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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第八章(城上女子) VS明正学園高校
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142(梨衣菜) お風呂

 お風呂のシーンが始まると思った? 残念! 今はもう合宿二日目っス! ご飯を食べて朝のランニングをして体育館に移動してアップを済ませて昨日と同じくカラーコーンを使ったパス&サーブ練習をして、現在時刻は十時。


「ボールコントロールを意識することには慣れてきたか? ――よろしい。というわけで、今日の練習ではさらに、複数人での『連携』を意識してもらう」


 そう言ったのは、明正学園の顧問・神保じんぼ沙貴子さきこ先生。傍にボール籠を寄せてネットの前に立ち、自分たちはその周りに集まっていた。


「これから三人一組になって、私がここから投げるボールを『連携』して拾ってもらう。で、その際の各自の守備位置だが――」


 神保先生は首を傾けて自分たちの後ろに目を向ける。振り返ると、コートのFC(フロントセンター)BL(バックレフト)BR(バックライト)の位置に一つずつカラーコーンが置かれていた。


「あの三つのコーンがおおよその目安だ。それぞれ好きなところについて、自分の守備範囲にボールが飛んできたら拾いにいく。このとき、他の二人は、レシーバーが拾ったボールを繋ぐ必要はない。レシーバーがボールに触れたら、私がすぐに次のボールを出すからだ。君たちはとにかく、私が投げるボールを次々に拾っていけばいい。もちろん、その過程でそれぞれの守備位置はいくらでも変更してくれて構わんぞ」


「はーい、先生! よくわかりませんっ!」


 神保先生がひとしきり説明したタイミングで、由紀恵ゆきえ殿がすかさず手を挙げる。自分もうまく練習のイメージが掴めていなかったので、これには大助かりだった。


「まっ、これもやってみるのが一番早いな。では、そうだな――そこの172センチトリオ。挑戦してみるかね?」


「「はいっ!」」


「172……って、あたしもか! はい!」


 デモプレー役に選ばれたのは、霧咲きりさき音々(ねおん)殿、露木つゆき凛々花(りりか)殿、今川いまがわはやて殿。自分たちは三人を残してコートの外まで出る。三人の位置取りは、FC(フロントセンター)に凛々花殿、BL(バックレフト)に颯殿、BR(バックライト)に音々殿となった。


 ――――――


   凛々花


 颯   音々

 ――――――


「まあ、まずはレベル1。簡単なところから行こう」


 ぽーん、と先生が下投げでボールを放る。それはBR(バックライト)にいた音々殿の正面に。音々殿は余裕のオーバーハンドで、ボールを籠の傍で手を挙げていた胡桃殿へ。先生は次に凛々花殿、颯殿に同じようにボールを投げる。これまた余裕綽々で、どちらもほぼぴったり胡桃殿に返す。「よし!」と満足げな笑顔で頷く先生。


「三人ともナイスパスだ。続いて、レベル2行くぞ。しっかり声掛けをしろよ」


 ぽーん、と下投げ。ボールは音々殿と凛々花殿の間へ。二人は言われた通りに「オーライ!」「任せたわ!」と声を掛け合い、きっちりチャンスボールを処理する。二球目は音々殿と颯殿の間。これも問題なし。ただ、三球目の凛々花殿・颯殿間のボールだけは、「「オーライ!」」と二人が取り合って失敗してしまった。おいおい、と神保先生が苦笑する。


「レベル2でもう脱落か? それではレベル3にはとても対応できんぞ?」


「「だってこいつが邪魔するから!」」


「えっと……ボールがあんたたちの間に行ったときは、あたしが指示出すわ。だから、ちゃんと従ってよね」


「「頼むわ(んだ)、音々!」」


「打ち合わせは済んだか? さて、ここからがこの練習の真骨頂――レベル3だ。テンポを上げていくぞ。それっ!」


 ぽーん、と投げ出されたボール。それはBR(バックライト)を守る音々殿の後方に。


「おっ、と……!」


 たた、っと音々殿はバックステップで素早く下がり、ジャンプしてオーバーハンドでボールを捉える。直後、


「それ、次だ!」


 音々殿の拾った一球目が胡桃殿に返るのを待たずして、二球目が放られる。位置はBC(バックセンター)のあたり。颯殿と音々殿の間だ。しかし、ジャンプしたばかりの音々殿ではどうしたって間に合わない。「任せろっ!」とすかさず颯殿が走る。持ち前の瞬発力を活かして落下点へ。それだけ見ると余裕そうで、実際、颯殿が拾ったボールはきっちり胡桃殿へ返った。しかし、


「ほれ、すぐ次だ!」


 ぽーん、と三球目が放られたところで、自分はようやくこの練習の主旨と難しさを理解する。ボールは、颯殿が後ろに下がったことでがら空きになったBL(バックレフト)へ。颯殿がそこにいれば正面で取れたチャンスボール。しかし、そこには今、誰もいない。代わりに、FC(フロントセンター)を守っていた凛々花殿が取りに下がる。


