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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第八章(城上女子) VS明正学園高校
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129(ひかり) 薫風の候

 薫風の候。青々とした若葉が目に眩しく、日に日に高くなっていく太陽を見上げるにつけ、ざわざわと騒がしさを増す木々や虫たちと同じように、来る夏への期待に胸が躍ります。梅雨の到来にはまだしばし間があり、過ごしやすい日々が続く今日この頃、入学式からまだ一月足らずではありますが、高校生になった新鮮さも今はどこへやら、すっかり制服にも校舎にも新しい友人にも慣れ、充実した毎日を送っている私です。


 はい。というわけで、どうもご無沙汰(?)しております。先日の地区大会見学からますます張り切ってバレーボールに打ち込んでおります私、こと城上しろのぼり女子バレーボール部一年は三園みそのひかりでございます。ポジションは守備専門リベロなれば、コートの後方を縄張りにプレーさせていただいております。


「らすとぉー一本!」


「「はいっ!」」


 城上女じょじょじょバレーボール部主将、二年生の岩村いわむら万智まち先輩の芯の通った声に、全員がハリのある返事をします。本日最後のフリー・スパイク練習。私以外の皆さんはネットの向こう側。それぞれ好きなところから好きなように打って締めとなります。


「ではっ、らすとお願いしまぁーす!」


 一番手は岩村先輩。レフトに構えて右手を挙げます。それを見てボール出しをするのは、三年生マネージャーの立沢たちさわ胡桃くるみ先輩。ボール籠を傍らにアタックライン上のレフトとセンターの中程に陣取り、ふわりと山なりのボールをセッターへ投げます。


しずかちゃん、平行ぉー!」


 トスを呼ぶ岩村先輩。こくっ、と頷きで応えるのは、セッターの三年生、市川いちかわしずか先輩です。流れるようなフォームで落下点に入り、少し『持つ』癖のあるジャンプトスで、柔らかなトスをレフトへ。それを、


 ずどんっ!


 とストレートへ力いっぱい打ち込む岩村先輩。クロスで待ち構えていた私はそれを見送ります。155センチと小柄ながら頑健な肩を持つ岩村先輩のスパイクは、コート内で跳ね、そのまま穴を開ける勢いで壁に衝突、ごんっ、と鈍い音を立てて跳ね返ってきます。私はボールのところへ走り、ネット際に転がらないようそれを誰もいない壁際へと流しました。


「ありがとう、ひかりちゃん。私もレシーブ(こっち)にいていい?」


「どうぞどうぞ」


 ネットを潜った岩村先輩は、笑顔で私に手を振って、いそいそとBL(バックレフト)に構えます。私もBC(バックセンター)の定位置に戻り、準備完了。


 さて、続いてのアタッカーは。


「静ー、いつものー!」


 レフトからぶんぶんと左手を振るのは、三年生の油町ゆまち由紀恵ゆきえ先輩。市川先輩が頷き、立沢先輩がボールを出します。と、油町先輩は平行より明らかに速いタイミングでネットへ切り込みます。


 ひゅん、ぱぁん!


 と軽快に打ち込まれたのは、Bクイックに近い何か。アタックラインで跳ねたボールは、ちょうど私の頭の上へ。私はそれをジャンプしてオーバーハンドで岩村先輩にパスします。


「あー、やっぱこれに限るねっ!」


 ぐるんっ、と打ち手である左腕を回す油町先輩。このお方、今のような『いつもの』だと恐ろしく強烈なスパイクを放つのですが、普通の平行やオープントスだとタイミングが取れないらしく、打ち損じてしまいます。フリー以外の練習では『いつもの』を立沢先輩に禁止されているので、解放された今は晴れ晴れとした表情です。


「よーし、じゃあブロックでもしよっかな!」


「由紀恵、下級生の邪魔しないで」


 私たち(こちら)側のネット際に張り付いた油町先輩を、立沢先輩がたしなめます。油町先輩は「えー?」と不満げな声を出しますが、市川先輩が「これフリーだから」と念を押すと、「はーい」と諦めて私たちのほうを向きました。そして「へいっ、かむかむっ!」と手を叩きます。自分のほうへ返球レシーブしてこい、ということでしょう。どうしてもボールに触っていたいようです。まあ、気持ちはわかりますし、目標セッターがいると助かるので、否やはありません。


 というわけで、三番手のアタッカーに行ってみましょう。


「しずしず先輩! ライトお願いしますっ!」


 底抜けに明るい声でトスを呼ぶのは、一年生の宇奈月うなづき実花みかさん。一周前はレフトで右手を挙げていた彼女ですが、今はライトで左手を上げています。というのもこの方、なんと世にも珍しい両打ち(スイッチアタッカー)なのです。


「よいしょ!」


 すぱん!


