191(美禰子) 盟友
残念ながら一回戦で敗れてしまった古手川第二。試合後のミーティングを終えると、あとは長い自由時間。わたしは身体を休めたり昼食を摂ったりしながら、A~Cコートで行われる試合を観戦し、やがて第五試合が始まろうというくらいで、自動販売機のアイスを買おうと、幼馴染みの仲嵩よなかちゃんと観客席を立ちました。
そしてランニングコースにもなっている回廊に上がってみると、あらびっくり。
「あ」「オッ」「ひ……」「お?」「あ!」「むっ」「わっ」
ばったり、という副詞がぴったりの、意図せぬ顔合わせ。
「これはこれは、偶然ね。皆さんは、これから二回戦?」
わたしはAコートのほうからやってきた三人と、Cコートのほうからやってきた二人に尋ねます。「そっ。次の次ね」と軽い調子で応えてくれたのは、Aコートからやってきた花文蒼子さん。「ちょっと、あんた!」とナカちゃんは睨むように目を細め、蒼子さんに人差し指の先を向けます。
「頼むから簡単にやられたりしないでよね、花文」
「さあ、どうかな。なんといっても逢坂さんが相手だし」
「知ってるし! だからぶっ潰せって言ってんのよ!」
噛みつくように言い立てるナカちゃん。蒼子さんは苦笑しつつ、後ろの子に振り返ります。
「〝番犬〟はああ言ってるけれど、意気込みの程はどうなの?」
「燃えまくりっすヨ」
花文さんにそう問われ、余裕たっぷりに笑ってみせたのは、一年生の京閏さんです。
「未来の『県内最強の司令塔』であるワタシとしちゃ、今から『屈指』くらいの箔はつけときたいっすからネ」
「おい貴様! 口の聞き方に気をつけろ、一年風情がっ! ネコちゃんの御世が続く限り、貴様が『屈指』など十年早いわ!」
「まあまあ、ナカちゃん。京さんは蒼子さんがあとを任せるだけの一年生なのだから、頼もしいのはいいことよ」
「いや、ここは仲嵩さんの言う通りかな。この子ってば口程に強いもんだから天狗になりがちで。ここらでボッキリ鼻もげるくらいがちょうどいいのよ」
「チョ、ひどくねっすか、蒼子さん? つーか鼻もげなら先日経験済みっすし」
冗談めかしてそう言って、どうしてかわたしに鋭い視線を向けてくる京さん。ひとまず微笑みを返してみると、京さんは苦笑気味に首を振りました。ナカちゃんは「小癪な」と鼻を鳴らし、次いでCコートのほうからやってきた二人に話を振りました。
「で、そっちはどうなのよ? 二日目には残れそうなの――〝破天荒妖精〟」
「はっ! 誰にモノ言ってんだよ、仲嵩!」
鼻息を荒げ、傲然と胸を張ってそう応えたのは、玉原睦美さん。相変わらずすごい迫力です。
「そっちは確か石館商業――藤本いちいが相手だっけ。本当に大丈夫なの? あの子はマジモノよ」
「天久保級の怪物ってんだろ? んなこたおれも知ってらあ。が、別にあいつを止められなきゃ負けるってわけでもねえ。なあ?」
睦美さんはぎらりと歯を剥き、京さんの後ろに佇む新堂灯さんを睨みつけました。新堂さんは怪獣みたいな睦美さんの威圧感に身を縮こませ、「ひっ……」と京さんの影に隠れてしまいます。
「ンモー、勘弁っすヨ、玉原さん。こいつってば砂粒並みに気が小さいんすから」
「嘘こけ」
がはは、と睦美さんは豪快に笑って、「まあ、とにかくだ」と腰に手を当てました。
「藤本にいくら取られようと、同じかそれ以上におれが取っから、そこは大して問題じゃねえんだよ」
「つまり、勝敗を左右するのは、攻撃面以外のところだと?」
「そういうこったな」
「攻撃ではないのなら、守備かしら。でも、それにしたって石館商業のリベロは〝天頂〟の係累だったはずよ。付け入る隙なんてなさそうだけれど……」
蒼子さんの視線が睦美さんの隣へ移ります。そこにいたは、両手を腰に当てて仁王立ちする、司馬口笛さん。
「簡単なこと! 隙が無いなら作ればいいのさ!」
「言うと思ったわ」
可笑しそうに肩を揺らす蒼子さん。口笛さんは、えへん、と鼻を鳴らし、可愛らしく胸を張ります。睦美さんと口笛さんは、やる仕草はそっくりですが、印象はほとんど正反対なのです。
「ま、やり方はどうあれ、とにかく負けないでよね!」(ナカちゃん)
「もちろん、やることはやるわ」(蒼子さん)
「はっ(ふんっ)、任せとけ(きな)!」(睦美さん&口笛さん)
「京さんと新堂さんも、応援してるわね」(わたし)
「フウ、これプレッシャーヤバイっすネ」(京さん)
「おい、一年! 女神様の応援だぞ! 下手な試合しやがったら許さんからな!」(ナカちゃん)
「ひゃ……ひゃぃ……」(新堂さん)
そうして、ランニング中だった三人と二人は、再びそれぞれの方向に走り出しました。わたしは、まだ試合のある彼女たちの後ろ姿を、羨望をもって見つめます。
Aコートで南五和との二回戦に臨むのは、南地区三位・津久和第一。
キャプテンにして元セッター、今はレフトウイングスパイカーを務める三年生、〝令色の血文〟――花文蒼子さん。
花文さんに代わって春からセッターを務めるのは、昨年度県選抜経験を持つ一年生セッター、〝融通無礙〟――京閏さん。
同じく昨年度県選抜経験を持つ一年生で、京さんのよき相棒である左の大砲、〝光芒一閃〟――新堂灯さん。
Cコートで石館商業との二回戦に臨むのは、南地区二位・大洋大筑紫。
県内最重の右、なんて肩書きが畏怖をもって囁かれる三年生、170センチ74キロ、〝破壊獣〟――玉原睦美さん。
県内最小のリベロ、なんて肩書きが親愛をもって囁かれる三年生、134センチ30キロ、〝座敷荒し〟――司馬口笛さん。
小学生の頃から地区大会のたびに覇を競ってきた好敵も、県大会になれば心強い盟友というわけです。
「「……頑張って」」
意図せず呟きが重なって、わたしとナカちゃんは、ふっと顔を見合わせて笑いました。
登場人物の平均身長:164.3cm




