189(百桃) 百花の紅日《Hundred Sunred》
突然だけど、あたしの名前は百日紅百桃! いわゆる一つの〝天才〟ってヤツね! 廃部の危機にあった園江春峰女子バレーボール部に颯爽と現れ、部を存続させるだけでなく県大会出場にまで押し上げた最強の守護神! 人呼んで〝百花の紅日〟とはあたしのことよ!
「百桃? おまえはどこに向かって喋ってるんだ?」
「世界にあまねく存在するあたしのファンへ向けてです!」
「よくわからんが、あんまり『最強』とか『守護神』とかぶち上げないほうがいいぞ」
「だって実際そうなんだから別によくないですか?」
「まあ、確かにおまえはすごいと思うよ。この春高校生になったばかりで、バレーも初心者、そこから一月足らずであの在原や四日市に正面から啖呵切ったんだからな」
「ふっ……よしてください、先輩。地区大会のあたしはまだ甘さがありました――若気の至りをほじくり返されると、おうちのベッドにダイブして足をバタバタしたくなります」
「うん。おまえってそういうとこあるよな。若気が至りまくるとこな」
「とにかぁーく! あれからあたしは更なる進化を遂げました! 一を聞けば百を物にする〝天才〟こと、この百日紅百桃がっ! 実戦を経て百を知り万の力を得たのですっ! 今こそあたしの秘められし才能が開花する瞬間! 〝百花の紅日〟ここに在りです!」
「うん。あと、それな」
「えっ? どれですか?」
「その、ほら、〝百花の紅日〟ってヤツ」
「どうですか!? すごくカッコいいでしょう! 地区大会が終わってからずっと考えていたんです!」
「そのリソースをもっと別のとこに費やしてほしかったな……いや、まあ、通り名がほしいのはわかる。事実、おまえはそれだけの逸材だしな」
「ふっ……よしてください、先輩。当たり前のことをわざわざ口にするなんて、そんな、ちょー嬉しいです」
「ああ、うん。それでな? その、なんだ、『紅』ってのはだな。悪いことは言わん。やめとけ」
「むえー!? なんでですか! 『紅』はあたしのテーマカラーですよ!? 名前にばっちし入ってるんですよ!?」
「うん。いや、わかるんだけどな。わたしも意地悪で言ってるわけじゃなくてだな。ホント、おまえがリベロでさえなければ、赤でも青でも黄色でも好きなカラーにしていいんだが……ただ、リベロで『紅』は、ダメなんだ。ついでに言うと『日』もよくない。さらに言うなら『〝天才〟』もいただけない。三重苦でチェンジだな」
「んもー! なんなんですか! 先輩ってばケチばっかりつけて! あたしの考えたちょーかっこいい通り名の何が問題なんですか!?」
「うん。わかった。わかった。じゃあ、この際、はっきり言うな? 実はな、もう既にいるんだよ。『紅』で『日』なリベロ。それも〝天才〟ならぬ〝天頂〟っつって、ばっちり県内にいるんだ」
「〝天頂〟……っ!? なんと! そんなパックリンちゃんがいるんですか!? まったく世間知らずな!!」
「うん。おまえがな」
「一体そいつはどこのどいつですか!?」
「うん。今から戦う相手だな」
「なるほど! なら、あたしがそいつをちょちょいとぶっ潰せばいいわけですね!?」
「うん。できるもんならな」
「わっかりました! やってやりますよ! この〝天才〟こと百日紅百桃! 〝百花の紅日〟の名に懸けて、そのパックリンちゃんをぶっ倒します!!」
「うん。健闘を祈るわ」
「よしっ! そうと決まれば――」
「えっ? おい、どこ行くつもりだ百桃?」
「ちょっとその〝天頂〟ってヤツに喧嘩売ってきますッ!!」
「コンビニ感覚で自爆テロするのやめろおおおー!!」
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――三十分後。
ブロック大会県予選、第一日目、Aコート、第五試合。
法栄大立華VS園江春峰、試合結果。
第一セット、25―4。
第二セット、25―5。
勝者・法栄大立華。
「びえーん!! ちっくしょー!! ボロ負けとかー!!」
「うん。頑張った。おまえはよく頑張ったよ、百桃」
「なんですかなんですかなんなんですかあの〝天頂〟って人! あの冷徹冷血ジェノサイド鉄火面ちょーハイパー滅殺ナイスカット量産ポニテ太陽神!! 目玉が飛び出るほど強いじゃないですか! てゆーかまず法栄大立華って強過ぎじゃないですか!? いきなり難易度跳ね上がり過ぎですよ!!」
「うん。うん。ごめんな、ちゃんと言っとかなくて……」
「ほえ? なんのことですか?」
「うん。あのな? いま試合した法栄大立華ってな? 実は前回大会優勝校なんだわ」
「マジですか!?」
「うん。マジ。去年のインターハイや春高にも出てる。そんでな? 中でもあの〝天頂〟ってお方はな?」
「冷徹冷血ジェノサイド鉄火面ちょーハイパー滅殺ナイスカット量産ポニテ太陽神は?」
「そのお日様は法栄大立華の中心選手でな。全国でもかなりの有名人なんだ。というかぶっちゃけ『全国最強のリベロ』なんだわ、あの〝天頂〟」
「全国!? 最強っ!? のリベロ……ッ!!? そ、そんな〝天頂〟に、あたし――」
「うん。『やいやいっ! そちら〝天頂〟だか〝天才〟だか知りませんけどね! あなたが『紅』を名乗ってられるのも今日限りですよ! なぜならこのちょー神から愛されてるバレーボールの申し子こと百日紅百桃が今からあなたをボコボコにするからです! ふっ……でも安心してください。あたしに負けるのは決して恥ではありません! むしろあたしの無敵伝説の一ページに刻まれるなんて栄誉なことです! むははは! では、お互いベストを尽くしましょう! しからばっ!』って言ったな」
「うわーん! 今すぐおうちのベッドにダイブして足をバタバタしたいですー!!」
あたしは顔が真っ赤になるのを感じた。初夏に色づく百日紅のように。
「まあ、そう落ち込むなな? ほら、今度、わたしが別のちょーカッコいい通り名考えてやるから」
「本当ですか!? わーい! 嬉しいです! 先輩っ、ありがとーございまーす!!」
「うん。わたしこそ、廃部を免れたばかりか、県大会に出れて、しかも二回も試合できて……本当に嬉しいよ。ありがとな、百桃」
「むふふんっ! いやですね、先輩! それくらいは楽勝ですよ! なんたってあたしは〝天才〟ですからっ!」
「うん。おまえ懲りないな」
かくして、あたしたち園江春峰のブロック大会県予選は、幕を閉じたのであった。
登場人物の平均身長:164.3cm




