A-8(雫) ピストル
私はFL付近に陣取り、ジャンプサーブを待ち構えていた。
スコアは、8―5。サービスエースを取られた直後。やるべきことは決まっていた。
私が取って……私が決める……!
私は身長こそ170センチに届かないが、その分、南五和の誰よりも身体を鍛えていた。例えば、腕相撲をやらせれば、私が部内一(二位は珠衣、三位は可那さん(実際は信乃だろうけど、信乃と可那さんが勝負すると必ず可那さんが勝つ)である。
天久保純のジャンプサーブは、確かに脅威。けれど、今さっき間近で見た限り、落下点に入りさえすれば、多少手元で変化しようとも、私には力づくで上げられる自信があった。
さあ――来いッ!
ざっ、と天久保が助走に入る。私はその動きに呼吸を合わせ、適度に身体の力を抜いてインパクトの瞬間を待つ。そして――、
ぱあんっ!
とまたしても強烈な打球。ボールは、果たして、私の顔面目掛けて飛んできた。
「雫ちゃんっ!」
「取れんなら取っちまえ、雫っ!」
「その、つもり――――ですッ!!」
ばしんっ、とオーバーハンドでサーブを受け止めた。スピードと回転量に指が弾かれそうになるのを、眉間に皺を寄せて耐え、全力でボールを叩き返す。
「――っしゃぁら!!」
「っ……ナ、ナイスカット!」
「上出来だあああ、雫!!」
「あとは珠衣にお任せを!!」
カットが上がったと見るやいなや、すかさず珠衣が速攻に切り込む。ライトでは信乃も待っている。だが、二人に頼って楽をするつもりはない――。
「レフトッ……!」
レセプションの反動で重心が後ろに傾きかけていたのを、どうにか踏ん張って切り返す。視界の端でこちらを見ているはずの月美さんに目配せし、私は鋭く助走に入った。月美さんはぎりぎりまで迷い――最終的に、レフトへ回る私へトスをくれた。
タイミングはぴったり。私は利き手を振り上げ、上体を起こしながら空中に躍り出る。相手のブロッカーのおおよその位置を把握しつつ、何よりもパワーを重視して、渾身の一撃を正面へ叩き込んだ。
「だらああっ!!」
――どぱんっ!
と重厚な打音が響く。ワンタッチはない。ストレートへ抜けたボールは、直後、
「よいしょおー!!」
ぱんっ!
と何かにその進路を阻まれた。着地した私は目を剥いてそちらを見る。打ち込んだストレート――相手コートのBRに、両膝をついた体勢で、アンダーハンドを身体の横に伸ばしている天久保がいた。
っ……コースに入られてた!? いや、それだけじゃない……!
狙いが読まれていたこととはまた別の事実にも気づいて、私は歯嚙みする。
天久保の手は身体の『横に伸びて』いた――つまり、あいつは私のスパイクに『反応した』ってことだ。
ワンタッチはなかった。実質的にフリーで打ち込んだ渾身のスパイク。それが見切られたのだから、悔しくないわけがない。
いや……だが、今はそれより、あっちの攻撃への対処、を……っ!?
ブロックの構えを取り、相手の攻撃陣をチェックしていた私は、再び目を剥く。
「んでもってぇー――――カナミン先輩っ!!」
明るい声を上げるのは、天久保。さっきまで両膝をついていたはずなのに、いつの間にか立ち上がって、コート後方からアタックラインまでの距離を測っている。
まさかっ、ディグした直後だぞ……!?
と驚いていたら、そのまさかだった。天久保は全身をバネのようにしならせ、勢いよく助走に入る。同時にセッターがボールに触れ、ふわりと柔らかいトスが天久保に送られる――。
「やっほいッ!!」
――だんっ!!
と、完璧なタイミングのバックアタックが炸裂した。ボールはお返しとばかりに私のブロックのストレート側を抜け、がら空きのコーナーへ突き刺さる。やがて、しゅたっ、としなやかに着地した県内最強の左は、びしっ、と天を撃ち抜くようにピストルを掲げた。
「ふっふふーん! まーだまだ行くよーっ!!」
スコアは、9―5。
4点差に開いたことと、二桁得点にリーチが掛かったこと、拾われた上に抜かれたこと……
一度に様々なプレッシャーが私に圧しかかる。
「っ…………!!」
――が、それはそれとして。
「……県内最強の左…………あとで必ず泣かす……」
「ぶるるっ!? なにこれ、どこからか殺気を感じるよ!?」
わりと短気な私は、天久保の子供っぽさにちょっとだけイラっとしていた。




