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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第九章 AT和田総合体育館(I)
307/374

184(陶子) 廿六夜塔《Distant Decrescent》

満月ふるむっ、ストレート!」


 わたしはバックゾーンから叫んだ。相手のブロックは二枚。特にミドルブロッカーのほうは170近い長身だ。狙うならストレートに飛んでいるセッターのほうだろう。レフトの花方はなかた満月ふるむは空中で僅かに逡巡したのち、ミドルブロッカーの待つクロスを避け、ストレートを狙った。


 ぱだんっ!


真琴まことちゃん、ワンタッチー!」


「悪い届かーん! というわけで真直ますぐ!」


「任せてくださいっ!」


 狙われるとわかってボールに触ることに注力したセッター、フェイントを警戒して前に詰めていたBR(バックライト)、瞬時にその後方のカバーに走り出したBC(バックセンター)――息の合った、組織だった守備だ。模様や飾りのない単色のユニフォーム。周りの赤に一人だけ混ざった白一点リベロはエンドラインに沿って走り、ワンタッチボールに追いつく。


娃佳あいかさんっ!」


「ナイスカット、真直ますぐちゃん!」


 ゆるく回転のかかったボールが、磁石で引かれるように、ネット際で待つセッターへ返る。わたしはバックセンターから指示を飛ばした。


「速攻抜かれるな! 満月ふるむ萌莉もえり!」


「「あいあい!」」


 長身ミドルブロッカーを警戒するこちらの意図を察してか、相手セッターは、ぽんっ、とトスをレフトへ送った。軽くジャンプして弾みをつける独特のトス。今は後衛バックにいるエースとはかなり速いテンポで合わせてきたから面食らったが、対角のキャプテンとはそこまででもない。ミドルブロッカー・杉村すぎむら萌莉もえりはトスを見てからサイドステップし、平行に追いつく。


瑶子ようこ、ぴったり二枚来てっぞ!」


「了解」


 相手キャプテンは、冷静にこちらの陣形を見て、すぱんっ、とブロックを避けてクロスへ打ち込んできた。わたしは、よし、と心の中でガッツポーズを取る。なぜなら、そのコースには、リベロの伏見ふしみ真綿まわたが待ち構えていたからだ。


真綿まわた!」


「はいっ! チャンス上がります、みかもさん!」


「おっけーい!」


 お手本みたいにしっかりドライブ回転のかかったスパイクを、真綿は高めの弾道で拾い上げる。FRフロントライト帚木ははきぎみかもが、ブロックから振り返って、左手を上げる。


満月ふーちゃん、萌莉もえちゃん、準備はいいかーい!?」


「「あいあい!」」


 落下点に入るみかも。満月はレフトに開いて平行を待ち、ブロックからアタックラインまで下がった萌莉は速攻クイックへ切り返す。レフト平行―センター速攻の二枚攻撃……否、


 チャンスボールを得た月見台高校わたしたちに、二枚攻撃という選択肢は存在しない。


「お願いねっ、しーちゃん!!」


 とんっ、とみかもがバックライトへセミ気味のトスを送る。そこへ踏み込むのは我らがスーパーエース――〝廿六(Distant)夜塔(Decrescent)〟こと、左打ち(サウスポー)石楠花しゃくなげ士弦しづるだ。


「っ、バックだと……!?」


 突然のバックアタックに向こうは対応が遅れている。辛うじてレフトのキャプテンがコースに入るが、バックアタックのタイミングを捉えられてはいない。士弦は二年生ながらチーム最長の170センチ。そんなブロックはないも同然である。


「突き抜けええええ、士弦しづるッ!」


「はいッ!!」


 ぱあんっ!


 と、全身をしならせ、スピードのある強打をクロスへ叩き込む士弦。決まった、とわたしも他のメンバーも士弦に駆け寄ろうとする。しかし――、


「まだまだぁー!!」


 ぐんっ、と小さな身体が低空に躍った。真っ白なユニフォームに身を包んだリベロ。いくらなんでも一歩目が速過ぎる――あるいはコースが読まれたのか!?


