28(愛梨) Aクイック
音成女子VS城上女子+つばめさん。
現在、8―8。マリア様ローテ(アンver)で広げた点差を埋められ、同点。
内心、かなりテンパってる。
「ヘーイ、愛梨、ちょっと硬くないかー?」
美波さんがすれ違い様に揉んでくる。ちょ、やめてください。
「んー……そう見えますかね?」
「ま、少しね。どうする? もう一本くらいいっとくー?」
「いただけるなら、お願いします」
「オーケー。今度は流すから、ターンで打ってみ」
ひらひらと手を振って、美波さんは定位置につく。
相手のサーブは、藤島透。私は直接戦ったことはないが、県大会の会場で見かけた記憶がある。黒を基調としたユニフォームに、あの体格。遠目にも迫力のある選手だった。
その藤島のサーブは、私の頭上に飛んでくる。取るだけならオーバーハンドで取れると思うが、この軌道なら、
「あーり! 見えねーよ! 邪魔邪魔!!」
「悪い! よろしく、さーや!」
私はカットをリベロの浦賀さやか――さーやに任せ、意識を攻撃に切り替える。
さーやのカットはしっかり美波さんに返る。それを見て私はAクイックに入る。向こうのブロッカーは北山梨衣菜。先ほどからマンツーマンで私をマークしている城上女の一年生。その身体能力は恐るべきだが、成女のレギュラーとして初心者にそう何度も遅れを取るわけにはいかない。
たんっ、
跳ぶ。打ち合わせ通り、少しレフト寄りに流れたトスが来る。北山のブロックは高くて厚いが、ネットを挟んで私の真正面にしか飛ばないから、このままターンで打てばかわせる。私は可能な限り全力でボールを叩いた。
がっ、
時間差で現れた新たな手が、私のスパイクを弾く。つばめさんの手だ。北山にはコミットで跳ばせておいて自分はリード(トスを見てから飛ぶブロック)ですか。文字通りの手加減なし。しまったな。決めよう決めようと思って下に叩きつけ過ぎた。今のは深いところに打っていれば抜けたはずだ。
「ワンタッチ!!」
「オーライです」
上に高く跳ねたボールは、エンドライン際まで飛んだ。そこには既にリベロが回り込んでいる。今度は相手のチャンスボール。こちらが守る番だ。
向こうの攻撃は三枚。けれど、初心者の北山を除けば、実質二枚みたいなものだ。つばめさんか、マチ子。
私は定位置の中央から、二歩分、マチ子側に移動する。つばめさんに上がるとしたらライトセミだろうから、この距離ならトスを見てからでも間に合う。
どっちだ。つばめさんか、マチ子か。
――ばんっ!
不意に風が頬を叩いた。何が起こった? 私は音のしたほうを見る。腕を振り降ろした体勢の北山が、驚いたような顔でネット際に立ち、こちらのコートを見ていた。
「まりーな、ナイスキー!! よかったよー!!」
「えっ、お、おお!? なんかわかんないけど、やったっス!!」
嘘……まさかAクイックを打ったのか? 今日スパイクのステップを覚えた初心者が? ぶっつけ本番で?
「よっしゃっ! いっちょタイムすっか!!」
ぱちんっ、と手を叩いて鞠川千嘉さんが言った。つばめさんがいない今は美波さんがゲームキャプテンなので、改めて言い直す。
「ヘーイ! というわけで、タイムアウトお願いしまーす!」
ぴぃぃ――と長めの笛がなった。
<バレーボール基礎知識>
・ゲームキャプテンについて
バレーボールでは、キャプテンと名のつく役職が二種類あります。
『チームキャプテン』と『ゲームキャプテン』です。
チームキャプテンは、キャプテンマーク(番号の下の横棒)をつけた人で、そのチームの選手代表として、審判・相手チームへの挨拶、事務手続きなど、様々なことをします。
立場的には主将や部長と似ていますが、必ずしも主将・部長=チームキャプテンとはなりません(例えば、部長がスタメン入りしていない場合など)。
ゲームキャプテンは、試合中における選手代表であり、タイムアウト・メンバーチェンジの要求、審判への質問など、他の選手にはない権限を持ちます。
チームキャプテンがコート内にいる場合は、チームキャプテン=ゲームキャプテンとなります。チームキャプテンがなんらかの理由でコート内にいない場合、別の選手をゲームキャプテンとして指名します。
なお、リベロは、チームキャプテン・ゲームキャプテンともに務めることができません。
音成女子では、正キャプテンの相原さんがチームキャプテンを務めています。しかし、相原さんはミドルブロッカーで、後衛ではリベロと交替するため、常時コート内にいることができません。
ゲームキャプテンがコートから出る場合、その選手はコート内に残っている他のメンバー(リベロを除く)から、代理のゲームキャプテンを指名しなければなりません。
音成女子では、特にイレギュラーがなければ、副キャプテンでセッターの獅子塚さんが相原さんからゲームキャプテンを引き継ぐことになっています。




