A-5(はる) 真芯を捉えた快音
珠衣のおかげで、県第一代表と肩を並べた南五和。
これはイケるのでは!? と思ったのも束の間、厳しい現実が私に襲いかかる。
「うりゃあ!」
「っと――!」
ばしんっ!
と真芯を捉えた快音が耳を打つ。法栄大立華のキャプテン先輩が放ったレフト平行。かなり気合を入れてブロックに跳んだのに、掠りもせずに決められてしまった。
スコア、2―1。
さらに、次のラリー。こちらのレセプションから、「っらあああ!」と可那先輩がびたっとナイスカットを上げ、その勢いのまま私に速攻が回ってくる。
今度こそイケるでしょ!!
とボールを思いっきり強打した、次の瞬間――、
「とーうっ!!」
「ぷぎゃっ!?」
びたん――!
と、わりと完璧にシャット喰らった。
ちょっ、現実が厳し過ぎるんだけど……!?
「わっはっは! どんなもんだー!」
そう言って喜びを露にしたのは、開幕珠衣とやり合っていた二年生ミドルブロッカー。
ぱっかりと大口を開け、能天気そうに笑うそいつを、私は『見上げる』。
ジャスト180センチ――法栄大立華の最長身選手。そして珠衣曰く、県内の二年生に二人しかいない、私よりも高いミドルブロッカーの一人。
その名も――、
「やってくれたな、新垣愛っ!」
「はいそこ! だから私は新垣愛だって!!」
「えっ……? だって試合前に珠衣が――」
「ちょっと珠衣ちゃーん!? さては本気で間違ってたなー!?」
というのは閑話休題――本気でどうしてくれよう、この四つ団子頭。
私にとって最大の武器は、175センチの身長だ。でも、私より高いこいつにその武器は通じない。しかも、こいつは珠衣と同じ県選抜経験者でもある。
身長だけではなく、経験や技術においても、私を上回るミドルブロッカー。
はっきり言って…………やばいっ!
「――でも、だからどうした……ってね!」
すーうっ、と大きく吸い込んだ息を、ふーうっ、とゆっくり吐き出す。
相手が強いのはやる前からわかっていたこと。その上で、今の自分にどれだけのことができるのか――ぶつかってみるしかない。
私は気持ちを切り替え、ネット際で相手のサーブを待つ。セッター先輩の打ったボールは、再び可那先輩の守備範囲に。
「っしゃああぁー、上がんぞ!! 今度こそ決めてやれ、はる!!」
「うおおおお行くぞおおおお四つ団子ッ!!」
「うおおおお来おおおおおい二つ団子ッ!!」
「えっと……なんかごめん」
ひゅ、と風切り音がした。直後、ボールが相手コートを跳ねる。月美先輩の十八番――ツーアタックが決まったのだ。スコアは、3―2。
「よしっ、ナイス囮だ、はる!! 次も頼むぞ!」
「ええっ!? はる、次も囮ですか!?」
「バカ! 今のは『そう思わせといてお前』の前フリだよ!」
「可那先輩が策士だ!?」
「まっ、これも『と見せかけてやっぱ囮』の前フリだがな!」
「うわわわっ!? はる、頭が混乱してきました!」
「むむむっ……なんかこっちまで混乱してきた!? つまり私はどうすれば――」
「ちなみに愛、もう一度同じことをしたら、観鈴と交替よ」
「叶実先輩!? 目が恐いんですけど!?」
などと騒がしいネット際へ、ローテが回り、いよいよ我らが県内最高の左――信乃が参戦する。
サーブは、月美先輩。たっぷり時間を使って打ち込んだボールは、FRを守るキャプテン先輩へ。キャプテン先輩はそれをしっかりとAカットに仕上げ、トスを呼ぶ。セッター先輩は、果たして、キャプテン先輩を選んだ。
立ちはだかるは――信乃・私・小夜子先輩の三枚ブロック!
「はっ!」「ぬりゃ!」「えいっ!」「むっ……!」
四者四様の気迫をぶつけ合う、空中戦。制したのは私たちだった。力づくで打ち込まれたクロスへのスパイクを、信乃六割・私四割くらいの貢献度で跳ね返すことに成功する。
「よっし! やったねっ、信乃!」
「うんっ……! ありがと、はるちゃん!」
そう言う信乃は、一点取った! という喜びの笑みではなく、一点取れた! という安堵の笑みを浮かべていた。その気持ちは私もよくわかる。というか私も内心はほっとした感のほうが大きかった。そのことは、手を合わせた瞬間に信乃に伝わったらしく、ちょっと驚いた目をされた。そして私たちは二人して苦笑し合う。まっ、こうしてお互い少しずつ緊張を取り除いていこうかね、みたいな感じに。
と、そこへ、
「やっるじゃねえか、お前らっ!!」
べしんっ!
と背中に軽快な衝撃。振り返れば、視界いっぱいに弾ける笑顔の可那先輩。
「その調子で暴れまくれ!!」
ひゅっ、ひゅっ、とキレのあるワンツーパンチを空中に放ち、可那先輩は後衛へ戻っていく。私と信乃は思わず苦笑し合った。緊張、どこかへ吹っ飛んじゃったね、なんて感じに。
そして続くラリー。月美先輩が二本目のサーブを放つ。しかし、ボールは向こうの紅色のリベロの守備範囲に飛んでいき、文句のつけようのないAカットにされてしまう。なんのこれしきブロックで喰らいつくまでよっ! と意気込むも――、
「やっほい!!」
ずばんっ――!!
と、こちらもいよいよ本格参戦してきた県内最強の左――天久保純が、その存在感を見せつける。信乃と私の二枚ブロックを、いとも容易く抜いてきたのだ。
けれど、もちろん……南五和だって黙ってない。
「やられたらやり返せよ、信乃っ!!」
「はいっ!!」
サーブ権が入れ替わる。後衛に下がったキャプテン先輩は、中央付近の空きスペースを狙ってきた。それを可那先輩が拾い上げ、月美先輩からFLの信乃へ。力強く振り上げられた左腕が、相手の二枚ブロックを押し破る。
「うわわっ――!? やったなー、生天目!!」
「あはっ! そうこなくっちゃね、信乃!!」
「ま、まだまだ……! こんなものじゃないですからっ!!」
新垣愛、天久保純、そして生天目信乃――平均身長180センチの三人が火花を散らす、県内最高峰の空中戦。
その最初の一回を制した信乃は、いつにもまして大きく見えた。
「……はるも負けてられないね……っ!」
そう、私はこっそりと呟く。そして、たぶんまったく同じことを考えているであろう赤井雫が、ぐるぐると肩を回しながら前衛に上がってくる。
スコア、4―4の同点。
ネット際の攻防は、まだまだ激しさを増していきそうだった。




