A-2(小夜子) 静かな息遣い
耳を澄ませる。
観客席の途切れないざわめき、ビーズ入りペットボトルのチープで優しい音――それらは、厚い空気の膜の外に押しやられたように、遠くに聞こえる。それでいて、隣に立つ逢坂月美ちゃんの静かな息遣いや、高鳴る心臓の鼓動などは、まるで一つの布団の中で寄り添っているみたいに、間近に聞こえた。
ブロック大会県予選、第二日目、Aコート、準々決勝。
法栄大立華VS南五和。
プレー開始前、整列と挨拶を終えたあとの、最後の全体集合。
「さあ、いよいよ来るところまで来ましたね」
胸の前で両手の指を合わせ、爽やかな笑みを湛えるのは、南五和高校女子バレーボール部顧問――柴山新太先生。来月に不惑を迎える、通称『ミスタ・ダンディ』。校内随一のハンサム教師(担当は英文法)だ。
「作戦は既に伝えた通りですが、今一度ラインアップを確認してください。ミス・烏山」
「はいっ! 烏山です!」
先生に促され、作戦ボードを持ったマネージャー・烏山史子ちゃんが前に出る。スタメンやローテは二回戦までと変わっていないが、スタート位置だけが普段と違っていた。
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小夜子 月美 珠衣
はる 信乃 雫 L:可那
いつもの私が後衛スタートのラインアップから、ちょうど半周回った形。法栄大立華の県内最強の左・天久保純さんに、私たちの県内最高の左である生天目信乃ちゃんをぶつけるための調整だった。
「さて。皆さんもご存知かと思いますが、相手の法栄大立華はとても強く、また同時にとても幸運なチームでもあります。なぜなら彼女たちは県内でまだ一度も負けたことがなく、そしてまた彼女たちは――まだ一度も南五和と対戦したことがない」
そう言って、きらりと白い歯を見せる、柴山先生。
「様子見・温存・手心の類いは、一切必要ありませんよ。最初から全力で倒しにいきましょう。私からは以上です。では……ミス・江木」
「はいっ!」
声を弾ませ、私はチームの輪の中心に手を差し出した。周りのメンバーが我先にと手を重ねていく。私はメンバーの顔をぐるりと見回してから、すうっ――、と大きく息を吸い込んだ。
「南五和ああぁー! ふぁいとおおぉー!!」
「「おおおおおーっ!!」」
高らかに声を上げ、ぱちぱちと互いに手を叩き合って、私たちはコートへと向かう。




