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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第九章 AT和田総合体育館(I)
318/374

195(かなり) 簡単に取れる一点

 試合を経験するたびに思い知らされる。


 簡単に取れる一点なんて、ない。


「たあああ――っ!」


 ぱあん!


 と全力でレフト平行を打つ。いい感じ。でも、


杏子あんずさん、ワンチです!」


「よくやった、瑠璃るり!」


 決まらない。繋がれる。そこから二段トスでレフトへ。アタッカーは〝帚星(Tail)の尾(Chaser)〟――尾崎おざき玲子れいこ


「っらあああ!」


 だあん、


 と快音。強打がクロスへ抜ける。


「上げろ、口笛ちっこいの!」


「言われなくともさ、睦美でっかいの!」


 たたたた――たんっ!


 と口笛ひゆるさんが軽やかに跳ぶ。ボールは睦美むつみさんの上へ。睦美さんはそれをライトの美桜みおさんに繋いだ。


「ぶっ飛ばせ、美桜ッ!」


「任せて――にょん!」


 ごっ、


 と打ったボールがブロックにぶつかる。が、それはネットを越えなかった。


「んにょ!? ごめん、フォロー!」


「ほい来た!」


季奈子きなこナイス! かなり、行くよっ!」


「はい!」


 祐子ゆうこさんからのトス。ラリーの中だが助走は十分取れている。二段トスのレフトセミ。踏み込んで――打つ!


 ぱあん!


 とジャストミート。いい感じ。でも、やはり、簡単に取れる一点なんて――ない。


「っ!?」


 たんっ、


 とボールは私の背後に落ちた。ブロックされたのだ。


 スコア、20―21。


 藤本ふじもといちいのサーブミス、次いで季奈子さんの好プレー。そのまま一気に押し切れると思ったら、もう一点差。しぶとい。しかも、今の向こうの前衛フロントは全員170以上。この高さはそれだけでプレッシャーだ。


「焦る必要はねえ。レセプションから一本、確実に決めてくぞ」


 睦美むつみさんに背中を叩かれる。私は頷いて、汗を拭い、気持ちを立て直す。ぎりぎりの勝負なら南地区大会でも経験した。これくらいでは崩れない。


 次のラリーは、一撃で決着がついた。口笛ひゆるさんのAカットからの、季奈子さんの速攻クイック。散ったブロックの隙を突いた。相手に高さの利を活かさせない。三枚攻撃の定石だ。


「っしゃあ! がんがん攻めていくぞ!」


「「おおおおっ!」」


 スコア、20―22。


 ローテが回り、美桜さんが後衛バックに。セッターの祐子さんが前衛フロントに上がる。ここで突き放せれば大きい――が、相手も落ち着いていた。


「やっほい!」


 たあんっ、


 とミドルブロッカー・宝円寺ほうえんじ瑠璃るりのお返しのようなAクイックが炸裂。


 スコア、21―22。


 相手のローテが回り、リベロが抜ける。サーバーは宝円寺。ここは一本で切りたい。


 ばしっ、とジャンプフローターが放たれる。私はそれを自分でカットし、レフトへ回る。祐子さんのトスは――私へ。


 決めてやる。ブロックは二枚。ネットに対してほぼ直角に踏み込んで、腕を振りかぶる。直前、視界の端でFLフロントレフトを守る尾崎玲子の立ち位置を確認。あそこなら――これは、届くまい。


 とんっ、


 とフェイントでブロックをかわす。尾崎玲子の位置からは私の姿はブロックに隠れて見えない。反応が一瞬遅れる。そしてその一瞬が明暗を分ける。


「ちっ……!」


 落ちていくボール。決まれ! 着地した私はそう念じた。声に出していたかもしれない。直後、


「でいやぁー!」


 ロケット弾のように選手ひとが突っ込んできた。BCバックセンターから。宝円寺瑠璃。でも、なんで?


「瑠璃っ、おま、なんで!?」


「勘です!」


「ふざけんな!」


「え! なんでファインプレーしたのに怒られるんですか!?」


「危ないからだよっ! せめて声くらいかけろ!」


 フライングレシーブして床に伸びている宝円寺に説教しながら、尾崎玲子がアンダーハンドでボールを繋ぐ。ライトの斎藤明晞への二段トス。「んー」と斎藤明晞はゆったりした動きでトスに合わせ、ほぼ助走なしでひょっと跳び上がると、


「えいやっ!」


 だんっ!


 と想定外の強打を放ってくる。ジャンプがゆったりしていたから、その緩いリズムにつられてブロックが甘くなってしまった。激しい衝撃に手が弾かれ、ボールはコートの外へ。


 スコア、22―22。


 追い、つかれた……。


「今のはしてやられたな。ったく嫌らしいヤツだぜ、あの〝明の(Gleam)一番星(of Hope)〟はよ」


「睦美さん……」


「ま、やられたもんは仕方ねえ。それより、さっきのフェイント、よかったぜ。次もその調子で攻めていけ」


 はいっ! と私は声を張る。睦美さんは私の気負いを見抜いて、骨太な手で私の肩をぐりぐりと揉んだ。


「そんなにアレコレ考えんな。いいか? 状況はシンプルだ。ここで一本決めれば、ローテが一つ回る――おまえが今わかってりゃいいのは、それだけだ」


 言うと、睦美さんは、がぱり、と口を開いて笑みを作る。特撮映画の火を噴く怪獣のような、口の端から白い煙が漏れ出てきそうな、荒々しい笑み。睦美さんは「ま、とにかく頼むぜ!」と私の肩を叩き、のしのしと大股に定位置コートポジションに戻った。BLバックレフトの、定位置コートポジションに。


 ふぅ、と私は深呼吸する。そうだ。状況はいたってシンプル。


 ここで一本決めれば、ローテが一つ回る。そうすれば――。


 ふと、ネットの向こうの斎藤明晞と目が合った。にやにやと私を見ている。理由は不明。なので、無視。相手にしない。目の前のプレーに集中。


「さああっ、来い!」


 私は声を張り上げ、相手を見据える。斎藤明晞が肩を竦めたようにも見えたが、その時にはもうサーブが放たれていたので、確かめることはできなかった。

登場人物の平均身長:164.2cm

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