A-3(叶実) 聞き慣れた声
耳を傾ける。
隣に立つ彼女が発する、試合前で少し硬くなっている、聞き慣れた声に。
「さあ、まずは今日の一戦目だ。第一シードのわたしたちは、結果はもちろんのこと、内容も問われることになる。常に丁寧なプレーを心掛けるように」
厳かに語られるのは、上に立つ者としての矜持。県第一代表・法栄大立華を率いるキャプテンの、有難いお言葉である。
が、どんな集団にもこの手のしゃちほこばった話が苦手な子はいるもので――、
「おいそこ! 愛、純、ちゃんと聞いているか?」
「「あっ、ごめん(なさい)! 聞いてなかった(ませんでした)!」」
「……なるほど。一応、理由を聞こう」
「私は珠衣ちゃんに挨拶してました!」
「ぼくは信乃に手を振ってたよ!」
「そうか。ところで、わたしは今、試合前の大事な話をしている。わかるか?」
「「えー? だってココロン(心)先輩、いっつも同じこと言うし(言いますし)」」
「叶実、伶美、後輩がこう言っているんだが、おまえたちはどう思う?」
「私は立場上あなたを支持するわ、キャプテン」
「私も立場上あんたを支持するよ、キャプテン」
「渋々っ!? わたしの話はそんなに退屈なのか!?」
「龍守さん、そろそろコートに入る時間です」
「ほら見ろ! おまえたちがふざけているからひよりが怒っているだろう!」
「いえ、私は別に……」
「と、とにかく! 全員傾注っ! 叶実、伶美、観鈴、まるみ、もなみ、響子、ひより、愛、純、一凪、丹凛!!」
「はい」「はーい」「はいさー」「はいはい」
「バラバラっ!?」
「みなさん、油断せずにいきましょう」
「「おおおおっ!!」」
「この統率力の差! おい、ひより! おまえさてはキャプテンの座を乗っとる気だな!?」
「リベロはキャプテンになれませんが……?」
ぐだぐだだった。私は苦笑を押し殺し、隣の人物の肩を叩いて、小声で言う。
「時間よ、キャプテン」
「お、おう! よしっ! 行くぞ!」
強引にそう締めくくり、彼女はコートへと先陣を切った。その表情が、サイドラインを跨いで戦場に入った瞬間、きりりと引き締まる。先程までとはまるで別人――県第一代表・法栄大立華のキャプテンに相応しい、凛々しい顔つきだ。
「お遊び気分もここまでだ。切り替えろよ。イージーミスが命取りになる」
三年・キャプテン、レフト・175センチ、龍守心。
「任せてくださいってー、心先輩!!」
二年、ミドルブロッカー・180センチ、新垣愛。
「……ラインアップ……」
三年、ミドルブロッカー・171センチ、豊見もなみ。
「昨日と、変えてきてますね」
二年、レフト対角・170センチ、小松里一凪。
「うちと同じS3ね。これは……まあ、そういうことでしょう」
三年・副キャプテン、セッター・165センチ、宮野叶実こと、私。
「いいねいいねっ! 真っ向勝負だよ、ノノリン!!」
二年、スーパーエース・177センチ、天久保純。
「………………」
そして三年、リベロ・162センチ――三園ひより。
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心 叶実 もなみ
愛 純 一凪 L:ひより
副審によるラインアップのチェックが終わり、ボールが流される。サーブは南五和から。ひよりと愛が交替し、全員がそれぞれのコートポジションにつく。
「まずは一本! 集中していくぞ!」
「「おおおおっ!!」」
心の力強い声に、今度こそ全員が揃って答える。
そして、プレー開始の笛が鳴った。
登場人物の平均身長:164.6cm




