200(叶実) 変化
「「よろしくお願いしますッ!!」」
試合開始の笛が鳴り、わあっ、と歓声が上がる。ネットの向こうから迫りくる、真っ白なユニフォームの十一人と、真っ赤なユニフォームの一人。私はそれを端から端へと眺めていく。
紅一点のコントラストが鮮やかな、玉緒第二高校。
前回大会優勝校である私たちにとって、県大会の二回戦とは多くの場合、通過点でしかない。だが、この一戦は少しばかり特別だった。というのも、うちのリベロ――三園ひよりの出身が北地区で、今から戦う玉緒第二のスタメンの半分が、彼女の元仲間なのだ。
また、ひよりたちと中三の夏に対戦している私にとっても、彼女たちは知らない相手ではない。
「どうも、板野さん。今日はよろしくお願いします」
「よろしく。ひよりとはどう? うまくやってる?」
「それはもう。試合が始まれば、嫌でもわかると思いますよ」
「ひゅう、さすが宮野さん! 今日も冴えてんなー!」
玉緒第二のエース・板野万里さんは爽やかに笑いながら、握手する手に力を込めてくる。お返しに脇腹をつっつくと、ひゃあ、と板野さんは悲鳴を上げた。
「この屈辱は試合で返す……! とまれ、あいつが元気にしてるなら何よりだ」
「そう言っていただけると。今年の法栄大立華はさらに上を目指すので、応援のほどよろしくお願いします」
「おう。期待してるよ、全国優勝!」
これから試合をするということをしばし忘れ、私たちはふふっと笑い合って、それから視線を横に向けた。そこにいるのは、固く手を握り合う、緋血と紅日。
――ひよちゃん……会えて嬉しい。
――私もです、緋上さん。
――今日は、全力で挑みます。よろしくね。
――こちらこそ。
言葉は少なく、表情はいつも通りだが、それでもひよりが心を開いているのが雰囲気でわかる。相手は二年生の緋上真直さん。玉緒中の後輩で、ひよりから『紅』を受け継いだ子だ。三年前の私たちとの試合にも、彼女は唯一の二年生スタメンとして出場していた。
私にも当然ながら後輩がいるが、南地区の出身者はほとんどが南地区にとどまるので、ああいう、進学で地区が別々になって県大会で再会、みたいなシチュエーションはちょっと羨ましい。
なんて微笑ましく見守っていたら、ぴくっ、とひよりの表情が一瞬変化した。
試合中だってほとんど眉一つ動かさないあの鉄仮面が……いったい何事だろう? 私は聞くともなく聞いていた二人の会話を思い返す。
確か、緋上さんが、明るく笑って言ったのだ。「そういえば……」と。
――地区大会で、ひかちゃんに会ったよ。
……ふうん?
ひかちゃん、とな?
緋上さんの口ぶりからして、ひよりとも緋上さんとも親しい人物のようだが……幼馴染み? あるいは名前の響きからしてひよりの――ああ……そう言えば、いつだったか、ひよりが妹がどうとか言ってたような……。
「……ひよりの、妹……」
誰にも聞こえないように、口の中で呟く。
「およ? どうしたの、カナミン先輩?」
「ううん、どうもしないわよ」
「えー、うそうそ! 今なんかにやにやしてたよね!」
「見間違いじゃないの? さ、集合するわよ」
「あっ、ちょっと、カナミン先輩ー!」
純を半ば無視して、私はベンチに戻る。『ひかちゃん』なる人物とは何者なのか――個人的に気になる案件ではあるが、今は試合に集中だ。
三年前の夏に私たちを苦しめた、かつての玉緒中、ひよりの仲間たち。
私たちは、ある意味で、彼女たちからひよりを搔っ攫った立場にある。
そのことを、ひよりにも、ひよりの仲間たちにも、後悔させない。
ひよりにとって、法栄大立華のリベロをしている今こそが、最高。
そう思わせる試合をしなければならないのだから、生半可な気持ちでは臨めない。
ブロック大会県予選、第一日目、Aコート、第七試合。
第一シード・法栄大立華VS北地区二位・玉緒第二。
全身全霊でもって、薙ぎ払うとしよう。




