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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第九章 AT和田総合体育館(I)
320/374

197(閏) 夜の支配者

 緊迫すればするほど、感覚とは研ぎ澄まされていくものだ。ワタシは指先に滴り落ちてきた汗を爪で弾き、息を整える。にしても――、


「いいなお前ら! ここが正念場だぞ!」


「「おおおお!」」


「声が小せえええ!」


「「うおおおおおお!!」」


 終始このテンションかヨ。なんだかこっちまで笑えてくる。チームとしては二度目の対戦らしいが、ワタシは初対戦。


 ブロック大会県予選、第一日目、Aコート、第六試合。


 南五和みなみいつわVS津久和(つくわ)第一、第二セット。


 スコア、23―21。


 県内最高のサウスポーこと生天目なばため信乃ののに決められ、あちらのローテが回ったところ。両校のローテは現在、こんな感じだ。


 ――――――――

 優妃  灯 流

 かなめ 閏 蒼子


 ―――――――――

 月美  珠衣 雫

 小夜子 可那 信乃


 南五和というチームは、なんかそれぞれ好き勝手にやってるように見えて、実際好き勝手にやっているのに、意外にもそれが破綻しない。ワタシはてっきり生天目信乃のワンマンチームだと思っていたが、その見立ては間違っていたらしい。生天目信乃が後衛バックに下がり、二枚攻撃になっても、向こうの放つプレッシャーは変わらず強烈だ。


うるう、調子はどう? ダメそうなら、セッター代わるわよ」


「冗談きついっすヨ、蒼子アオさん。ぜんぜんイケイケっす」


「ホント可愛げのない後輩ね、あなた」


 蒼子アオさんはワタシの頬っぺたをつっつき、「ふふふっ」とご機嫌に微笑む。この人とは小学校クラブ時代からの付き合いだが、窮地になればなるほどハイになって周囲に絡む悪癖は、高校でも健在のようだ。


「はいはいっ、前衛まえ三人! レセプションはいいからとにかく決めてよね! で、かなめ、あなたはレシーブ!」


「応でござる! して、蒼子そうこ氏は?」


「私はみんなを応援してるわ!」


「働けヨ、キャプテン」


「いやね、冗談よ」


 はしゃいじゃってマア……ワタシやともりはともかく、高校から知り合った他のメンバーはよく一緒にやってこられたもんだナ。


 と、蒼子アオさんの悪趣味に付き合っている場合じゃない。生天目信乃がサーブを放つ。ボールは、なんの因果か、蒼子アオさんのところへ。


「行くわよ、うるう――それっ!」


 ぴたんっ、


 と理不尽なほどにほどよい球質でどんぴしゃな軌道のレセプションが返ってくる。バレーの腕と人格のまともさは反比例するんじゃないカ? というワタシの仮説がまた一つ補強された。


「ッシ、かましちゃってください、ガルさん!」


 ワタシは二年生ミドルブロッカーの矢井田やいだながるさんにAクイックを上げる。スイングスピードの速いガルさんの腕が、ひゅ、と降り下ろされた。


「おっとどっこい!」


 ぱぁん!


 とスパイクとブロックの音が重なる。佐間田さまだ珠衣みいだ。ちっ、今のガルさんの速さでも抜けないのかヨ――!


「ナイスワンタッチ、珠衣ミィちゃん!」


 危なげなくレシーブが繋がる。ゆったり飛んでくるボール。セッターの逢坂おうさか月美るみは、それをレフトの赤井あかいしずくへ送る。そして、


 だんっ!


優妃ユウちゃん!」


「わかってる――!」


 とインナーへ抜ける強打。それをFLフロントレフト阿部あべ優妃ゆうきさんが上げた。ナイスカットっす、とワタシは落下点へ走る。


「閏、悪いっ、ちょっと近いぞ!」


「問題ないっす! ともり、入ってこい!」


「ひひゃひゃ!!」


 ワタシはネットに背中を向けて跳び上がり、相手コートへ行きかけていたボールを両手で捉える。同時にワタシから見て左側にいる灯の姿を確認。既に踏み込みに入っている。ワタシとの距離が開き過ぎないようにセンター寄りのライトへ。且つ速攻クイック気味の早いテンポで。そこそこ難易度の高い連携だが、これくらいできないでどうするヨ――!


 ひゅ、ぱあん!


 ヨシこれは決まったナ! と確かな手応えを感じつつ、ネットに引っかからないよう身を屈めて着地。瞬間、


「あ――!?」


「おまぶっ!?」


 がっごぼっ!


 と鈍い音が聞こえた。何が起こった? イヤ、でも、とにかく重要なのは、ボールが落ちた音がしなかったことだ。ワタシは急いで相手コートに振り返る。


可那かなちゃん!? 大丈夫!?」


「ばひぼべ(大丈夫)、へっぶ(それより)、ぼー(ボール)!!」


 鼻を押さえながら叫ぶ有野可那カナリア。その視線は上を向いている。ってことは、ボールは――。


「さすが可那さん! ナイス顔面レシーブですっ!」


珠衣ミィのワンタッチのおかげですね!」


「ほがーっ! ほがふぶっ、ほがほがががぶほ!」


「『違ーう! せっかくぴったり拾えそうだったのに、お前が触って軌道が変わったから顔面で受けるはめになったんだよ!』だって!」


「上がってるならなんでもいいです――レフト!」


しずくの言う通り! じゃ、珠衣ミィはライトで!」


「ほががー!」


「『決めろー!』って、可那ちゃん、また鼻血わわわ……っ!?」


 どたばたしている南五和陣営。それでもどこか余裕があるのは、ボールが宙高く浮いているからだ。どうやら、灯の打ち込んだスパイクに佐間田珠衣が触れ、それが有野可那カナリアの顔面に当たったらしい。にわかには信じ難いが、ともあれ今は反撃に対処しなくては――ボールは最高到達点まで上がりきり、くるくる回転しながらネット際へと下りてくる。その間に相手の攻撃陣アタッカーを確認。レフトとライトの両サイドに開いている。本命はライトかナ、なんて思いつつワタシは守備位置プレイヤーポジションを微調整して――、


