151(希和) ダブルエース
城上女子VS明正学園。
スコア、0―1。
決めた本人が驚くほどあっさり先取点を挙げたことで、開始早々こっちのコートはお祭り騒ぎだった。
「ナイスキー、露木さん」「初っ端から全開やなっ!」「その調子で頼むよ、凛々花」「七絵先輩、次はわたしに!」
わいのわいのと凛々花を取り囲む面々と距離を取りつつ、あの二人をハンバーグカレーに喩えるなら良くて福神漬け担当の私は「ナイスキー」と小声で呟いて後衛に去る。
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夕里 凛々花 颯
七絵 志帆 希和(サーブ)
とりま、あの二人が前衛にいる間は何も心配要らないわよね。っていうかそれがこのラインアップ最大の旨味なのだから、あの二人にはずんどこ稼いでもらわないと(あとで私が)困るのだ。
「希和、君の守備位置はBLだからね」
試合中限定のお下げ髪をご機嫌に揺らしながら、志帆さんがサービスゾーンにいる私のほうへやってくる。うっす、と私は頷く。
「それと、なるべく今の勢いのままいきたい。連続得点が望ましい」
次の攻撃の打ち合わせをしている四人を一瞥する志帆さん。まあ、凛々花が派手に決めた以上、すぐにでも颯に得点の機会を与えないと、あいつ間違いなく拗ねますからね。何かの弾みに無得点のままローテが回って後衛なんてことになったらめっちゃフラストレーションでしょうし。
「……サーブで崩せ、ってことですか?」
「それができるならぜひそうしてもらいたいね。ちなみに、サーブコントロールに覚えのある君は、どこを狙うつもりかな?」
「そうですね……あの陣形だと中央が穴っぽいですけど――」
向こうのコートでは、由紀恵さんにボールをぶつけられて悲鳴を上げている静さんを除いて、みんな定位置についている。
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静音々
透 万智
ひかり 実花
―――――――
「将欲廃之必固興之」
「えっ?」
「いっそリベロに打ち込んでみるといい。露骨過ぎない程度にね」
ころころと静さんから転がされてきたボールを、志帆さんは拾い上げて私に手渡す。コレヲハイセ――えっなんて言った今? というかリベロに打ち込めというのは一体――などと尋ねる暇はなかった。志帆さんはすぐに敵陣に向き直ってしまったし、ほどなく主審の笛が鳴ったからだ。
え、ええいっ! よくわからないが、ひとまず言われた通りに!
ばしっ、
と手堅く透とひかりんの間ややひかりん寄りくらいの位置へ打ち込む。そしてBRの守備位置へ――うわお危ない危ないBLだBL!
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凛々花 颯 夕里
希和 七絵
志帆
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と私がわたわたやっている間に、あちらでは、ぼむっ、とレシーブが上がる。
「ナイスカット、ひかりんっ!」
いやナイスカットされてますけどー!?
「希和、レシーブに集中!」
「わっ、わかりました!」
えっ? えっ? サーブで崩せって話じゃなかったの? どゆこと?
混乱しながらも攻撃に備える。向こうの攻撃は二枚。定位置からそのままレフト平行に入る透と、レセプション不参加ゆえになんの障害もなくAクイックに切り込む音々。ぴったりAカットからのばっちりコンビネーションだ。そこからセッターの静さんは、
ふぁ、
とベルベットの如く滑らかなトスを音々に送る。と、
「「させない(るか)ッ!!」」
それを見たうちのハンバーグカレーが同時に跳び上がった。高さ的にはほぼ互角。音々は力いっぱい打ち抜いた。
ばごごっ!
鈍い音がしてボールが舞い上がる。凛々花と颯の間を狙うもワンタッチ。すわ抜けてくるかと前に傾けた身体を咄嗟に起こす。
「希和、チャンスボール!」
誰が見てもわかることを誰よりも大きな声で叫ぶ志帆さん。やばい! これをスカしたら魔女(の魔女による魔女のための)裁判に掛けられて処される! 無難に無難に無難に――と心の中で唱えながら、私はカラーコーンパスで何度もそうしたように、ボールと目標(ここではセッターの七絵さんだ)を一つの視界に収め、細心の注意を払ってオーバーハンドした。
ひゅるる、とそこそこまあまあ悪くはないボールが返る。ほっ、と胸を撫で下ろしたのも束の間、
「希和、ブロックフォロー!」
素で忘れてた!?
こちらの攻撃は三枚攻撃――凛々花、颯、夕里だ。ハンバーグカレー+福神漬けなんてもんじゃない。言うならハンバーグカツカレー。トッピングにチーズはいかがですか?
ばちんっ!
と張りのいい快音が響く。打ったのは颯――そうだと読んで抑えにかかった音々のブロックを弾き跳ばしての、気迫の一撃。ボールは向こうのベンチを超えて、壁にぶち当たった。
「っ――――しゃあッ!」
凛々花に比べると控え目ながらも、クールに振る舞いたがる颯らしからぬ熱のこもった歓喜の声だ。
「ナイスサーブ。次もよろしく頼むよ。今度は『穴』狙いでね」
共にブロックフォローに入っていた私の背中を軽く叩き、嫣然と微笑む魔女。一方の私は、この結果の何がどこまでがこの人の魔法なのかわからず、頬が引き攣ってうまく笑えない。
何はともあれ、スコア、0―2。
ダブルエースは絶好調。この上ない先制ワンツーを決めた形だけれども……。
私はサービスゾーンから城上女メンバーを見据える。
まだ試合は始まったばかり。先のことはわかんない。わかんない、けど――とりあえず、言われたことくらいは無難にやってみせますかね。




