140(知沙) チームキャプテン
ばむっ、
と画面の中の志帆ちゃんがサーブを受ける――今日の午後に行われたサーブレシーブ練習の録画映像だ。それを見ながら、神保先生と胡桃ちゃんがあれこれコメントする。私は二人の言うことをメモしたり、映像を早回ししたり巻戻ししたりする係だ。そうやって、メンバーの癖や特徴を把握し、改善点を洗い出す。そして、それらはお風呂を上がったあとに、私と胡桃ちゃんから個々に伝えることになっていた。
私は二人の話に耳を傾けつつ、それはそれとして、同じ会議室の対角で行われている談合のほうにも気を向けていた。志帆ちゃんとナナちゃんが差し向かいで話している。話題は何かと言えば、チームキャプテンのことだ。
というのも、バレーボールの現行ルールでは、『リベロはチームキャプテンになれない』のである。学校の課外活動における部長は志帆ちゃんで問題ないのだけれど、バレーボールの大会における代表は、リベロで出場する志帆ちゃん以外の誰かがやらなければならない。
「獨楢の時は混乱を防ぐために私がやったけれど、今回の合宿最終日に行われる練習試合では、君にチームキャプテンを任せたいと思う。つまり、いずれ来る大会の予行演習としてね」
「大会……チームキャプテン、ですか」
「何か、引っかかることが?」
「いえ、もちろん、否やはありません。覚悟はしてました。でも、多少、不安はあります」
「七絵は、小・中の頃はキャプテンではなかったのかね?」
「はい。向き不向きでいうと、あんまり向いているほうじゃなかったですから。それに、一般的に、セッターとキャプテンの兼任って避けますし」
「ああ……夕里もキャプテンではなかったものな。ゲームメイクをしながらチームをまとめるというのは、確かに容易ではなさそうだ」
「やってできないことは、たぶん、ないと思います。うちに関して言えば、ゲームメイクは栄さんが中心になると思いますし、それに、号令を掛けたり指示を出したりなんかは、今まで通り先輩がされるんですよね?」
「普段の練習がそうだからね。そのほうが自然だとは思ってるよ。でも、私が引退したあとのことを考えれば、そのあたりの仕事も、今から君に引き継ぐのもアリだと考えている。
もちろん、それが重荷になって君のパフォーマンスが落ちては本末転倒だから、どうするかは君の意見を優先しようと思うが……」
「今のところは、先輩に任せたいな、というのが正直な気持ちです」
「君にしては珍しく消極的だな。理由を聞いても?」
「はい。まあ、理由というほど大したものじゃなくて……単に、ガラじゃない、というか」
「ガラじゃない、と来たか」
くすくす、と志帆ちゃんは愉快そうに笑った。ナナちゃんは、拗ねているのか恥じているのか、ちょっと間を置いて、声を落として言う。
「……獨楢で聖レの一年生と試合しましたよね。あの時だって、ちょっと、やり過ぎたなって思ってるんです」
「ああ、最後のバックアタックのことか。私は、ああいう君も好きだがね」
「よしてください。本当、ガラじゃないんですから、ああいうの」
すまんすまん、と志帆ちゃんは苦笑しつつナナちゃんを宥め、そして、真面目な声で言う。
「君の言いたいことは、一応、わかったつもりだ。そのあたりは、私が引退するまでの宿題ということにしておこう。いずれにせよ、今回の練習試合――ひいては大会のチームキャプテンは、君がやってくれるということで」
「はい。それは、さすがに、下級生に負担は掛けられませんから」
「ありがとう。そうなるとなおさら、今回の合宿は君にとってまたとない機会だと思うよ。なんといっても城上女も主将は二年生だからね。……と、噂をすれば」
がらがら、と会議室の引き戸が開いて、噂をした子が現れる。近くにいたナナちゃんが初めに声を掛けた。
「あ、岩村さん、どうも」
「どもですぅ。って、すいません、お邪魔しちゃいましたか?」
「いや、今ちょうど、君の話をしていたところでね。実は折り入ってお願いしたいことがあって――七絵にチームキャプテンのイロハを教えてやってほしいんだ」
「あっ、そっか、志帆さんはリベロですもんねぇ。なるほど。わかりました、私でよければ」
「よろしくお願いします」
頑張って、ナナちゃん部長(未来)! と、私は心の中でエールを送った。




