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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第八章(城上女子) VS明正学園高校
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176(叶実) 天頂

 彼女の頭の後ろで、ポニーテールが流れていく。


 すぱんっ、とストレートへ張りのあるスパイクが決まった。どこにも無駄のない滑らかな動きで着地した彼女は、ボールを打った右手を閉じたり開いたりしてから、ひゅ、と素振りをする。そして私に向き直って言った。


宮野みやのさん、もう一本」


 レフトのアタックラインまで下がっていく彼女。私はボール籠からボールを取り出して、軽く打つ。正面を狙ったはずが少しズレてしまう。しかし彼女はそれを難なくアンダーハンドでAカットにして、そのまま踊るようにリズムよく平行に入り、今度はクロスいっぱいに、すぱんっ、と強打を決めた。ボールの行方を見つめる横顔を、私はなんとはなしに観察する。


 160前半の、私に少しばかり届かない身長。すらりと引き締まった身体に、黒髪のポニーテールが麗しい。惜しむらくは、その何を考えているのかわからない、夜半の凪いだ海のような静謐な表情だ。たまにでいいからにこにこと笑えば、もっとアイドル的な存在として、月刊バレーボールに大々的に特集されたかもしれないのに。


 もっとも、アイドル的な存在としてではないが、特集そのものは実際大々的に組まれた。去年は〝女王クイーン〟の年だったが、一昨年は彼女の年だった。〝天頂ジーニス〟の通称は、その時の雑誌の煽り文句から来ている。


『全国最強のリベロ』――三園みそのひより。しかし、実のところ、彼女がリベロであった期間は、そうでなかった期間より短い。三年前の夏に私が彼女と戦ったとき、ひよりはキャプテンで、レフトエースをしていた。


 だから、今でもひよりは、空いている時間を見つけては、トレーニングも兼ねてスパイクを打つ。これがまた舌を巻くほど達者なのだ。もしうちのチームの攻撃陣に決め手が欠けていたとしたら、ひよりのレフト出場は今よりずっと現実味を帯びたものになっていただろう。


 だが、幸いにして、うちには『決め手』がいる。私の対角のスーパーエース――『県内最強の左』が。


「あー!? また二人だけで楽しそうなことしてるーっ!!」


 無邪気な明るい声が広い体育館に響いた。入口のほうに振り返ると、着崩したブレザー姿の背の高い女の子が、鞄を肩に引っ掛けて立っていた。彼女――天久保あまくぼじゅんは、だだだだっ、と靴下のまま私たちのところへ駆けてくる。


「いいなーずるいなーいつもいつも二人だけっ! 監督はぼくには『休むのも練習のうち』って言うのに!」


「それはあなたが消耗の激しいアタッカーだからです。(リベロ)宮野さん(セッター)はいいのです」


「なにその夜更かしする大人みたいな!?」


「ところで、純、『それ』はどうしたの?」


 過去に同じようなやり取りを何度もしていたので、私は話題を変える。純は――たぶんそれを私たちに見せびらかすのが目的でここへ戻ってきたのだろう――持っていた一枚のコピー用紙を得意気に掲げた。


「じゃっじゃーん! これは今度の県大会の組み合わせ表だよっ! 監督にプリントアウトしてもらったんだ! 見るよね? 見たいよね!?」


 ええ、ありがと、と私はフリスビーをキャッチしてきてぶんぶん尻尾を振る大型犬みたいな純から組み合わせ表を受け取って、しげしげと眺める。うちは第一シードだから探すまでもなく左上にあった。次に同じく四隅のシード校の配置を確認。そしてそのシードとシードの中間地点に並ぶ八強候補をチェックし、同時に各地区の一位に去年の新人戦から変動があるかどうかを見ていく。私たちが属する南地区の結果は既に知っているから、見るべきは他の地区だ。


 北、東、中央、県庁は――変動なし。入れ替わりがあったのは西地区だ。新人戦では一位だった西海道さいかいどう第二が二位に下がり、代わりに三坂みさか総合が一位になっている。あそこのセッターは確か――〝真円(Terpsi)舞姫(Chore)〟――鴨志田かもしださんだったかな。順位変動の原因は、西海道第二の調子が上がらなかったからなのか、それとも三坂総合に何らかの――例えば新人戦にはいなかった有力な一年生が入ったとか――変化が起こったからなのか。いずれにせよ今回は直接当たることはないだろうから、対策を練る時間は十分にある。


 そうしてひとしきり組み合わせ表を眺めた私は、次にひよりに渡そうとする。しかし、ひよりはボールを持って、一人、私たちから離れたところに佇んでいた。


「ひより? 組み合わせ表、見ないの?」


「はい、結構です」


「がーん!? せっかく持ってきたのに! そしてあわよくばご褒美を期待していたのに! えーなんでなんでっ!?」


「今はそういう気分ではないですゆえ。それと、仮に見たとしても期待されているようなご褒美はなかったと思います」


「うえーん! カナミン先輩っ! ヒヨヒヨ先輩が冷たいよ!」


「おー、よしよし」


 私は泣きついてくる純をあやしてやる。純があまりにわんわん泣き喚くので、何か言うべきだと思ったのか、ひよりはボールを弄るのをやめて私たちに向き直った。


「……申し訳ないです。しかしながら、組み合わせ表はいずれ見ることになりますし、また見ても見なくても何かが変わるわけではありません。なんとなれば大会ですべきことはただ一つだからです。たとえ相手がどのようなチームであれどのような個人であれ――」


 瞬間、ひよりのよく冷えたアイスコーヒーのような黒く艶めく瞳が、鋭い光を放つ。












「――私は、勝つだけです」































挿絵(By みてみん)

登場人物の平均身長:164.7cm



ご覧いただきありがとうございました。これにて第八章はおしまいとなります。


ようやくひよりお姉様のご登場。決勝でお姉様と……ということで、もう定番中の定番ですが、やっぱり身内がラスボスって燃えます。


次章の予定ですが、やっぱりまた間が空くと思われます。まったりお付き合いいただければ幸いです。


最後までお読みいただきありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。では、よい夏休みを。

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