表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第九章 AT和田総合体育館(I)
317/374

194(明晞) 正念場

「そおー……りゃ!」


 ぱんっ!


 と私にしてはかなり気合を込めて打ち、ボールはいい感じにクロスへ抜けていった、のだけれども――、


「おっ、ぶね!?」


 べちん、


 とBLバックレフト玉原たんばら睦美むつみさんにレシーブされてしまう。それも片手ワンハンドで、ひっぱたき返すように。いやあ参っちゃうよねえ。いくら超重量級のパワーが売りだからって、人の渾身のスパイクをそんなビーチボールみたいに軽々と。


「上がってんぞ!」


「はいっ、サイド行くよ!」


 落下点に駆け込むのは、セッターの三年生・網走あばしり祐子ゆうこさん。レシーブの弾道が低いのでオーバーハンドかアンダーハンドか迷うところだが、網走さんはスピードを落とさず斜め前に跳び上がり、オーバーハンドでボールを捉えると、空中で身体を捻って軽やかにライトへボールを回した。アクロバティックだねえ。って、まずいまずい、ブロック跳ばないと。


 ライトから踏み込んでくるのは、右打ちライトアタッカーの三年生・森下もりした美桜みおさん。大洋大たいようだい筑紫つくしの〝(Three)美神(Graces)〟の一人――〝桜花(Cherry)連鎖(Chain)〟なんて呼ばれる厄介な御仁だ。


瑠璃るり、いい子だから私に合わせてねえ。せーので跳ぶんだよ。はい、よし、せ」


「のっ!」


 うん、この子にはあとで腕のいい耳鼻科医を紹介しよう。


「食らうがいい――にょん!」


 ぼこっ!


 と鈍い音。だが打ち損じではない。森下さんはブロックにぶつけるのが得意なスパイカーなのだ。それもブロックのアウトではなく、インを狙ってくる。ブロックアウト狙いなら避ければアウトになってくれるが、森下さんはあくまでコートの枠内に打ち込んでくるのでそうもいかない。しかも、ボールにあまり回転を掛けてない(だから鈍い音がする)で打つのでワンタッチ時の軌道の変化が読みにくい(ひらひら落ちる花びらのように)。で、そんな森下さんのスパイクが私の右腕に当たった。


「っ……!」


 私と瑠璃の間を抜けたボールは、私の腕に当たりその向きを変え、FRフロントライト千里センリのところへ飛んだ。千里センリは辛うじてカットする。が、ネットに近い。


「瑠璃、無理せず戻」


「決めてやりますっ!」


 おうおう、元気いいねえ。


 ボールはセンター付近に落ちてくる。ミドルブロッカー同士の空中戦になりそうだ。こちらは私の後輩・宝円寺ほうえんじ瑠璃るり。このままツーで打つつもり。対するは、三年生の宍戸ししど季奈子きなこさん。宍戸さんは165センチで、高さこそ瑠璃に及ばないが、さすがに落ち着いていた。


「もらったぁー!」


「させないわよッ!」


 ぱだあん――!


 とスパイクが跳ね返される。「うげっ!?」と瑠璃。ボールはするすると私の前へ――いやどうかなこれ届くかなあ? と思いつつ身体を前に倒し、手を伸ばしたところで、気づく。まずいこれ届かないやつだ。そして受け身取れなくて顎をぶつやつだ。


 ごん!


「あでっ!?」


「うわっ、明晞あきさん!? 大丈夫ですか!?」


「んー……どうだかねえ」


 お尻を突き出した状態で顎と膝の三点で床にへばりつく私。見た目はまったく大丈夫じゃない。


「ううっ……! 明晞さん、私のためにそんな! 身を投げ打ってまで!!」


「いやあ、実は直前で無理だと思って受け身を優先したから、見た目ほどダメージはないよ」


「なーんだ! ならよかった! 私、明晞さんのそういうとこ嫌いじゃないです!」


「……なあ、杏子あんず。わたし、石館二中こいつらのこういうとこ、受け入れがたいんだが」


「私もだ」


「なはは、似たようなこと冴利さえりにもよく言われたなあ――なんて、閑話休題さておき


 よっこらせ、と私は身を起こす。


 ブロック大会県予選、第一日目、Cコート、第六試合。


 石館商業VS大洋大筑紫、第一セット。


 スコア、18―21。


「いよいよ正念場、って感じかなあ……」


 私はちらっと後衛バックのいちい君を様子を伺う。あっ、さすがにピリピリしてるな。さっきの……18―19の場面でジャンプサーブを外したこと、気にしてなければいいけど、大丈夫かな?


