29(美波) マリチカ
――成女ベンチ
一セットにつき二回まで取れるタイムアウト。その一回目。マネージャーの楪亜希子から飲み物やタオルを受け取って、私たち七人のスターティングメンバーは、ベンチの前で輪になる
「で、なんかノリでタイム取ったけど、あんたから特に何かあるってわけでもないのよね、マリチカ?」
呆れと諦めとちょっとの皮肉を混ぜて、私は鞠川千嘉に笑顔を向ける。マリチカは悪びれずににっこりと笑んだ。
「まーねぃ。ただなーんか流れ悪ーなーと思ってよー。どこがどうたーうまく言えねーけど」
ハイ、ぶん投げ頂きました。あんたのそれを拾えるのは成女じゃ監督とつばめだけだっての。
「すいません。私が捕まってるのが原因かと」(愛梨)
「あーちゃんは別にミスしてるわけじゃないと思うよ〜」(和美)
「和美に同じ」(芽衣)
「後ろから見てる限りじゃ単純に張り合われてるっつーカンジっすね。あたしらフツーにプレーできてっすもん。鈴木はなんかあっけ?」(さやか)
「そうですね……私も、こちら側に何か不備不良があるとは思えないです」(アン)
「そーかねぃ。まーそうなのかもねぃ。んー、いや、どーかねぃ」(マリチカ)
無責任か! そんなやつにはお仕置きだ!
「ひにゃっ!? オイこらヅカミーてめー! その許可なく揉む悪癖やめねーか!?」
許可があれば揉み放題ってかー!? こうなりゃ自棄だーっ!!
「亜希子ちゃんは!? 何かない!?」(私)
「わ、私ですか!? えっ、その、特には……」(亜希子)
「ヘーイ、なら困ったときの芽衣!」(私)
「私は来たトスを決めるだけよ」(芽衣)
「サマっさん、かっけーっす!」(さやか)
「じゃあ和美!」(私)
「わたしは来たトスを繋ぐだけだよ〜」(和美)
「ちゃんと決めねーかこのすっとこどっこい」(マリチカ)
「あ、あのっ、私、今度こそ決めますから!」(愛梨)
「いや、あーりが力んでもいいことねーって。やめとけやめとけ」(さやか)
「そーだぜぃ、アイリー! いっそ繋ぐつもりで打ちゃー決まるかもな!」(マリチカ)
「ちーちゃん、わたしのときと言ってること違う〜」(和美)
「先輩方、あの、そろそろタイム終わってしまいますが……」(アン)
「わーん、つばめもーん! 助けてー!!」(私)
ぴぃぃ――と無情なる笛の音。こうして私たちはまた一つ30秒だけ大人になる。
「まー細けーこたーいいか。おい、ヅカミー」
「なによ」
「次、バック上げろ」
「……オーケー」
あぁ、マリチカって本当マリチカ。
「ラガッサ、カット任せた」
「うす」
「あと、アイリー、ドロメダ。てめーらはトス来たらとにかく全力で打て」
「「はい!」」
「サマメィとバタミはまーいつものように頼んまー」
「ええ」「は〜い」
「で、全員、途中でなーんか流れ悪ーなーと思ったら、とりあえず私に上げろ」
粋でいなせな、いい女。
「決める」