「〝最終防(Red Line)衛線(Keeper)〟……っ!!」


 真綿が驚嘆に呻く。その名に『(Red)』を冠するリベロ――あの〝天頂ジーニス〟の直系に当たる選手プレイヤーということだ。覚悟はしていたが、士弦のバックアタックに初球から追いついてくるとは大したものである。


「っ、チャンスボールから、立て直すぞ!」


 レシーブボールはバックゾーンを漂っている。あそこからではレフトへ二段トスを上げる以外に攻撃手段はあるまい。そのレフトにしても、まともな強打はないはずだ。あのキャプテンなら手堅く繋ぐことを選ぶだろう。が、


「よくやった、真直! 真琴、私に寄越せ!」


「ミスらないかね!?」


「わからん!!」


 なんて軽いやり取りを交わして、後衛バックにいたレフトエースがなんちゃってバックアタックに踏み込んでくる。そんなにわか仕込みでどうにかなるもんか――と思うも、あちらはセオリー外の連携に慣れているのか、バックアタック独特のシビアなタイミングをものにしてきた。


 ――ぱんっ!


 と想定外のジャストミート。それも奥ではなく手前にドライブ回転で落としてくる軟打。咄嗟に重心を傾けるが――間に合わない。


 とんっ、


 とスパイクがコートの中央を跳ねた。やられた、と思ったときにはボールはワンバウンドでわたしの横をすり抜けていった。


 北地区二位・玉緒たまのお第二VS西地区三位・月見台(つきみだい)


 スコア、5―3。


 両校合わせて最初のブレイクポイント。試合開始から続いていた均衡シーソーゲームが、ついに崩れた。


「ごめん、ブロックかレシーブか半端になっちゃって」


「いいや、わたしも、まさかあんなにしっかり打ってくるとは思ってなかった」


「あっちさん、特に息が合ってる三年は〝天頂ジーニス〟世代のメンバーっぽいね。それに、あのリベロ――」


「すいません、私が決められれば……」


「いや、今のはたぶん、たまたまだ。山勘で動いたんだろう――毎回あんなにうまくはいかないはずだ。向こうの守備は堅いが、だからこそ攻撃は積極的にいこう。頼むぞ、士弦」


「はいっ!」


「それに……わたしも、出し惜しみはしない。みかも、士弦がバックに入れないときは、わたしに上げてもいい。トスを散らして、強打とフェイントも色々やって、とにかく揺さぶっていくぞ」


「おうっ!」


「高さは互角だからな! チーム力で上を行ったほうの勝ちだ! 全員いつも以上に声出して繋いでいくぞ!」


「「おおおおおおっ!」」


 県大会の出場校は全三十四校――特殊な枠を除けば、一回戦突破でベスト16。しかし、単純に計算した場合、シードの四校と各地区の一位・二位でその十六席は埋まってしまう。そしてわたしたち月見台は地区三位――ぎりぎり、その境界線の手前。相手がシードや地区一位では厳しいが、地区二位ならば勝ちの目はある。県大会一回戦突破は、決して無理のある目標ではないのだ。


 が、それにしても――、


真琴まこと、サーブ攻めてけよ!」


「任せときなー!」


香弥かやちゃん、バックはひとまず正面塞いで! それ以外は後衛こっちでどうにかする!」


瑶子ようこちゃん、ブロックぶつけていこう!」


「わかった。が、もし止められたらすまんな」


「大丈夫です! 私がフォローしますからっ!」


 玉緒第二あちらさんの気迫が、開幕から凄まじい。同じ北地区でも、エースからして尖っている同地区一位(石館商業)に比べれば、二位こっちはわりかし温和な顔ぶれに見えるが、アップの段階からずっとピリピリしている。


 ……まあ、でも、それもそのはず、か。


 あの〝天頂ジーニス〟の元チームメンバー――その面子がスタメンの大半だって言うのなら、この一回戦はどうしたって負けられないはずだ。なんたって、この一回戦を勝ち上がったあと、二回戦で待ち受けている相手は他でもない――。


陶子とうこさん」


真綿まわた……今回は、おまえに頑張ってもらうぞ。早くも泥沼の予感だ。相手は〝天頂ジーニス〟の直系――いけるか?」


「上等です。相手は〝天頂ジーニス〟本人でもなければ、同じ二年――喰らいついてやりますよ」


「レセプション、頼むぞ!」


 わたしが手を出すと、伏見真綿は不敵に笑い、ぽふっ、と小さな拳を当ててきた。


「ばっちこいってもんですっ!」


 わたしたちは前を向く。そのとき、短い髪をむりくり頭の後ろでくくった相手の白一点リベロと、目が合った。

登場人物の平均身長:164.6cm

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