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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第十章 AT和田総合体育館(II)
335/374

A-11(愛) 暴風《Howl Me》

 珠衣ミィちゃんのことを知ったのは、中学一年生のときだ。

 中央地区にすごいミドルブロッカーが現れた。しかも二人。それも姉妹。

 そんな、ふわっとした噂を耳にした。一応、学年最高のミドルブロッカーとして、チェックしとこうかな、妹のほうは同学年らしいし、という感じ。

 そのときは、まさか二年後に県選抜で一緒に全国を戦うことになるとは、思ってもいなかった。


『ぼっこぼこにしたいヤツがいるんだよね!!』


 珠衣ミィちゃんが県選抜のメンバーに選ばれたと知ったとき、私は少なからず驚いた。高さの面で抜けている私ともう一人は確実として、あと一人入れるならセントレの六波ろくは有理子ありすか、でなければ同じ南地区の誰かだと思っていたから。

 しかし、ひとしきり驚いたあとで、私はどういうわけか妙な納得感を覚えた。

 『意外だ!』と思うのと同時に、『なんか面白そうだ!』とも思ったのだ。

 あれから一年半ほどが経った――今。


 相変わらず、珠衣ミィちゃんは面白い。


「ただ名前は覚えててほしかったよ……!」

「何か言った、めぐみ?」

「なんでもないでーす」


 さておき。試合は断然私たちが有利に進めていた。なんといってもこちらは優勝候補筆頭、県ナンバーワンの法栄大立華なのだ。チームとしては、四強以外に遅れを取ることなどそうそうない。

 実際、第一セットは快勝。第二セットも、現状、9―6。じゅんのサーブで点差を一つ広げたところ。そして依然としてサーバーは純だ。


「よーしっ、もう一本行くよー! やぁぁー――ほあでっ……!?」


 がんっ、と力強く叩かれたボールは、力を入れ過ぎたのか、惜しくもネットに掛かった。


 スコアは、9―7。


 南五和あちらのローテが回り、眼鏡をかけたレフト(赤井あかいしずく、だったはず)が後衛バックに下がる。珠衣ミィちゃんのコートポジションはFRフロントライト前衛フロントでいられる最後のローテ。

 私と同様、後衛バックではリベロと交替する珠衣ミィちゃんは、ここで何もできなかったら、次にコートに戻ってくるのは半周後になる。それまでに、今より点差が開いていないという保証はない。


 なんか色々と考えてるみたいだけど、そろそろ答えを出さないと手遅れになっちゃうよ、珠衣ミィちゃん……?


 ごくごく個人的な期待を込めて、私は試合の行方を見守る。なぜか妙に殺気立ったサーブが赤井雫から放たれ、ボールは後衛バックの純のところへ。純はそれを「よっこら!」とまずまずのカットに仕上げる。セッターの叶実かなみ先輩は、奇を衒わずにレフトに回った小松里こまつり一凪ひとなへトス。そして一凪は、スパイクの直前、相手の二枚ブロックと守備陣形を見て、咄嗟に強打からフェイントに切り替えた。意表を突いた攻撃だ――これは反応できまい! と思った、次の瞬間、


「フェイントおおおっー!」


 跳躍ブロック中の珠衣ミィちゃんが声を張り上げる。たぶん、強打から軟打へ切り替える際の、一凪の僅かな変化を見抜いたのだろう。それくらい早い反応だった。


「っ――!? 小夜子さよこ、前につめろ!!」

「任せてっ!」


 珠衣ミィちゃんのアラートに従って、すかさずリベロの有野カナリア先輩が指示を出す。警笛のように高く響く声。それとほぼ同時に、FLフロントレフト江木えぎ先輩が駆け出し、落ちていくボールの下にぎりぎり手を滑り込ませた。


「ナイス、小夜子……っ!」


 辛うじて生きたボールを、セッターの逢坂おうさか先輩がアンダーハンドで繋ぐ。ボールはセンター付近に上がった。が、トスとしては高さが足りず、ネットから少し離れている。腕の感触でそのことに気づいたのだろう、表情を曇らせる逢坂先輩。そこへ、


「なんの――っ!」


 ブロック後に定位置センターへ戻りかけていた珠衣ミィちゃんが、変則的な助走で切り込む。身体が斜めに傾いてはいるが、タイミングはぴったり。しかし、こちらはそれを三枚ブロックで容赦なく封じにかかる。そして、


「どっけえええええッ!!」




 ――だばんっ!




 と豪音が響いた。ボールはブロックを弾き飛ばし、ほぼ真横――主審のほうへ跳ねていく。


「……まずは、一点でっす」


 にぃ、と歯を見せて、子供っぽくも、どこか優雅に微笑む珠衣ミィちゃん。

 その闘志は荒れ狂う突風のようにアップゾーンにまで届き、私の全身をぞくりと震わせた。

 これぞ珠衣ミィちゃんの真骨頂――力強くも捉えどころのない、〝暴風(Howl Me)〟の一撃。


「よっし! やっとエンジン掛かってきたなー、珠衣ミィちゃん!」

「こら、めぐみ、あんま相手寄りの発言しないの」

「えー? だって盛り上がったほうがいいじゃないですか!」

「私はいいけど、叶実は違うかもね」

「うおおおー! 法栄大立華ぁー! ふぁいとー!」


 遮二無二味方を応援しながら、逸る気持ちをいくらか発散させる。

 ようやく珠衣ミィちゃんが本領発揮してきたのに、叶実先輩の機嫌を損ねて交替させらたらたまらないもんねっ!

 アップゾーンの今は、聞き分けよく、大人しくしていましょう。

 お楽しみは次の前衛フロントまでおあずけ――はっちゃけるのは、その時で。


「……まさか私の登場前にガス欠なんてしないよね、珠衣ミィちゃん……っ!」


 叶実先輩に聞こえないよう、こっそりそう呟いて、私は試合の行方を見守った。

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