「まあ、ここは私たちでなんとかしよっか、瑠璃」


「あったりまえですよ! 明日はしず姉が見に来るんですから! こんなとこで負けられません!」


 うんうん。やる気があるのはいいんだけどね。この子の場合、蓋を開けてみるまでアタリかハズレかわからないからなあ。


「……明晞」


「ああ、まあ、任せなさいって」


 こっそり耳打ちしてきた千里センリに、私はにっこり笑みを返す。暗に、ここでいちい君のバックアタックに頼るのは得策でないことと、瑠璃のアレは空元気でないことを伝えた。千里センリは納得したのか、頷いて、ネット際の定位置コートポジションに向かう。


 さて……と。任せてと言ったからには決めたいところなんだけど。


 今は二枚攻撃で、うちのローテでは最も攻撃力が落ちる難所だ。私が決められればいいんだけど、うちのレフト偏重(攻撃パターン)を理解している森下さんと宍戸さんが、私をばっちり警戒マークしている。まあ、だからさっきは二人ブロックの横を抜いたわけで。でも玉原さんにあっさり拾われちゃったしなあ。一応、今は小回りの利くリベロの司馬ピクシーさんが不在なんだけど、かといって下手なフェイントが通じるとも思えないし。むむむ……さすがは前回大会八強。隙がないねえ。


 こういうときは、良くも悪くも何をしでかすかわからない瑠璃に期待したい。今しがたブロックされたけど、調子は落ちてないし、むしろやる気が倍増している。そのことが、どう次のプレーに繋がるか――。


 あちらのサーブは、〝(Three)美神(Graces)〟の一人――〝鉤嘴(Griffin)鉤爪(Grabber)〟こと二年生ミドルブロッカーの鷲尾わしお歩美あゆみさん。171センチの長身と大きな手から力強いフローターサーブを繰り出す。狙われたのは私。おおむね正面だ。でも、んー……これはナイスカットしていいもんかどうしたもんか。


「よくわからーん!」


 えいやっ、と成り行きに任せたレセプションは、今日一番のナイスカットとなった。瞬間、きらりーん、と瑠璃の八重歯が光る。


千里センリさあああんAえええー!!」


 あっやばこれハズレのほうだ――と瑠璃とは小学生来の付き合いである私は予知する。しかし、もはや流れは止められない。己の気の向くままに踏み込む瑠璃。案の定、テンポが早い。しかし千里センリはAクイックに上げるだろう(なぜわかるのかって? 雰囲気なんとなくだよ雰囲気なんとなく)。そしてなお悪いことに、宍戸さんがコミットで止める気満々だった。まずいなあこれコンビが合っても合わなくてもアウト。やっぱりちょっとナイスカット過ぎたかあ。適当に力抜いてBカットくらいにしとけば瑠璃も頭が冷えていい感じに――って、今更言っても仕方がない。


 たたたんっ、とリズミカルに踏み切った瑠璃に合わせ、宍戸さんが跳ぶ。ほぼ同時に千里センリがボールを捉える。既に空中にいる瑠璃。千里センリはその手元にトスを送る。が――、


「っ!」


「ふおんっ!?」


「えっ!?」


 ひゅ、


 と瑠璃の腕が空を切った。まさかの空振り(スカ)! これには千里センリも瑠璃も宍戸さんも三人して開いた口が塞がらない。ボールは瑠璃の頭上を通り過ぎる。いやあ見事にハズレたね。ハズレもハズレの大ハズレ――まあ、でも、


「そんな気はしてたよ、っと!」


 ぴた、


 と私の指先がボールに触れる。レセプション後にレフト平行に踏み込んでいたのを、途中で進路をセンター方向に切り替え、間一髪で瑠璃が空振りしたトスに追いついたのだ。ただ困ったことに、これ、そのままプッシュしても私の動きについてきている森下さんに拾われちゃうんだよね。


 というわけで、森下さんの逆を突くために、くにっ、と手首を捻ってボールを相手コートのライト側へ。


「にょ!?」


 ぽよん、


 とサイドラインぎりぎりに落球イン。危ない危ない。狙い過ぎてアウトになるかと思った。


「明晞さあああん! 信じてましたよおお!」


「いやあ、ひやひやしたよねえ」


 ぱちんっ、と瑠璃と私は手を合わせる。一方、その頃後衛(バック)では、 


「わたしは、石館二中あいつらのああいうとこも苦手だ」


「私もだ」


 なんて苦笑している玲子れいこ杏子あんず。ちなみに、いちい君はサービスゾーンに向かう千里センリを捕まえて、何か言葉を交わしていた。そのあとこっちを睨んできたことから察するに、今の場面でバックアタックを選択肢から外した私の判断に不満があるのだろう。いや、でもさ、ほら、結果オーライってことで――と私はスコアボードを指で示す。


 スコア、19―21。ローテが回り、攻撃陣アタッカーが三枚に。


 ―――――――――

 玲子 明晞  瑠璃

 杏子 いちい 千里


「んじゃあ、玲子、あとよろしくねえ」


「おう!」


 気合十分な玲子にレフトを譲り、私はライトへ寄る。私には抜けなかったけど、玲子のパワーなら玉原さんを崩せるだろう。厳しい状況は続くが、まだまだ逆転の目はある。そのためにも、あと二ローテ――いや、だから、そんなに睨まないでって。いいから今は少し休んでなさいな。


「さあー、一本集中していこうー!」


 背中に穴が空きそうなほどの視線を感じつつ、私は声を上げた。

登場人物の平均身長:164.2cm

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