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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第八章(城上女子) VS明正学園高校
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150(由紀恵) ハンバーグカレー

「ほーん、そう来たかぁ。いやはやなかなかどうしてこれはこれは。ぐっふっふ、志帆しほ屋も悪よのぉ」


「なんと! 由紀恵ゆきえ殿はあの不思議なラインアップの秘密にもう気づいたっスか!?」


「いや、なんにもわからないよ? ただ胡桃くるみならこう言うかなーって真似してみただけ」


「今の胡桃殿の真似だったっスか!?」


「あの陰険な笑い方とかそっくりだったでしょ?」


「胡桃殿は『ぐっふっふ』とか言わないっス!!」


 と全力でツッコんでくれる北山きたやま梨衣菜りいなちゃん。この子は何をするにも全力だから楽白たのしろい。ツッコミの焦点を『ラインアップの秘密に気づいてなかったこと』ではなく『胡桃の真似が全然似てなかったこと』に絞ったのもグッドだ。


 なんて言ってるうちに、ぴいッ、と笛が鳴って試合開始。


 さあ待ちに待った、城上女子VS明正学園、第一セット! ついに――――ん、あれ!? バレーって野球の『プレイ・ボール』とかバスケの『ティップ・オフ』に相当するなんかはないんだっけ!? まあなんでもいいかっ!!


「うおりゃああー! 万智まちちゃーん! ないっさぁー!」


「万智殿おおおー! ないっさぁーっス!」


「ところで梨衣菜ちゃんはハンバーグカレーって好き?」


「いきなり!? なんの話っスか! 好きっスけど!?」


「ハンバーグカレーのいいところは、ハンバーグ単品でもカレー単品でも十分おいしいのに、二つを一つにすることで、いよいよおいしくなることだよね」


「まさしくっス! 1+1はもはや2ではない! 相乗効果で10にも100にもなるっス!」


「あれ? 相乗効果なら掛け算だから1×1で1になっちゃわない?」


「なんてこったス!?」


 ばしんっ、と万智ちゃんがサーブを放つ。ボールはFC(フロントセンター)を守る今川いまがわはやてちゃんへ。


「とまあ、そういうわけなのさ!」


「どういうわけっスか!?」


「だから、ハンバーグカレー!」


 私は明正学園コートを指差す。サーブカットはほどよい軌道で上がっていた。セッターはナナちゃん。切り込むアタッカーは三人。


 レフト、露木つゆき凛々花(りりか)ちゃん。


 センター、今川いまがわはやてちゃん。


 ライト、瀬戸せと希和きいなちゃん。


 コンビはレフト平行―センター速攻―ライトセミ。


 アタッカーの力がそのまま攻撃力に反映される、いたってシンプルな三枚攻撃。防御ブロック側はそのうち最も『危険』なアタッカーを警戒する。しかし困ったことに、今の明正学園はハンバーグカレー――危険おいしそう主役エースが二人いる。


薄明(Epical)英雄(Lyrical)〟と〝黎明(Zingy)風雲(Windy)〟――とかなんとか。


 二強独裁が続いていたという県庁地区で、志帆のように魔法を使うでもなく、おのが身一つ腕一本でチームを勝利に導いたという、二人の寵児ヒーロー


 どちらも放っておけない。見過ごせない。警戒を怠るわけにはいかない。


 でも最後にはどちらかを選択しなければいけないわけで――ここがミドルブロッカーの難しいところ。


 迎え撃つは状況判断が得意な霧咲きりさき音々(ねおん)ちゃん。でも今回は状況判断が得意であることが裏目に出る。速攻に切り込んでくる颯ちゃん、レフトで待つ凛々花ちゃん――二人のどちらを優先すべきか決められない。ならトスを見て跳べばいい、と思うけれど、あちらのセッターは小田原おだわらのナナちゃんだ。とおるくんをも上回る、セッターとしては破格の超身長(185センチ)。すなわちセットの位置が高い――セッターのリリースからアタッカーのヒットまでの猶予タイムラグが短いのだ。当然、その分だけブロッカーの出だしは相対的に遅れる。


 とんっ、


 とトスが軽々とレフトへ上がる。それを見て音々ちゃんがサイドへ回るけれど、間に合わない。あと何より凛々花ちゃんの打点がとんでもなく高い。ひび割れた防壁ブロックであれを止めろというのは無理な話だ。




 ――だあんっ!




 弓なりに反らせた全身から強烈なスパイクが放たれる。ぎりぎり音々ちゃんの指先がボールに触れたっぽいけれど走っている車に小石をぶつける程度の効果しかない。ボールは誰もいないコート中央で跳ね、ブロックの乱れを見て独断で前に出たひかりんちゃんの頭上を越えて、そのままぼよんぼよんと私たちのいるアップゾーンまで飛んできた。私はそれを片手でキャッチ。ぱしっ、と乾いた音が鳴って、あとには何も続かなかった。


 しーん、


 と水を打ったような静寂。はてどうしたのかな、と思って凛々花ちゃんを見てみると、自分が点を決めたことが信じられない、といった顔で、着地した体勢のまま固まっている。しかし、それもほんの数秒のことだった。凛々花ちゃんの口が徐々に笑みの形になっていく。そして彼女は喜びを噛み締めるようにぐっと拳を握り、それを高々と天井へ突き上げた。


「うわああああっしゃあああー!!」


 どうやらひどく『飢えていた』らしい。まるで餓死寸前の獣が荒野をかけずり回ってようやく獲物にありついたみたいな、腹の底からの咆哮が、体育館に響いた。


 ああ……彼女は強い子なんだなあ、と思う。


 強くありたい、誰よりも――そう願って、言葉にして、行動する。それは誰にでもできることではない。しかも結果を出せるとなると、その数はもっと限られる。


 思わず口元がにんまりと綻ぶ。そしてフルパワーでボールを投げ返す。しずかのおしりに当たった。


「ふほゃ!?」


「ごっめーん、静ママー! 狙ったわけじゃないの! 信じて!」


「う、うん……それは信じるけど、次からボールは投げずに転がして返してね……」


「はーい!」


 スコア、0―1。


 先制は明正学園。けれどもまだまだ先は長い。


 あーん、出番が待ち遠しいっ!!

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