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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第八章(城上女子) VS明正学園高校
279/374

156(知沙) アタック隊長

「大したもんだなあ、北山きたやまは。この合宿で一番伸びたのはあいつじゃないか」


「そうですね。ミドルブロッカーとしてはもう初心者とは言えないでしょう」


 4―4の同点にされたというのに、神保じんぼ先生と志帆しほちゃんはまったく焦りを見せず、どころか相手チームの梨衣菜りいなちゃんを手放しでほめそやす。


「おかげで西垣にしがきも普段よりいい動きをしているが、ああいう場面になると、やはり北山のほうが強いな」


「それが梨衣菜の持ち味で、芹亜せりあには芹亜の持ち味があります。発揮される時を待ちましょう」


 ちなみに、志帆ちゃんは本来アップゾーンにいるべきなんだけれど、今はTシャツの上からジャージを羽織って私の隣に座っている。後衛バックにいる凛々花(りりか)ちゃんやはやてちゃんと交替することもできるが、よっぽどのことがない限り、今日の試合では芹亜ちゃん以外と代わるつもりはないらしい。


「ローテ的には、ここか次が一番の踏ん張りどころか」


「はい。ですが、あまり心配は要らないかと。そのために『隊長』を決めましたから」


 隊長――とは、戦力集中型の変則ローテを導入するにあたって、志帆ちゃんが考案した決め事の一つである。


 多くのチーム(例えばセントレや獨楢どくなら新人や城上女じょじょじょもそうだ)では、エースとそれに次ぐアタッカーが、対角に置かれる。その場合、常に二人のうちどちらかが前衛フロントにいるので、どうしても決めたいときや、レシーブが乱れたときなどは、そこ(大抵はレフトのウイングスパイカーだ)へトスを上げればいい。


 けれど、明正学園うちの変則ローテでは、本来対角に置くべきダブルエースが隣り合っている。そこで、各ローテごとに、攻撃の中心となる『アタック隊長』を決めたのだ。凛々花ちゃんと颯ちゃんが前衛フロントにいるときは、もちろん、二人の両方またはどちらかである。わざわざ決める必要があったのは、だから、そうではないローテ。それが、今のローテでは、夕里ちゃんなのである。


 ―――――――――

   七絵


 芹亜 夕里 凛々花

    ↑アタック隊長!

  希和   颯

 ―――――――――


「……夕里ゆうりちゃん、レフトからだけど大丈夫かな」


「本人が『任せてください』と言ったんだ。きっとどうにかするさ。それに、プレイヤーポジションがレフトだからと言って、必ずしもレフトから打たねばならない、というわけでもないしね」


 ぽすん、と志帆ちゃんが私の肩に軽く寄りかかってくる。そう言えば、昨日の夜もみんなが寝静まった頃にいそいそと私の布団に潜り込んできたっけ。そういう周期バイオリズムに入ったのだ。実のところ、志帆ちゃんは超がつくほどの甘えたがりである。


 私は志帆ちゃんに肩を貸したまま(本当は頭を撫でてあげたりしたいのだけれど、何しろ今は試合中で記録をつけなきゃいけない)、コートを見守る。


 サーブは引き続き、透ちゃん。ばしっ、と力強く放たれたボールは颯ちゃんへ。スパイクカットが得意な凛々花ちゃんに対して、サーブカットが得意な颯ちゃんは、落ち着いて正面でレシーブ。ナイスカット、とナナちゃんが小さく呟く。


 そこへ、まずはレフトから芹亜ちゃんが速攻へ入る。瞬発スピード型の颯ちゃん・梨衣菜ちゃんに比べるとのんびりな助走(でも踏み出しのタイミングが早いから最終的には間に合う)。そして、その裏で夕里ちゃんが動き出す。レフトから速攻に入る芹亜ちゃんと交差する形で、センターからレフトへ踏み出す夕里ちゃん――と、次の瞬間だった。


 ぎゅん、


 と夕里ちゃんが突然の方向転換(切り返し)。向かう先は、左打ちの夕里ちゃんの本領――ライトだ。


「っ――あれ!? 夕里殿が消えたっス!?」


「まりーな! ライトライト!」


「ええっ、瞬間移動……!?」


 向こうでは梨衣菜ちゃんが大混乱していた。無理もない。ベンチから見ている私でも、夕里ちゃんの動き(フェイント)にびっくりしたくらいなのだ。目の前に芹亜ちゃんとナナちゃんの身体があって、裏にいる夕里ちゃんの姿が見えにくい梨衣菜ちゃんにとっては、瞬間移動のように見えるだろう。


