表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第八章(城上女子) VS明正学園高校
266/374

143(芹亜) 二日目午前

 ゴールデン合同合宿、二日目午前。


 その日のスペシャルゲスト第一陣は、神保じんぼ沙貴子さきこ先生の旦那様と娘さん、それと先生の旦那様のお知り合いという男の人の、三人だった。


「おはようございます、皆さん。いやー沙貴子さんから聞いていたけど、本当に背の高い子が多いねー」


 のほほんとした喋り方に、ふわっとした柔和な笑み。でも、その油断ない眼差しとまっすぐ伸びた背筋を見れば、身体の内にとても膨大なエネルギーを宿しているとわかる。そんな旦那様のお名前は、神保じんぼ唯文ただふみさん。職業はやっぱり先生で、西地区の高校で男子バレーボール部の指導しているという。身長は城上しろのぼり女子のとおるより少し高いくらいだ。


「おはようございます! じんぼさあやです! よろしくおねがいします!」


 お下げ髪の先が地面につくくらいにぺっこりと礼をしたのは、神保先生の娘さん。お名前は漢字で紗亜弥さあやちゃん。新品の子供用ハサミみたいだ、と思った。小学生らしい見た目の小ささや丸さは微笑んでしまうくらいに可愛らしい。それでいて、その眼光の尖鋭さは、まさにこの親にしてこの子あり。きらきらと光る鋼の刃に、欠けや錆びは一切ない。


「どうも……初めまして。こ、この度は、えっと、お邪魔させていただきます……」


『活き活き健康家族』なんてキャッチコピーをつけたくなる神保家に対して、その人は見るからに血色がよくなかった。背は私より高いのだが、肌は生白く、ひょろりとやせ形で、背筋も曲がっている。なんでも唯文さんの二つ下の後輩で、高校・大学のバレー部で一緒だった仲らしい。名前は坂木さかきゆうさんという。


「よし! じゃあ始めるぞ!」


 自己紹介もそこそこに、神保先生の一声でぐるぐる走ってボールを取る練習が始まった。ボールを投げるのは、先生と唯文さんの二人。コートの両面を使って、一組につき三分×四セット。一回でも途切れることなく拾いきれば課題クリアだ。


 ちなみに紗亜弥さあやちゃんは――恐らくそのために駆り出されたのだろう――坂木さんに面倒を見てもらっていた。体育館の端の空きスペースで、持ってきたビニールボールを使ってキャッチボールを始める二人。そのうちに、紗亜弥ちゃんが、放られたボールをアンダーやオーバーで返すようになる。彼女がもう十年早く生まれていればなあ、とちょっと残念に思う。そしたらこっちで一緒に練習できたのに、と。


 で、一時間後。


 ぐるぐる練習が終わったあとは、サーブカットの練習だった。内容は、三人がそれぞれFL(フロントレフト)FC(フロントセンター)BL(バックレフト)のポジションに入って、全員でサーブに対処するというもの。上から見ると、ちょうど三角形のフォーメーションになるから、『三角サーブカット』と先生は名づけていた。


 この三角サーブカットは、通常の一人サーブカットのように、ボールをセッターに返せればそれで良し、というわけではなかった。サーブカットからの『攻撃』を想定した練習なのだ。カットをきっちり上げるだけではまだ五十点で、百点を取るためには、カットをきっちり上げてなおかつ、FL(フロントレフト)がレフト平行、FC(フロントセンター)が速攻に入らないといけない。


 ――――――

 ↓サーブカット後、レフト平行に入る

 FL  FC

     ↑サーブカット後、速攻に入る

   BL

   ↑サーブカットに集中

 ――――――


 当然、サーブカットに尽力すべき比率は、各ポジションによって異なる。一番守備範囲が大きくなるのは、攻撃に参加しないBL(バックレフト)。ここはとにかくレシーブに専念。次いで、最低でもオープントスが打てればいいサイドのFL(フロントレフト)が、中くらいの守備範囲。そして、最も繊細な判断が要求されるのが、速攻に入らなければいけないFC(フロントセンター)となる。


 前提として、FC(フロントセンター)はその守備範囲をできるだけ小さめにしたい。しかしかといって、他の二人に任せ過ぎてカットが乱れてしまうようでは、本末転倒。さらに、たとえ自身でAカットを上げても、態勢を崩されたりなどして速攻に入られないようでは、やはり本末転倒。ここをどうやってうまいこと処理するかに、三人の連携が試される。


 この三角サーブカット。成功条件は、A~Bカットが上がり、かつ、前衛フロントの二人が平行―速攻のコンビに入る(実際には打たず、仮の踏み込みをする)ことだ。そして、この『成功』を十回以上達成すれば、課題クリアとなる。


 サーブは、今度も神保先生と唯文さんが打った。一組あたり二十一本×四セット。ちなみに、サーブの本数が二十一と半端なのは、三の倍数に合わせたからだ。七本ごとに三人がポジションを回していくのである。