「任せなさい!」


「おっ、前が空いたか。それ!」


「っ……オーライ!」


 四球目は凛々花殿がいなくなったFC(フロントセンター)へ。一球目を取ったあとにBR(バックライト)に戻っていた音々殿が前に詰める。そしてその直後、


「ほーれどっちだー!」


 ぽーん、と神保先生がコート後方へ大きくボールを飛ばした。颯殿のいなくなったBL(バックレフト)に移動した凛々花殿と、音々殿のいなくなったBR(バックライト)に移動した颯殿の二人ともが、ボールを追って走り出す。四球目を拾った音々殿が振り返って指示を出そうとしたときには、遅かった。二人は同時にボールに手を伸ばすも、敢えなくミス。さらにトドメとばかりに、


「他人の心配してる場合じゃないぞ、霧咲」


 ぽーん、とFL(フロントレフト)のほうへボールを放る先生。音々殿はもちろんそちらへ走り、アンダーハンドで拾う。それ自体は成功。だが、


「誰もいないぞ、っと!」


 ひょい、と神保先生は三つのコーンの中間点に七球目を放った。なんの変哲もないチャンスボール。しかし、音々殿はFL(フロントレフト)へボールを拾いに走ったばかり、後方の凛々花殿と颯殿も縺れ合って動けずにいる。果たして、ぼむ、とボールは誰もいないコートの真ん中に落ちた。これが一球目だったなら、三人の誰もが余裕で拾えたボールなのに、だ。


「どうだ。テンポが上がるとなかなか難しいだろう?」


「「「はぁ、はぁ……!」」」


 肩で息をする三人。まんまと振り回された、と悔しげな表情だ。


「みんなもわかったと思うが、この練習は、一球一球の難易度はそう高くない。難しいのは連続で放られるボールに『三人』でどう対処していくかだ。

 誰がボールを取りにいくのか、そいつが空けた穴を残り二人でどうやってカバーするのか、さらにはカバーすることで空いてしまう新たな穴をどう埋めるのか――。

 そこで『連携』が必要になってくるわけだな。三人の間でしっかり『次の動き』が共有されていないと、レベル3のテンポでは手詰まりを起こすぞ」


 む、難しそうっス……!


「先生ー! なんか私にはかなり難しいっぽいです!」


「お前は特に苦手そうだな、油町ゆまち。どれ、じゃあ手本を見せてやれ、星賀ほしか


「はい」


「あとは……そうだな。西垣にしがき北山きたやま、二人も入ってみろ!」


 えっ!? 自分と芹亜せりあ殿が!? 大丈夫なんスか!?


「そう固くならずに。好きなところについてくれたまえ」


 涼しげな微笑をこちらに向けて、悠々とFC(フロントセンター)に構える志帆しほ殿。続いて、自分がBR(バックライト)、芹亜殿がBL(バックレフト)につく。


 ――――――


   志帆


 芹亜 梨衣菜

 ――――――


「三人とも準備はいいか? ――では始めるぞ。それっ!」


 ぽーん、と下投げ。ボールはBC(バックセンター)――自分と芹亜殿の間。身体はほとんど反射的に左へ動き出す。が、案外と言うべきか、案の定と言うべきか、咄嗟に掛けるべき言葉が出てこない。ここは自分か、芹亜殿か、どっちが拾うべきなのか――?


梨衣菜りいな


 君が取れ、と言外に込めた志帆殿の一言。さらに、


芹亜せりあはそのままBR(バックライト)へ」


 指示が出たことで迷いが消える。自分はボールを拾いつつ左へ、芹亜殿はそんな自分をひらりと避けて右へ。交差した瞬間にはっと気づく。なるほど、これなら穴は空かないっス!


「ほい!」


 自分が一球目を返した直後の、二球目。視界の端で捉える。ボールは自分と入れ替わりにBR(バックライト)へ移った芹亜殿の後方へ。


「芹亜」


 後ろを振り返ることもなく指示を飛ばす志帆殿。「はいっスです」と芹亜殿がボールを追う。


「よっ!」


 三球目はFR(フロントライト)。それを追って志帆殿が右へ走り出す。と同時に、


「梨衣菜」


 言って、FC(フロントセンター)を指差す志帆殿。前に詰めろ、ということだ。自分は弾かれたようにBL(バックレフト)から飛び出す。


「そりゃ!」


 ぽーん、と四球目が頭上を越えていく。って、今自分が空けたBL(バックレフト)の穴を狙われたっス!