「どこ見てんの、閏っ! 前まえー!!」


 なに言ってんすカ蒼子アオさん、と、思った、次の瞬間、




 ――すう、




 とボールが目の前に落ちてきた。


「ハ……?」


 予期せぬ事態に処理が追いつかない。気づいたときには、ぽんっ、とボールが足元を跳ねていた。ようやく我に返って相手の前衛フロントを見る。レフトの赤井雫とライトに回った佐間田珠衣は動いていない。なら『誰が』このボールをワタシの前に落としたのか? 考えられるのはただ一人――。


「そうカ、これが……」


 闇の中、それは音もなく獲物を狩るという。


 喩えて曰く、鋭い爪と広い視野を持つ、夜の支配者。


 あの女神様(丹羽さん)にツーアタック『決定率』で上をいくセッター。噂は聞いてたし、警戒していたし、しかもワタシは同業者だってのに、完璧に出し抜かれた。


「これが、中央の――〝(Night)(Watch)〟っすカ……」


 ほとんど芸術の域だった。ツーならワタシも今朝の明星めいせい学園との試合で一発決めてるが、それが児戯に思えるほどに。いやはや魅せつけてくれるっすネ、まったく……。


「未来の県内最強の司令塔セッターこと、うるう、調子はどう? ダメそうなら代わるわよ」


「……勘弁してくださいヨ、蒼子アオさん。こっからじゃないすカ」


「大したガッツね。まあ、何はともあれ一旦仕切り直しましょ!」


「うっす」


 スコアは、ついに、24―21。


 南五和のマッチポイント。


 いよいよ崖っぷちに立たされたところで、タイムアウト。ただし、取ったのは南五和のほうだった。


「可那ちゃん? 本当に大丈夫?」


「だから大袈裟だっての。痛くも痒くもねえって」


「でも、やっぱり血が止まるまでは、引っ込んでたほうがいいよ」


「あたし抜きでやれるっつーのか?」


「それは……その――」


「なんだよ?」


「と、とにかく。あと一点だし、この場はわたしたちでなんとかするから」


 どうやら南五和あちらは、負傷した有野可那カナリアを一時的に下げるつもりらしい。それを聞いた蒼子アオさんがワタシに耳打ちしてくる。


「で、うるう、どうしたい?」


「……かましてやりますヨ」


「いい返事ね」


 ほどなくして、タイムアウトが終了。南五和はミドルブロッカーの結崎ゆいざきはるがコートに戻ってきた。有野可那カナリアはぶすっとした表情でベンチ待機。あちらのサーブは引き続き、生天目信乃。


 いくらリベロ不在とは言え、マッチポイントである南五和あちらの優位は揺らがない。こちらは三連続得点が求められる上、一点でも失えばその瞬間に負け。でも、だからこそ――。


「灯……『アレ』やるゼ」


「ひゃひゃひゃ!」


 未だ練習での成功率は五割を超えていない。だが今なら……このギリギリの状況でなら、むしろイケそうな気がする。ミスれない緊張感や逢坂月美の存在がワタシの集中を高めてくれる。あと、単純に負けたくないんだよネ。


 ぴっ、と笛が鳴った。プレー再開。生天目信乃のサーブ。かなめさんが落下点に入る。レセプションは――ばっちし! 一度肩越しに灯にアイコンタクト。そこからは先、ワタシの視界に灯の姿は映らない。感覚を研ぎ澄ます――踏み込みの音、息遣い、気配、指先の感触――イメージするのは頭のてっぺんから後ろへ伸びる風のトンネル。あとはそこへ、ボールを、流し込む……!


 ひゅ、


 とトスを送って、瞬間、悟る。これは決まった――今度は、間違いない。




 ぱあんッ!




 背骨が芯から震えるような快音が響く。驚きに固まる相手の姿を横目で確認。ワタシは背後を振り返り、灯と手を合わせた。


「D、クイック……?」


 乾いた声を漏らす逢坂月美。ワタシは不敵に笑いかける。


「〝融通一閃(Back Gate)〟――ぜひそう呼んでくださいネ」


「……えーっと……」


 ひくっ、と逢坂月美は頬を引き攣らせ、ぎこちない動きでベンチに振り返った。


「ごめん、可那。やっぱ戻ってきてほしいかも」


「だから言っただろうがよー! ってか言われなくても戻るわ!」


 ふんっ、と鼻からティッシュを吹き出して、有野可那カナリアが窮屈な鳥籠ベンチから大空コートに飛び出す。いやなんかすっごい楽しそうっすけど……こう、ちょっとは怯むとかないのかヨ。


「よう、かなどめ新堂しんどうっつったな――面白えもん見せてくれた礼に、こっちも一つ、派手なの見舞ってやるよ」


 言いながら、有野可那カナリアは生天目信乃の前に半身になって立つ。その身長差30センチ超。有野可那カナリアの存在感もあいまって、後ろに控える生天目信乃がより一層大きく見える。


「翼を広げろ、信乃。そして」


 生天目信乃は今、後衛――考えられる攻撃手段は一つしかない。


「一撃でほふれ!」


「はいっ、おほふりします!」


 オホフ……もう、なんていうカ、いやはやどうも。


「……返り討ちにしてやりますヨ」


 バックアタックでもなんでも――来るなら来やがれっすワ。

登場人物の平均身長:164.2cm

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