表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第八章(城上女子) VS明正学園高校
284/374

161(ひかり) 二周り

 ――やってくれましたね。


 しかし思い返せば……そうでした。西垣にしがきさんは合宿初日から、旧知の北山きたやまさんを措いて、油町ゆまち先輩のことが気になるとおっしゃっていましたね。夜の自主練習でも油町先輩と市川いちかわ先輩が合わせているのを熱心に見ていたような気もします。それがこの結果、ということですか……。


しずかっ、もう一回、もう一回!」


「えっ、あっ……そ、そうね」


 ガチャガチャでどうしても欲しいのが出ない子供のようにトスをねだる油町先輩と、自分の見たものが信じられないといった風に目を擦りながら上の空で返事をする市川先輩。そうして三年生二人がやや浮き足だった状態のまま、再び露木つゆきさんのサーブ。岩村いわむら先輩の申し分ないレセプション――からの、再び油町先輩による稲妻の如き速攻。が、


 ――ぱごんっ!!


「んにゃーっ!?」


「わあっ、すごいすごい!」


 悲鳴を上げて頭を抱える油町先輩と、初めてヒーローショーを見た子供のようにはしゃぐ西垣さん。掴まっている、という表現がぴったりでした。まさかの二連続シャットアウトに、当然ながら、ベンチもすぐさま動きます。山野辺やまのべ先生に短く耳打ちして、すくっ、と立ち上がる立沢たちさわ先輩。先輩は電気の通ってない豆電球のような空っぽの目をして無感情に告げました。


由紀恵ゆきえ


「いやっ胡桃くるみこれはそのなんていうかだから私まだ」


「チェンジ」


「後生なああああああー!!」


 涙目で慟哭する油町先輩(たぶん『殺生な』と言いたかったのでしょう)。いやはや……あの自由闊達な油町先輩すら泣かせてしまうとは……西垣さん、げに恐ろしや、です。


「ううっ、ぐすっ、どうしてこんなことに……」


「それはわたしの台詞。由紀恵、芹亜せりあと何かあったの?」


「わかんない……けど、言われてみれば、合宿中ずっと視線は感じてたかも」


「初めからマークされていた……?」


 ベンチに下がった油町先輩と小声でやり取りをした立沢先輩は、相手ベンチの星賀ほしか先輩にじとりと半眼を向けます。視線に気づいた星賀先輩は早鈴はやすず先輩に身を寄せたまま微笑して、ちがうちがうとひらひら手を振るだけでした。星賀先輩はもちろん『誰が一番気になるかアンケート』の件を了解しているはずですが、そんな先輩でもこれは予測できなかったということです。


 となると、もはや相性の良し悪しというか、不運な事故だったと言うべきでしょう。いずれにせよ、今さら起きたことは変えられません。スコアは、10―12。作戦の意図とは逆に引き離されてしまいましたが、それでも、まだ挽回は十分に可能です。


「一本、集中していきましょう」


 北山さんを迎え入れて(おかえりなさい、です)、私たちは立て直しを計ります。三度目の露木さんのサーブ。今回は私のところに飛んできました。慎重にカットを返します。そこから市川先輩は、やはりと言うべきか、ライトの藤島さん(エース)を頼りました。




 ――ばんっ!




「っと……これをどうにかせななー」


 困ったような笑みを浮かべて肩を竦める栄さん。藤島ふじしまさんのスパイクはそれほど綺麗に決まったのでした。これで、スコア、11―12。


 ローテが回り、藤島さんが後衛バックへ。藤島さんのサーブから、瀬戸せとさんのナイスカット、そして油町先輩と当たって今最も上機嫌フィーバーな西垣さんの速攻(Aクイック)。これが北山さんのブロックの横を抜けてクロスに決まります。


「わっ、やった!」


「ぐぬぬっス……!」


 スコア、11―13。


 あちらのサーバーはさかえさん。市川先輩ばりに厳しいコースを突いてきて、岩村先輩が崩されます。私はそれを後ろからカバーに入り、アンダーハンドで二段トスをライトの宇奈月うなづきさんへ。ネットから離れめになってしまったトスを、宇奈月さんは大きく右腕を振りかぶって、


「どりゃあああああ――ばちーんっ!!」


 ちょん、


 とフェイントを瀬戸さんの前に落としました。宇奈月さんの奇声ハッタリに気圧されて重心が後ろに傾いていた瀬戸さんは一歩も動けず、


「ふぐぅ……」


 と捨てられた仔犬のようにか弱い声を出しただけで、ボールはそのまま落下。


 スコア、12―13。


 ローテが回り、北山さんが後衛バックへ。私OUT、霧咲きりさきさんIN。ベンチの山野辺先生と立沢先輩を経由して、しょぼくれている油町先輩の待つアップゾーンへ。


「うぅ……どうせ私は要らない子なんだ……使い捨てにされる運命なんだ……」


「ドンマイです、油町先輩。しかしながら、先輩が西垣さんの興味を引き付けていたおかげで、他のメンバーには目立った被害がないわけですから、決して要らないなんてことはありませんよ。むしろ大いにチームに貢献していると言えます」


 もしも西垣さんがスターティングメンバーである北山さんを封じに掛かっていたら、前半からもっと苦戦していたかもですしね。


「ううっ、ひかりんちゃん……! いつもそっけないから胡桃くるみみたいでちょっと怖いなって思ってたけど……! なんていい子なんだっ! うおおおっ大好きだぁー!」


「ええいっ、撫でるでないです! 撫でるでないです!」


「ちょこっとだけっ! そのふわふわした髪の毛のほんの先っちょだけ触らせてくれればいいからっ!」


「ならんものはならんですっ!」


 あとコートの中の藤島さん! なにちらちらこっちを見てるですか! あなたは余所見している場合ではないでしょう! なんたってこのローテの明正めいじょう学園の攻撃陣には――、


