えるなら、それは『得点』だろう。
それもただの得点じゃない、連続得点。
法栄大立華の盤石を揺るがしてやる。
そのためには、とにかく状況をよく見て、最良の手段を選び取っていかないとね……!
「行くぞ……っ!」
気合満点でサービスゾーンに立つのは、引き続き、雫。珠衣のプレーに刺激されたのか、あるいは純への対抗心か、ばしんっ、と力強くボールを打ち出す。が、その行き先で待ち受けていたのは、不運にもあの紅。身体全体を使って球威をしっかり殺し、柔らかなカットを返す。
ひゅーう、ぴったんこ……っ! まあ、こればっかりは仕方ないと割り切って――どうにかネット際で食い止める!
ブロックの構えを取りながら、素早く目を動かす珠衣。
さて、どっちを使ってくる……? センターの豊見さんか、レフトの一凪か――。
と、珠衣の視線が、レフトに回る一凪に向いた、その刹那。
仕掛けてきたのは、百戦錬磨のセッター、宮野叶実さん。『そう』と気取らせないいつも通りのセットアップモーションから、ぱしっ、と左手で鮮やかなツーアタックを放った。
うっげー!? このタイミングでツーとか――!!
珠衣は咄嗟にジャンプして片手を伸ばす。が、あとちょっとのところでボールに触ることができない。軽く払うようにプッシュされたボールは、レシーバーのいないフロントゾーンへ落ちていく――、
「まだっ……!」
絞り出すような声とともに、珠衣の死角から人影が飛び出した。何を隠そう、我らが親愛なるセッター・月美さんである。月美さんは普段はあまりしないフライングレシーブでボールに喰らいつき、ぼふっ、とコートに身体を打ちつけながらも懸命に手を伸ばして、すんでのところでボールを救ってみせた。
「あ、と――は、よろしく…………げふっ」
「うああああ月美さああああーん!!」
「月美ちゃんナイスカットぉー!!」
「マジでよくやった! あとはあたしに任せとけ!! お前の屍を踏んでいくぜッ!!」
「いや、踏まないで。越えて」
そうこうしているうちに、可那さんが落下点へとカバーに入る。コートに横たわる月美さんの身体をひょいっと跨ぎ、アンダーハンドで二段トスの構え。レフトでは小夜子さんが開いて待っている。するすると下りてくるボール。と、可那さんはそのボールを見たまま、叫んだ。
「行けんのかッ!?」
その問いに、ちょうどアタックラインまで下がりきった珠衣は、前傾姿勢で頷く。
「もちろんでっす!!」
上等だっ、と可那さんは微笑み、二段トスを真上に――センターに上げた。
「ぶっちかませえええ、珠衣いいい――!!」
「うおおおおおし飛んでっけえええええー!!」
――ばしんっ!
手首の力を最大限に使い、珠衣はなるべく高い打点からスパイクを放つ。ボールは狙い通りにブロッカーの指先を掠め、勢いそのままにエンドラインの向こう側まで吹き飛んだ。
「――……っと、これで、二点目ですね……!」
言いながら、着地時に屈めた上体を起こす。豊見さんは何を考えてるのかわからない顔で、宮野さんは困ったような微笑を浮かべて、珠衣を見ている。そして、悔しそうに眉をひそめるレフトの一凪が、静かに口を開いた。
「……この借りは高くつくぞ、珠衣」
「なんの、踏み倒してやるまでっ!」
一瞬の睨み合い。一凪はアンダーリムの洒落た眼鏡に触れ、ふいっ、と踵を返す。珠衣も二つ結びにした髪を両手でばさりと払い、味方のほうへと振り返った。
スコアは、9―9。
二連続ブレイクで、同点。
けれど、足りない。これではまだ全然足りないのだ。
第一セットでは一度もできなかった三連続ブレイク、そして逆転まで、最低でもあと1点はもぎ取る……っ!
ふぅーっ、と珠衣は長く息を吐き、ぎらりと相手コートを見据えた。




