表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第九章 AT和田総合体育館(I)
315/374

192(舞姫) 二回戦敗退

 さすがは激戦区・南地区の一位――彼女たちは一瞬の隙も見逃さない。即興の、Bクイックに近い攻撃が、だんっ、と私たちのコートに突き刺さる。


 鳴り響く試合終了ゲームセットのホイッスル。


 汗が額から落ちてきて目に入った。私はそれを拭わなかった。目は痛むし、視界が滲む。けれど、それがどうしたというのだろう。もう次のプレーはないのだ。


「「ありがとうございました……っ!!」」


 ブロック大会県予選、第一日目、Dコート、第五試合。


 福智ふくち学園武岡(たけおか)VS三坂(みさか)総合、試合結果。


 第一セット、25―19。


 第二セット、25―22。


 無念の二回戦敗退だった。しかし、気持ちの整理はひとまずあと。公式戦の試合後は、試合前と同じくらいに慌ただしい。相手校の監督への挨拶とお礼、応援席への挨拶とお礼、そして速やかな撤収と、適切なクールダウンと、全体集合。さらに次試合へ補助員の派遣、用具の整理、荷物の整理、着替え、父兄から頂いた差し入れの山分け……などなど。


「だあーっ! 届かなかったかあ……!!」


 悔しさを吐き出せたのは、試合終了から小一時間ほど経ってからだった。別会場であるDコートのコの字型観客席の端っこでお通夜状態だった私たちだが、キャプテンの蒼木あおきさざなの一声をきっかけに、ようやく試合内容を振り返る雰囲気になった。


「序盤にペースを持っていかれたのが痛かったわね。一セット目を取られて、そのまま逃げ切られてしまったわ」(私)


「終盤はなー、盛り返して五分まで持ってた気がするんだけど」(みどり


「それでも、五分止まり。ひっくり返すには至らず。あちらは終始平常に得点を重ね、この結果である」(白更まさら


「遠いですね、南地区の背中は……」(晶子しょうこ


 会話が途切れ、誰のものともわからない溜息が聞こえる。放っておくと沈んでいく雰囲気。それを止めたのは、止水しすいだった。


「――でも、その背中が見えるとこまでは、来られた。手応えは……あった」


 足を投げ出し、腕組みをして俯いている止水。じっと爪先を見つめるその目を、私は覗き込む。潤んだ瞳の奥に、ぎらつく光。私は漣に微笑と視線を送る。漣は「うし!」と立ち上がった。


「止水の言う通りだ。試合には負けちまったが、ここで何もかも終わりじゃない。次への足掛かりは残せた。っつーわけで――おいっ、みまり! いつまで丸くなってんだ!」


 椅子の上でアルマジロ化している一年生の南雲なぐもみまりの背中を、漣はぺしんと叩く。みまりは丸まったまま「むうー……!」と身体を揺らした。


「だってだってだって……! ちょー悔しいんですもん! あたしがもっと決められたら二セット目は勝ってましたもん!」


「生意気抜かしやがって、ルーキーが。お前はよくやってくれたよ」


 わしゃしゃしゃ、と一見乱暴に、でも優しくみまりの頭を撫でる漣。「んもー! くすぐったいです!」とみまりは漣の手から逃れるようにアルマジロ化を解いた。漣が私に目配せする。私は、ありがとう、と唇の動きで伝えた。


 みまりの力を活かしきれなかったことは、今回の私の第一の反省点。どんなにポテンシャルがあっても、みまりはつい数ヶ月前まで中学生だったのだ。初めての高校バレーの舞台で、ネットの高さもボールの大きさも違う。それをわかっていながら、私の力量が足りないばかりに、苦しい場面で彼女に大きな負担を強いた。アタッカーの力を引き出すことがセッターの役割であるはずなのに……本当に、悔やんでも悔やみきれない。


「まあ……悔しい気持ちは、私も同じだよ。でも、だからこそ、その気持ちは次に進むためのエネルギーに変えていこう。くすぶらせてたって何がどうなるわけでもない。だろ?」


 漣の言葉に、真っ先に反応したのは止水だ。「そっすね!」と両手でふとももを叩き、止水は立ち上がった。


「いい加減うだうだしてても仕方ねえ。オレ、ちょっと他の試合見てきます!」


 さすが止水は走り出すのが早かった。取るものも取りあえずといった様子でばたばたと駆け出す。漣が「おい! 携帯持ってんのか!?」と呼び止めるも、時既に遅し。止水の姿は柱の影になって見えなくなっていた。「やれやれ」と晶子がいかにも重そうに腰を上げる。


