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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第九章 AT和田総合体育館(I)
323/374

200(叶実) 変化

「「よろしくお願いしますッ!!」」


 試合開始の笛が鳴り、わあっ、と歓声が上がる。ネットの向こうから迫りくる、真っ白なユニフォームの十一人と、真っ赤なユニフォームの一人。私はそれを端から端へと眺めていく。


 紅一点のコントラストが鮮やかな、玉緒たまのお第二高校。


 前回大会優勝校である私たちにとって、県大会の二回戦とは多くの場合、通過点でしかない。だが、この一戦は少しばかり特別だった。というのも、うちのリベロ――三園みそのひよりの出身が北地区で、今から戦う玉緒第二のスタメンの半分が、彼女の元仲間(チームメンバー)なのだ。


 また、ひよりたちと中三の夏に対戦している私にとっても、彼女たちは知らない相手ではない。


「どうも、板野いたのさん。今日はよろしくお願いします」


「よろしく。ひよりとはどう? うまくやってる?」


「それはもう。試合が始まれば、嫌でもわかると思いますよ」


「ひゅう、さすが宮野みやのさん! 今日も冴えてんなー!」


 玉緒第二のエース・板野いたの万里ばんりさんは爽やかに笑いながら、握手する手に力を込めてくる。お返しに脇腹をつっつくと、ひゃあ、と板野さんは悲鳴を上げた。


「この屈辱は試合で返す……! とまれ、あいつが元気にしてるなら何よりだ」


「そう言っていただけると。今年の法栄大立華(私たち)はさらに上を目指すので、応援のほどよろしくお願いします」


「おう。期待してるよ、全国優勝!」


 これから試合をするということをしばし忘れ、私たちはふふっと笑い合って、それから視線を横に向けた。そこにいるのは、固く手を握り合う、緋血リベロ紅日リベロ


 ――ひよちゃん……会えて嬉しい。


 ――私もです、緋上ひのうえさん。


 ――今日は、全力で挑みます。よろしくね。


 ――こちらこそ。


 言葉は少なく、表情はいつも通りだが、それでもひよりが心を開いているのが雰囲気でわかる。相手は二年生の緋上ひのうえ真直ますぐさん。玉緒中の後輩で、ひよりから『リベロ』を受け継いだ子だ。三年前の私たちとの試合にも、彼女は唯一の二年生スタメンとして出場していた。


 私にも当然ながら後輩がいるが、南地区の出身者はほとんどが南地区にとどまるので、ああいう、進学で地区が別々になって県大会で再会、みたいなシチュエーションはちょっと羨ましい。


 なんて微笑ましく見守っていたら、ぴくっ、とひよりの表情が一瞬変化した。


 試合中だってほとんど眉一つ動かさないあの鉄仮面が……いったい何事だろう? 私は聞くともなく聞いていた二人の会話を思い返す。


 確か、緋上さんが、明るく笑って言ったのだ。「そういえば……」と。




 ――地区大会で、ひかちゃんに会ったよ。




 ……ふうん?


 ひかちゃん、とな?


 緋上さんの口ぶりからして、ひよりとも緋上さんとも親しい人物のようだが……幼馴染み? あるいは名前の響きからしてひよりの――ああ……そう言えば、いつだったか、ひよりが妹がどうとか言ってたような……。


「……ひよりの、妹……」


 誰にも聞こえないように、口の中で呟く。


「およ? どうしたの、カナミン先輩?」


「ううん、どうもしないわよ」


「えー、うそうそ! 今なんかにやにやしてたよね!」


「見間違いじゃないの? さ、集合するわよ」


「あっ、ちょっと、カナミン先輩ー!」


 純を半ば無視して、私はベンチに戻る。『ひかちゃん』なる人物とは何者なのか――個人的に気になる案件ではあるが、今は試合に集中だ。


 三年前の夏に私たちを苦しめた、かつての玉緒中、ひよりの仲間たち。


 私たちは、ある意味で、彼女たちからひよりを搔っ攫った立場にある。


 そのことを、ひよりにも、ひよりの仲間たちにも、後悔させない。


 ひよりにとって、法栄大立華(私たち)のリベロをしている今こそが、最高ベスト


 そう思わせる試合をしなければならないのだから、生半可な気持ちでは臨めない。


 ブロック大会県予選、第一日目、Aコート、第七試合。


 第一シード・法栄大立華VS北地区二位・玉緒第二。


 全身全霊でもって、薙ぎ払うとしよう。

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