 また、ぐるぐる練習が終わったタイミングで、知沙ちささんが昼食作りのために抜けた。代わりにボール出しに抜擢されたのはなんと紗亜弥さあやちゃんだ。いちっ、にっ、と数を数えながらテキパキとボールを渡していく姿に、誰もが癒された。


 そうして一時間があっという間に過ぎ、全セットが終了した。午前中の練習はここまでで、昼食は十二時半からだ。私たちはクールダウンを済ませると、ぞろぞろと合宿所に戻った。


 あれ? と私が疑問を抱いたのは、その時だ。そう言えば、昼食の準備のために練習を抜けたのは知沙さん一人だったけれど、この人数の昼食を作るのに手は足りたのだろうか……と。


 でも、そこはもちろん、合宿の予定を組んだのは先輩たち。抜かりなどあろうはずもない。


「おっ、来たな、腹ペコリーナ諸君」


 食堂に入ると、そこには初めましての人たちが待ち受けていた。知沙さんを除いて、人数は四人。ちょうど料理と食器をテーブルに並べているところだった。えっえっなになにだれだれ――と入口付近で団子になる私たち。先頭にいた志帆さんが簡単な紹介をした。


「驚かせてすまないね。こちらは本日のスペシャルゲスト第二陣。明正学園女子バレーボール部裏部員の皆さんだ」


「オイ待て星賀ほしか、あたしは部員じゃねーぞ」


 なんてやり取りをしてから、ひとまず昼食の準備に戻る。やがて全員(なお、先生たちが食卓に混ざるのは夕食だけなので、今は生徒だけだ)が着席したところで、ゲストの自己紹介が始まった。最初に立ち上がったのは、腹ペコリーナの人だ。


「どうも皆さん、初めましての方もそうでない方も。私は明正学園三年の周防すおう美穂みほ。そこの志帆しほとは小学校からの付き合いで、バレーは中学から始めました。高校でもバレー部に入ったんだけど、去年人数が足りなくなってからは裏部員ってことでほぼ休部状態。新入部員の数によっては本格復帰も考えてたんだけど――目出度いことに今年の一年生は豊作みたいで。ま、たまにこうやって顔出すんで、これからよろしくね」


 ふんわりと人当たりのいい笑みを浮かべた周防さんは、いかにも如才ない人といった感じで、小学時代からの付き合いだという志帆さんに雰囲気が似ていた。身長は城上女の主将・万智さんと同じくらいでやや小柄。コーヒー色の艶のある髪を首元で一つ結びにしていて、お洒落なレストランのウェイトレスが似合いそうな人だった。


「えー、新入生と、城上女子の皆さんは、初めまして。細川ほそかわ律子りつこと言います。見ての通り細くはないんですけどね。えー、私は高校に入ってバレーを始めた口です。元々書道部と掛け持ちだったので、今はそっちの活動をメインでやってます。去年から休部状態云々ってのは、美穂と同じ。どうぞよろしくお願いします」


 書道部、と聞いてなんとなく着物姿を想像した。丸顔に癖のある茶髪のショートカット、それに恰幅の良さも相俟って、どこかの旅館で若女将をやっていそうな人だと思った。


「皆さん、初めまして。わたしはバレー部の裏部員――より正しくは、非正規部員ですね。二年の川崎かわさき恵理えりです。生徒会で書記をしていて、その縁で副会長――志帆先輩に声を掛けられて、去年一度、先輩方と一緒に大会に出させていただきました。よろしくお願いします」


 黒髪ロングに眼鏡の川崎さんは、お腹の前で両手を合わせ、丁寧に頭を下げた。礼儀正しい人のようだけれど、目尻が優しい感じに下がっていて、堅苦しい感じは全然ない。


「あたしは調理部の宇津木うつぎ紗枝さえ。バレー部とは縁もゆかりもねーが、今日は知沙の頼みで手伝いにきた。ま、礼なら知沙に言ってくれ」


 最後は、宇津木紗枝さん。身長は四人の中で一番高くて、160半ば。ウェーブがかったセミロングの髪を毛先のほうだけ白っぽく染めている。いかにも面倒そうに目を細めているが、知沙さんの頼みでやってきてしかも調理部だということは、この昼食作りでは副料理長を務めたに違いない。ごちそうさまになります、と私は心の中で手を合わせた。


「彼女たち四人は、去年の新人戦に明正学園女子バレーボール部として出場してくれたメンバーでね。今回の合宿だけでなく、今後も時々練習に参加してくれる予定だ」


「「よろしくお願いします!」」


「ちなみに言っておくが、裏と言えども部員は部員。彼女たちも立派なレギュラー候補だ。特に一年生諸君は遅れを取らないよう頑張ってくれたまえ」


「「はい!」」


「だからあたしは部員じゃねーって」


「などと本人は謙遜しているが、何を隠そう紗枝は去年の大会ではエースアタッカーをやってくれてね。それはもう獅子奮迅の大活躍だったよ」


「星賀、ハナシがなげーよ。メシが冷める」


「これは失礼。では、食材と作り手に、心からの感謝を込めて」


「「いただきますっ!!」」


 かくして、合宿は二日目の午後を迎える。

登場人物の平均身長:164.6cm


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