「たぶん、止水の目当ては石館いしだて商業だと思うです。集合掛けるときは、ボクに連絡ください」


「おう、よろしく頼む」


「では、またあとでです」


 携帯を見せてそう言うと、晶子は止水のあとを追った。廊下のほうから、「止水ー! 待つですー!」という声が聞こえてくる。


「……しからば、我輩も行くである」


 のそりと立ち上がる白更。翠も跳ねるように立った。


白更まさらはどこ見にいくんだ?」


セントレオンハルト女学院である」


セントレ! いいな、わたしも一緒にいく!」


 連れ立って観客席ギャラリーを出ていく二人を見送って、私も立ち上がる。そして未だ動けずにいる一年生みまりに声を掛けた。


「ねえ、みまりはどこか見たいチームないの? ほら、県選抜のお友達とか。あなた以外にも出てる子はいそうなものだけれど――」


 言いながら、私は階下のDコートを見る。四強・柏木かしわぎ大附属――今試合に出ているスタメンはいつもの顔ぶれだ。でも、パンフレットによれば、柏木大附属は今大会、二人の一年生を控えメンバーとして登録している。恐らくは、あの子たちなのだろう――アップゾーンにそれらしい子の姿が見える。


「……あれは、まひるくんとシャルくんです」


「あら、やっぱり知り合いなのね」


「はい。二人とも県選抜のメインメンバーでした。でも……んー、今日はずっとベンチっぽいですね」


「十分すごいわよ」


 拗ねたように口を尖らせるみまりに、私は思わず笑ってしまった。四強――特に有力選手の多い南地区の法栄大立華と柏木大附属には、三年生や二年生にも県選抜経験者がごろごろいる。一年生がこの時期にベンチ入りしている(ユニフォームを獲った)こと自体、なかなか異例なことなのだ。


「あの柏木大の二人以外にはいないの? 相手の今湊いまみなと女子は東地区だけど――」


「東地区は……えっと、アンくんは音成おとなる女子のとこで見たから……そうですね、他はいないです」


「なら、北地区は? 今は、石館商業ってところが試合中よ」


「北地区には、一人いるんですけど……どうですかね。かなり目立つので、いたら気づくと思うんですよ」


「なんていう子?」


藤島ふじしまとおるくん、っていう、レフトのエースやってた子です。背が180近くあって――あっ、今は超えてるかも――とにかく、めちゃめちゃ強いですし、存在感も半端ないですから、出てるならとっくに噂になってるはずです」


「一年生で180センチ……それは、確かに騒ぎにならないほうがおかしいわね。さざなは何か聞いてる?」


「いや、知らないな。でも、もし石館商業――藤本ふじもとのとこにそんな怪物バケモノが入ったんなら、止水がなんか言ってるんじゃないか?」


「特にそれらしいことは聞いてないわね……」


「あたしも、透くんのことは開会式でそれとなく探したんですけど、見つからなかったです」


「じゃあ、きっと今回は県大会に出てきてないのね。それはそれで不思議な話だけど――」


 県選抜でエースを務めた180級の怪物バケモノが地区予選を突破できなかった、なんて、ありうるだろうか? いや、それよりも、いつぞやの小田原おだわら七絵ななえちゃんのように、どこかに潜伏していると考えたほうがいいかもしれない。藤島透ちゃん……一応、記憶に留めておこう。


「あっ、そうだ!」


「あら、誰か出てる子を思い出した?」


「そうですそうです! うるうくんとともりくんが――あっ、県選抜でセッターとスーパーエースだった二人組コンビなんですけど、今朝ユニフォーム着てるとこ見かけました! えっと、二人は南地区だから――」


大洋大たいようだい筑紫つくし?」


「そこじゃないとこです!」


「なら、津久和つくわ第一かしら」


「いえっす! その津久和です! もしかして、今試合中ですか?」


「ええ。中央地区一位の南五和みなみいつわとね。見に行ってみる?」


「行きますっ!」


 ぴょん、と勢いよく跳ね起きるみまり。ようやく元気を取り戻したようで、私は漣と笑い合った。みまりはばたばたと準備をして、ほどなく「いつでもゴーですっ!」と満面の笑みで私に振り向いた。


「津久和第一はAコートよ。――あっ、それで、ごめんなさい。ちょっと先に行っててくれる?」


「わっかりました! じゃあ、舞姫まき先輩、またあとで!」


「ええ、すぐ追いつくわ」


 ひらひらと手を振って、みまりを見送る。観客席はすっかり人気がなくなった。レギュラー以外のメンバーも、補助員に出ていたり、他校の試合を見に行ったりしているので、残っているのは、私と漣だけ。


「どうした、舞姫。津久和第一の相手は南五和――逢坂おうさか月美るみがいるとこだろ。見に行かなくていいのかよ」


「なに、私がいたらお邪魔?」


「別にそうは言ってない」


 ぼすっ、とふてくされたように椅子に座る漣。私はその後ろに回って、覆い被さるように抱きつく。漣の視線は、階下で行われている試合に注がれている。


 柏木大附属VS今湊女子――もし私たちが今日勝利していたら、この試合の勝者と明日対戦することになっていた。今頃はきっと全員で、食い入るように見つめていたに違いない。


 すん、と漣が鼻を鳴らす。私はそれに気づかないふりをして、漣の見ているのと同じものを見る。


「……舞姫」


 なに、と応じる代わりに、腕組みをしている漣の手に、自分の手を重ねる。漣は静かに呟いた。


「次は、勝つぞ。私はもう……この景色は見飽きた」


「ええ。今の私たちには、その力があると思うわ」


 それからしばらく、私たちは熱戦を眺めながら、一つの塊のままでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