153(夕里) 本業
もおーえらい盛り上がっとって楽しそうやんか、172センチトリオ! ウチも混ぜて!
「七絵さん、次はライトにもらってもいいですか?」
「んー、状況次第かな」
「ですよねー」
明正学園の誇るダブルエースが前衛に揃っとる今、透のおるライト側から攻める必然性がないからな。
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夕里
七絵
凛々花 颯
志帆 希和
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向こうの前衛は透、梨衣菜、静さん。サーバーは音々。ウチは今か今かとフローターを構える音々がボールを打ち出すのを待つ。ローテーションの制約でレフト側(凛々花より左側)におるけど、ここでのウチのプレイヤーポジションはライト。サーブが放たれた瞬間に、ダッシュで反対側へ移動せなあかんのや。
「行きますっ!」
ばしっ、と丁寧なフローターが放たれる。ヨーイドンで同時に動き出すウチと七絵さん。ウチはライトへ、七絵さんはセッターの定位置へ。その間に、サーブはBRの希和のところへ。
ぼふっ。
「うげっ」
カエルが潰れたようなうめき声。見ると、希和の体勢とカットが大きく乱れていた。本人は尻餅をつき、ボールはフロントゾーンにも届いていない。『無難』を信条とする希和らしからぬ大崩れだ。
「「どうしたのよ(んだ)希和ぁー!?」」
「ご、ごめっ、ちょっとプレッシャーに耐え切れず……」
「「なに(なんだ)それ!?」」
泣き言を言う希和に、悲鳴を上げるダブルエース。隣で志帆さんが苦笑した。
「実戦では初めてのローテだからね。不測の事態くらい起こるさ」
言いながら、フォローに入る志帆さん。ボールは志帆さんのほぼ真上に浮いている。片手を上げて二段トスの構え。身体の正面は――ウチに向いている。
よし来たっ! とライトの定位置まで辿り着いたところで、思わず笑みが零れる。まあ、初の四人レシーブ体制で、しかも前衛二人は打つ気満々、後衛の相方がド安定の志帆さんと来れば、さぞかし『ミスできない』プレッシャーは大きかったやろ。せやけど、おかげで『状況』は整った。
「志帆さんっ!」
ウチはガソリンスタンドの店員さんがバックオーライする感じで、左手を下から上に大きく回す。志帆さんは意図を理解したのか、目を細め、そして、
とーん、
とオーバーハンドで山なりの二段トスをくれた。しかも言外の注文通りに『やや長め』。さすが、と心の中で志帆さんを拝み、ウチはコート外から鋭角にネットへ切り込む。
後方から飛んでくる二段トスを強打する場合、普通、大きく開いてクロスに打つ。VS聖レ一軍では凛々花がそれで奥沢さんに捕まった。
ほなストレートに打てばええやん、と思うけど、実際それは難しい。そこで、ちょっと小細工を弄する。
1、トスを長め(サイド寄り・アンテナの近く)にもらう。
2、助走は普通にクロスへ強打する感じで、ネットに対して鋭角に踏み込み、ブロッカーをセンター寄りに誘導する。
3、思いっきりジャンプし、空中で、ボールが本来の打点より少しだけ外側に流れるのを待つ(このためにトスは『長め』である必要がある)。
4、ボールを叩くのではなく、勢いそのままに進行方向だけを変える感じで、横っ腹を相手コート側にプッシュしてやる。
5、するとあら不思議。
ぼむっ、
「わっ!?」「わわぁ!」
と、ボールはセンター寄りに跳んだレフトブロッカーの透の左脇をすり抜け、BLに構える万智さんの前にすとんと落ちるっちゅー寸法や。
「ほんと詐欺みたいなヤツねあんた……」
ブロックフォローに入っていた希和が呆れたように片眉を上げ、それからほっと息を吐いた。
「でも、おかげで助かったわ」
「これくらいならお安い御用や。なんせこちとらライトアタッカーは本業やからな!」
「……そういや、あんた、あの森脇世奈の対角だったんだもんね」
そゆこと、とウチは親指を立てる。ウチはセッターにしてアタッカー。それもただのアタッカーやない。これは自慢やけど、あの世奈の――彰から一目置かれて村木先生も惚れ込む〝蒼白の真珠〟の――対角に置かれてぎりぎり釣り合う程度には『打てる』アタッカーやったんや。
「まあ、とにかくサンキュね。あんたのおかげで魔女裁判は免れそうよ」
「いや、それはどうやろか……」
ウチは志帆さんを見る。希和もそちらを見る。そこには――たぶんずっとこっちを見ていたんやろう――ばっちり微笑を決めて人差し指を口元に当てる志帆さんがいた。恐らくやけど、志帆さんの中で縫乃ポイント的なものが一つ溜まった、という意味やろう。
「……慈悲とかないのかしら、あの人……」
希和……キミはまだ志帆さんにそんなもんを期待しとったんやな……。
「いや! でもほら、挽回するチャンスはまだまだあるで! なっ!」
とウチはスコアボードに目を向けさせる。1―3。序盤も序盤や。
こちらのローテが回る。颯が下がり、七絵さんが前衛へ。
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七絵 夕里 凛々花
志帆 希和 颯(サーブ)
アタッカーが二人になって攻撃力は下がったものの、やっぱり七絵さんが前衛におる安心感は別格や。特に今は相手のエースがエースやから、なおさら。
いや……でも、どうやろな。実際のところ、単純なガチンコ勝負やと、どっちも負けとるとこが想像できひん……。
恐らく県内に片手で数えるほどしかいないであろう超弩級――〝黒い鉄鎚〟VS〝偉大なる七〟。
蓋を開けて見るまではわからへん……か。