「――よっせい!」


 ブロード気味にライトへ走り込み、すぱーん、とクロスへ気持ちよくボールを叩き込む夕里ちゃん。万智ちゃんと、フェイントにつられながらも実花ちゃんに押し出されて跳んだ梨衣菜ちゃん――二人のブロックの間を抜いたのだ。


「惜しいな。純粋にボールだけを見てリードブロックしていれば、あの手の小細工フェイントに引っ掛かることもなかっただろうに」


「何事も覚えたての頃が一番ハマりやすい、ということですね。それでも、即座に対応リカバリーしてみせたのはさすがでしょう」


「ああ、北山は真っ当によく頑張っているよ。だからこそ悔しいな。そんな頑張っている北山が、あんな汚いやり口でいいように翻弄されてしまうというのは」


「本当ですね。初級者を食い物にするようなやり方は、あまり感心できません」


「ちょっとー! 聞こえてますよお二方! なんで点取って監督と部長からブーイング受けなあかんのですかー!」


「「私は褒めたつもりなんだが(ね)」」


「いや明らかに悪口でしたよね!? 褒めとる言うとけば何言うてもいいわけやないですからね!?」


 んもーひどい人たちやわー、とぷりぷり頬を膨らませながら、夕里ちゃんは後衛バックに下がる。


 ――――――――

 希和 芹亜 七絵

 颯 凛々花 夕里(サーブ)


 スコアは、4―5。


 引き離したいけれども……どうだろう、と私は相手コートを見る。四人レシーブ体制の、三枚攻撃。


 ――――――――

      梨衣菜


 万智  実花

     静

  ひかり  透

 ――――――――


「ほなっ、行きまーす!」


 明るい声でそう言うと、夕里ちゃんはジャンプフローターのステップを踏む。ばしっ、とジャストミートした打球は、相手コートのライト線へ。実花ちゃんがサイドステップで落下点に回り込み、アンダーハンドで待ち受ける。と、直後、ボールは糸に引かれたように、くにっ、と外側へ変化した。


「およっ?」


 ぼよーん、


 とカットが主審側ライトに乱れる。サイドラインを割るCカットだ。「おっ、と……」とネット際に上がりかけていた静ちゃんが、審判台の傍の支柱ポールまで急いで走る。


「しずしず先輩、すいませんっ! そのままライトにお願いします!」


「うんっ、任せた……」


 実花ちゃんが助走距離を取りながらトスを呼ぶ。迎え撃つは、レフトの希和ちゃんとミドルブロッカーの芹亜ちゃん。実花ちゃんは落ち着いてタイミングを計り、とーん、と上がったオープントスに合わせて弾むように踏み込んでいく。結果的にだが、右打ちの実花ちゃんにとっては、セッターとトスボールを自身の右側に見ることができるので、打ちやすい形だ。そして、


「――ほいさっ!」


 だぱんっ、


 とキレのある強打を放った。ボールは希和ちゃんの手を弾いて主審レフト側へ大きく膨らんで、そのまま壁にぶつかる。ワンタッチアウト。


 スコア、5―5。


宇奈月うなづきもやるなぁ。そう言えば、あいつは出身はどこなんだ? 中学時代の成績は?」


「はて。それらの情報は私の耳には入ってきていませんね。夕里なら、もしかすると知っているかもしれません」


「チェック漏れとは、お前にしては珍しい」


「彼女については、私の管轄外なんですよ」


「ふうん……? まあ、いずれにせよいい選手プレイヤーだな」


 なんてまたしても相手を褒めているうちに、あちらのローテが回る。梨衣菜ちゃんが後衛バックに下がり、リベロのひかりちゃんが抜け、入れ替わりに入った音々(ねおん)ちゃんが前衛フロントへ。


 ――――――――

 音々 万智 実花

 静  透 梨衣菜(サーブ)


「さて。こちらは引き続きエース不在ローテなわけだが、ここでも、やはりその『隊長』とやらはいるんだな?」


「はい。本人は難色を示しましたけど、強引に任せました。きっとなんとかしてくれるでしょう」


 志帆ちゃんはそう言って意地悪そうに微笑むと、その『アタック隊長』へと視線を注いだ。

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