A-7(可那) 勝負所
ラリーとラリーのちょっとした切れ間。
あたしは呼吸を整えながら、相手コートのサービスゾーンを睨みつけていた。
ここであの天久保のサーブ、か……。
Aコート、準々決勝――法栄大立華VS南五和。
南五和は、序盤から悪くない形で自分たちのプレーができていた。最初こそ月美や信乃あたりは緊張していたが、その影響もほとんど無かったようなものだ。
それでも、現在のスコアは7―5。2点のビハインド。それだけ南五和が法栄大立華の攻撃を受けきれていない、ということだ。
まだ中盤前とはいえ、あたしら的にこれ以上離されるのはかなりまずい。
だが、それは向こうにしてみりゃ、ここらで決めちまうか、ってなるわけで。
しかも厄介なことに、法栄大立華で最もそういうことをしてきそうな選手が、今まさにサービスゾーンに立っている。
あたしはレセプションの位置につくと、肺いっぱいに空気を吸い込んで、声を張り上げた。
「わかってんな、お前らああ!! このサーブは凌ぐぞ!!」
「「はいっ!!」」
こちらのコートの緊張が、一気に高まる。一方、サーバーの天久保は、笛が鳴ってからもたっぷり時間を使ってリズムを整えていた。
やがて、高々とトスアップ、そのまま助走に入る。
左のジャンプサーブ――! 初体験ってわけじゃねえけど、まあアレとコレは別物か――って、ごちゃごちゃ考えてる場合じゃねえ! どっからでも来やがれ!!
――ぱあんっ!!
と強烈な打音が響く。そして、その打音に違わぬ高速サーブが、うなりを上げてこちらに迫ってきた。
「信乃ッ!! 正面だ、真上に上げろ!!」
「はっ、い――!?」
信乃がレシーブの構えを取った、その瞬間だった。打球が鋭く外側へ切れる。信乃はその変化に反応したが、対応が間に合わない。ボールは信乃のアンダーハンドの縁を掠め、勢いそのままにコート後方へと飛んでいった。
「「っ……!?」」
サービスエース――恐れていた事態に、何人かのメンバーが声を詰まらせる。そこへ、
「へっへーん! どんなもんだっ!」
と、天久保のやたら明るい声が追い打ちのように響いた。が、そのとことん無邪気な口調のせいか、あたしは(自分でも意外なことに)不思議と苛立ちを感じなかった。むしろサービスエースを取られたことをすんなり受け入れ、冷静に周りを見ることができた。
「今のは仕方ねえ! 全員、頭を次に切り替えろ!」
「「はっ、はい!」」
「それと、信乃ッ!」
「可那さん……! す、すみませんっ、私――」
「おう、やられちまったな! で、次また来たらどうする?」
「っ……えっ、えっと――」
「そのでっけえ身体の全部使って受け止めろ! ちょっとでも上がりゃあカバーしてやる!」
「は――はいっ!!」
その意気だ、とあたしは信乃の背中を軽く叩き、キャプテンの小夜子に目配せする。小夜子はぱちんと手を叩いて、周りのメンバーに明るく声を掛けた。
「ここ一本、大事にしていこうね!」
「「おおおおっ!!」」
小夜子の柔らかい笑顔のおかげで、ぐらつきかけた雰囲気がどうにか立て直る。スコアは8―5。次で取り返すことができれば、まだ望みは繋がるはずだ。
……だが、もちろんこれくらいで済ますタマじゃねえよな、県内最強の左……。
あたしは膝に手を置いて、上目にネットの向こうを睨みつける。サービスゾーンの天久保は、大きな瞳を屈託なく輝かせつつ、また一方では、口元を不敵に微笑ませていた。




