A-9(珠衣) 言いかけたこと
ごくごくごくっ――!
と、珠衣は引ったくるようにして手にしたドリンクを勢いよく喉に流し込んでいく。
純のやつめ……っ! 敵に回すとほんっときつい!!
ブロック大会県予選、Aコート準々決勝、法栄大立華VS南五和。
7―5で迎えた序盤の終わり、仕掛けてきたのは県内最強の左――天久保純。
強烈なジャンプサーブとバックアタックによって、純は後衛にいながらにして試合の主導権を握っていた。
そしてスコアが10―5のダブルスコアになったところで、南五和は一度目のタイムアウトを取った。
「やっぱ厄介この上ねえな、あの天久保――」
「はい……正直、かなり鬱陶しいです……」
「ズ、雫? なんか顔が恐いけど……?」
「今のところ、ジャンプサーブそのものは、対応できていると思う。ちゃんとわたしのところに返ってきてるから。あとは攻撃だけど――」
「わっ、私が決めますっ!」
「私にやらせてください!」
「えっと……信乃も雫も、大丈夫? 純のペースに呑まれてない?」
「なに、やる気はあるに越したことはねえ! その調子であのやっほい娘をぶっ飛ばせ!」
「頑張りますっ!」
「泣かせてやります!」
「雫!? だから顔が恐い顔がっ!」
「珠衣的には……あんまり攻撃に意識を割くと、今度は守備が崩されそうで恐いんだけど」
「「うっ……」」
「そうだね、珠衣ちゃんの言うこともすっごく大事。サーブカットは今、うちの生命線だってことを、みんな忘れないようにっ!」
「「はいっ!」」
ぴったり揃う珠衣たちの返事。小夜子さんはふんわりと微笑み、それから内緒話でもするように、少し声をひそめて言った。
「……こう言うのはあれかもだけど――私たちは今、あの法栄大立華を相手に、かなり戦えてるって思うの。レセプションは安定してるし、攻撃だって、決して決まってないわけじゃない。だから、あとは――」
小夜子さんの言葉は、そこで途切れた。タイムアウトの終了を知らせる笛が鳴ったのだ。
「とにかく、そういうわけだから――できることを一つずつやっていこう!」
「「おおおおっ!!」」
「み、皆さん、頑張ってくださいっ!」
「南五和ああぁー! ふぁいとおおぉー!!」
「「おおおおおおー!!」」
史子やはる、控えメンバーの声援を受けて、珠衣たちはコートに戻る。レセプションに参加しない珠衣は、ネット際のポジションについて、月美さんと攻撃の打ち合わせをしつつ、小夜子さんの言いかけたことについて考えを巡らせた。
小夜子さんの言う通り、珠衣たちはけっこうイイ線いってると思う。守備も攻撃も悪くない。
けど、それだけでは、法栄大立華には届かない。
まだ、何か、足りないものがある――。
なんて考えているうちに、都合四度目の、純のジャンプサーブが放たれる。
「よぉー……ほいやっ!!」
ぱあんっ!
と軽快に打ち込まれたボールは、可那さんの守備範囲へ。
「よっしゃ来たああああ――――って!?」
レシーブの寸前、サーブを正面で待ち受けていた可那さんは、大慌てで横っ飛びした。ボールはそのままエンドラインを割り、アウトとなる。
「こん、の……ざっけんなお前ええええ!! なに外してやがんだコラああああ!!」
「わああんっ、ごめんなさいごめんなさい!! って、いやいや!? なんでぼく敵に怒られてるの!?」
かくして、スコアは10―6。ようやくこちらにサーブ権が戻ってくる。月美さんが前衛に上がり、信乃が後衛に下がる。
「いいかお前ら!! 勝負はこれからだぞ!!」
「「おおおおおっ!!」」
「声が小せええええ!!」
「「うおおおおおおおおっ!!」」
恒例のめちゃくちゃな大声を上げながら、珠衣は思考を続ける。
足りないもの……今の南五和に――珠衣に、足りないもの……。
答えは、出ない。そうこうしているうちに、信乃のサーブから、次のプレーが始まった。