「芹亜」


 三球目を拾った志帆殿の声。振り返るとBL(バックレフト)には芹亜殿が走り込んでいた。おおっ、ぴったり間に合った! そのままBL(バックレフト)には芹亜殿が入り、FC(フロントセンター)には自分がいて、BR(バックライト)には志帆殿が足を止めずに回り込む。三箇所ともきっちり埋まった。どこにも穴はない。神保先生がにやりと楽しそうに笑む。


「なかなかやるじゃないか! だったらレベル4だ! そうっ」


 ボールを掴んだ神保先生の腕が左へ振られる。さてはFL(フロントレフト)! ここは自分が、と重心をそちらへ傾ける。と、次の瞬間、


「れいっ!」


 ひょい、と先生は素早く腕を戻して逆のFR(フロントライト)にボールを放った。ってフェイント!? くっ、まずいっス! フロントには自分しかいないから、すぐ切り返さなきゃ――。


「止まるな、梨衣菜! そのまま後ろ(バック)へ回るんだ!」


 ざっ、とフェイントにつられなかった志帆殿が自分の代わりにBR(バックライト)から前に出る。片膝をついて落下点に滑り込み、レシーブ成功。さらに志帆殿はそのまま真後ろを指差し、


「芹亜!」


 と声を掛ける。志帆殿が空けたBR(バックライト)に詰めろ、ということだ。


「これなら――どうだっ!」


 容赦なく次のボールを放る神保先生。今度はBR(バックライト)、と見せかけてのBL(バックレフト)後方!? しまった、また騙されたっス! ここは、でも、BL(バックレフト)の自分が下がらなくては――。


「芹亜! 梨衣菜はBR(バックライト)へ!」


 え、でも芹亜殿はフェイントに――つられずちゃんとこっちに走ってきてたっス!? 全然見えてなかった! ってことは、だから、ボールは芹亜殿に任せて……そっか、自分がBR(バックライト)へ走れば――!


「っと……投げる穴がないな」


 FC(フロントセンター)には志帆殿、BL(バックレフト)には芹亜殿、BR(バックライト)には自分。走り回って呼吸は乱れているが、おかげで守備陣形には一切の乱れがない。


 こういうことか――と自分は神保先生の言った『連携』の意味がわかってくる。この練習は、放られるボールをただ追うだけではうまくいかない。あっちこっちに振り回されて後手に回ってしまうからだ。先手を取るためには、ボールを拾う動きに穴を埋める動きを組み込まないといけない。


 当然ながら、それには三人が同時に動かないと成立しない。実際、一球目が始まってから、自分も芹亜殿も志帆殿もほぼ走りっぱなしだった。常に誰か一人がボールを追って動いている以上、フォローすべき間隙が生まれ続けるわけだから、それを埋め続けるためには他の二人も連動してどんどん動いていかないと間に合わないのだ。


 その『連携』は本来、三人で声を掛け合いながらやるべきものなのだろう。しかし、今回の志帆殿はそれを一人でやってのけた。さながら親機と子機というか、魔女と箒というか、そんな感じで、自分と芹亜殿を含めた全体の動きを見事に制御してみせたのだ。


「すごいっス、志帆殿っ! これはアレっスか! 漫画でいうところの空間把握能力! 志帆殿は第三の目でコートを俯瞰したところが見えてるっスね!」


「いやいや、私はそんな愉快な超能力など持っていないよ。これくらいはただの慣れさ」


「だそうっスけど、そこのとこどうっスか、ひかり殿!」


「北山さんのいうコートを俯瞰云々が漫画的演出であることには同意します。あくまで『慣れ』だというのも本当でしょう。ただし、慣れさえすれば誰にでも同じことができるわけではないので、その点だけは勘違いなきよう」


「ちなみに『本物』はもっとすさまじいよ。それこそ天頂から見下ろしているかの如く、コート全体の動きを掌握するんだ」


「本物……?」


「いずれわかるさ」


 目を細め、ちらりとひかり殿を一瞥する志帆殿。その微笑の意味を考えているうちに、神保先生から組分けするよう指示が出る。初日のセッター組にリベロ二人を合わせた六人から(しずか)殿を引いた五人のところへ、各自自由に入るようにとのこと。結果、


 ひかり殿、凛々花殿、万智殿。


 実花殿、静殿、颯殿。


 志帆殿、音々殿、自分。


 七絵殿、由紀恵殿、芹亜殿。


 夕里殿、透殿、希和殿。


 となった。そしてちょうど組分けが終わったところで、体育館の扉が開く。


「おっ、間に合ったか」


 ほっとしたように微笑む神保先生。なんだか自分たちに向ける笑顔より少しだけ優しくて柔らかい感じだ。でも、それもそのはず。扉をくぐって現れたのは他でもない――、


「沙貴子さーん」


 ジャージ姿の背の高い男の人。さらにその人の足元には、真夏の太陽のような笑顔を見せる、小さなお下げ髪の女の子。


「さきこさーん!」


 うおっしゃああー小学生キターっス!!

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