「よっ……と!」


 ぱしゅん、


 とあからさまにコントロール重視のストレート打ちがレフト線に突き刺さります。打ったのは、このローテだけライトアタッカーを担う〝偉大なる七《"Big" Seven》〟――小田原おだわら七絵ななえ先輩。


 スコア、12―14。私は乱された癖っ毛を直してコートへ。私IN、北山さんOUTです。


「おかえりなさい、三園みそのさん」


「ただいまです、藤島さん」


「次のサーブは七絵さん……威力があるから気をつけなきゃね」


「まったくおっしゃる通りです」


 きりっ、と口を引き結ぶ藤島さん。なぜ先程はその集中力を発揮されなかったのですか――と言う代わりにぽんと背中を叩きました。


「ふっひゃひゃひゃん!?」


 ……どうしましょう。私、藤島さんに触れるとよく壊してしまうんですけれど……自分では気づかないうちに何か変な磁気とか発しているんでしょうかね――と悩む今日この頃。


「――七絵」


 と、押し殺したような囁き声を聞き取ったのは偶然でした。見ると、相手ベンチの星賀先輩がサービスゾーンの小田原先輩に何やら目配せしています。小田原先輩はそれに目だけで頷きを返し、サーブの準備に入ります。


 ごくり、と私の喉が鳴ったのと、ぴッ、と笛が鳴ったのは、同時でした。


 たっ、と小田原先輩がジャンプフローターの踏み込みを開始します。大きな身体を軽やかにしならせ、ボールをトス、からの踏み切り。上段に構えられた刀のような右腕を、ひゅ、と空中で降り下ろします。


 ばしんっ!


 と強烈なサーブ。狙いはコート中央の穴。速いっ、と背中に冷や汗が伝うのを感じつつ、ダッシュ。しかし、ボールは道半ば――ネットに引っ掛かってこちらへはやってきませんでした。


「……申し訳ない」


 一言、厳かに呟く小田原先輩。ベンチの星賀先輩が「ドンマイ、切り替えていこう!」と明るく励まします。これはこちらにとっては僥倖ラッキーでした。油町先輩が下がってシーソーゲームの流れに戻り、そのリズムに意識が慣れた頃を見計らっての、サーブでの揺さぶり。それしきの仕掛けでかくもヒヤリハットさせられるとは、私もまだまだ修練が足りませんね。


 とまれ、スコア、13―14。


 こちらのローテが回り、セッターの市川先輩が前衛フロントに上がって、サーバーはその対角の宇奈月さん。恐らくは立沢先輩や星賀先輩とも渡り合えるであろう必殺仕掛人ひっさつしかけにんたる宇奈月さんのことですからここは一つ何かやらかすかと思いきや、ばしんっ、とごく普通のフローター。まだ時機ではない、ということなのでしょうか。


 サーブはBR(バックライト)の栄さんへ。栄さんは得意のオーバーハンドでそれを受け、きっちり小田原先輩に返します。今川さん・西垣さん・瀬戸さんの三枚攻撃。小田原先輩はライトの瀬戸さんを使ってきました。岩村先輩と霧咲さんがブロックにつきます。瀬戸さんはその間を目掛けて、強打。


 ががっ、


 とボールはブロックに引っ掛かり、失速。そしてブロックのほぼ後ろに落ちていきます。咄嗟に霧咲さんが空中で上体を捩り腕を伸ばしますが――届かず。ボールは風船のようにぽよんと接地して、まもなく止まります。


 スコア、13―15。


「うっしゃあああ無得点回避っふぅぅぅ!!」


 瀬戸さん、試合が決まったかのような喜びっぷりです。お祭り騒ぎです。もちろんアタッカーなら誰しも自力での得点が嬉しいでしょうが。


 あちらのローテが回り、四ローテぶりのダブルエース揃い踏みです。サーバーは西垣さん。対するこちらは、岩村先輩と霧咲さんの二枚攻撃。


 ばしっ、


 と伸びやかなサーブが飛んできます。オーライ、と岩村先輩がオーバーハンドで市川先輩に返し、そのままレフトに開きます。市川先輩は岩村先輩にレフト平行を送り、そして岩村先輩の砲撃スパイクが、


 ごがっ!


 と瀬戸さんを襲いました。ボールは瀬戸さんの手を抉り取り(比喩です、もちろん)、それによってエネルギーを失って、ブロックのほぼ真後ろに落ちていきます。咄嗟に今川さんが反応して手を伸ばしましたが――届かず。ボールは鉄球のようにずしんと接地して、やがて止まりました。そして瀬戸さんは手を抱えて俯いたまま完全に沈黙してしまいました。なんと言えばいいのか気を強く持って生きてください。


 スコア、14―15。こちらのローテが周り、藤島さんが前衛フロントへ。


 市川先輩のサーブでのブレイクから、油町先輩の投入と西垣さんの活躍まで、一時的に天秤が揺れ動いたものの、大きく傾く結果にはならず。再びの膠着状態シーソーゲームで、あれよあれよという間にサーバーが岩村先輩に回帰し、これでローテはちょうど二周り。


 ここからは、いよいよ佳境の三周目。試合は終盤へと突入していきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