 と無駄のないフォームから繰り出されるライトセミ。力強い打球は真っ直ぐ私のところへ。ばしっ、と油町先輩へ返すと、宇奈月さんはにこにこ笑ってぶいします。


「ナイスカット、ひかりん!」


「……それほどでも」


 ぴりぴりと痺れる腕を擦りながら、軽く頭を下げます。明らかにピンポイントで私を狙っておきながら、このスピード・パワー・回転量スピン――まったく驚異的です。


「それじゃ、私はBR(こっち)もらうねー」


「どうぞどうぞ」


 宇奈月さんがBR(バックライト)に陣取って、守備側は三人。対する四番手のアタッカーは、この方です。


「Aクイック、気持ち速めでお願いします」


 落ち着いた声で細かい注文をするのは、元セッターの一年生、霧咲きりさき音々(ねおん)さん。市川先輩が頷いて、ボールが出されます。霧咲さんはそれを一瞥し、たたっ、と、すらりと美しい肢体を躍らせて、


 ぱしゅん、


 と鮮やかな速攻クイックを放ちました。ボールは正面ややクロス方向へ。前に詰めていた私はサイドステップで落下点に滑り込み、床につく寸前にそれを掬い上げます。ボールはほどよく油町先輩セッターへ。


「おおっ、ナイスカット、ひかりんちゃん!」(油町先輩)


「むむっ」(霧咲さん)


「ねねちーん、肩回ってないぞー!」(宇奈月さん)


「そ、そうかしら……?」(霧咲さん)


「トス低かったかな?」(市川先輩)


「いえ、トスはばっちりだったんですけど……」(霧咲さん)


 改善の余地あり、と何回かフォームを確認して、霧咲さんはその場から離れます。こちら側ではなくあちら側に残り、まだ打っていない二人を見守ります。


 というわけで、ラストツー。お次のアタッカーは。


「自分も速攻(Aクイック)で! お願いしまっス!」


 溌剌とした声を上げたのは、一年生の北山きたやま梨衣菜りいなさん。バレーを始めたのはついこの間の北山さんですが、着々と上達しております。ぽーん、とボールが出されると、すっかり板についてきた助走から高々と跳び上がり、腕を振り下ろします。


「てやーっス!」


 びたっ、


 と今回は残念ながら当たり損ない。横回転の掛かったボールは私の右側へ。たたっ、と途中まで追ってストップ。見送った打球はエンドラインを割ってアウトとなりました。


「ぬあーっ、なぜっスか!?」(北山さん)


「梨衣菜、突っ込み過ぎよ。踏み込み位置はあと半歩手前でいいわ。ちゃんと足元を見なさい」(霧咲さん)


「まりーな、しずしず先輩とボールから目を離さないようにね! ちゃんと上を見るんだよ!」(宇奈月さん)


「わかったっス! 足元をよく見ながらちゃんと上を見――えっ!?」(北山さん)


 相反するアドバイスに混乱する北山さん。見かねた霧咲さんが「いい? まずはね……」と北山さんを引き連れて、秩序立った説明を与えます。同じミドルブロッカーなので、最近は霧咲さんが北山さんにあれこれ教えるシーンを多く見かけます。


 さて、お次はいよいよ六番手――最後のアタッカーです。


「レ、レフトオープン、お願いしますっ」


 控え目にトスを呼んだのは、一年生エースの藤島ふじしまとおるさん。長身選手の多い我らが城上女でも、ひときわ大柄なレフト・ウイングスパイカー。身長はなんと181センチで、昨年の中学県選抜チームのエースを務めたほどの御仁です。当然ながら、そのスパイクは豪快そのもので、


 ぐわっ、


 と跳び上がると、中学時代に〝黒い(Headlong)鉄鎚(Hammer)〟と称された右腕を力強く振り下ろし、


 ぼこんっ!


 と二階ギャラリーまでボールを吹っ飛ばしました。


「うあぁっ!? す、すいません!!」


「……透、締まらないから、もう一本」


「は、はいぃ!」


 立沢先輩からリテイクが入りました。藤島さんは別段暴打が多いタイプではないのですが、なぜかたまに派手に打ち損じることがあります。


「ひかりん、ほら、危ないから下がって下がって」


 ぐいっ、とにこにこ顔の宇奈月さんに手を引かれ、エンドライン際の定位置まで戻される私。いや、しかしですね宇奈月さん、ノーブロックの藤島さんを拾おうと思えば前に出ないと始まらないわけで――。


「それはそうなんだけどっ! ひかりんが始めようとすると、とーるうが終わらなくなるから!」


「よくわかりませんが……」


 と渋ってはみたものの、結局は言われるがまま、私はコートの最後方からやり直しのラスト一球を見守ります。機械のように淡々とボールを出す立沢先輩。それを柔らかくレフトへ繋ぐ市川先輩。高々と舞うオープントス。そして藤島さんはまたしても豪快なフォームから、


 ばんっ!


 と強烈なスパイクをアタックライン上に叩きつけました。ボールは大きく跳ね上がり、結果、やはり二階ギャラリーへ。


「わああぁ、すいませんすいませんっ!」


「全員、ボール回収!」


「「はい!」」


「に、二階は私が行きますっ!」


 そんなこんなで、練習終了。城上女子高校バレーボール部は、本日も平常運転なのでした。


 ――――――


 ボール拾いとクールダウンの柔軟を終え、全体練習の締めとなる「お疲れ様でした」をしたあと。ミーティングのない日は、そこから言わば自由時間ロスタイムになります。これは本来は撤収作業に当てるべき時間なのですが、慣れてきたこの頃は、ネットやボールをすぐに片付けてしまわずに、練習時間中に確認しきれなかったところを合わせたり、その他の自主練習に当てたりと、思い思いに使うことが多くなっています。


 その日、私はコート脇の空きスペースで、宇奈月うなづきさんに付き合ってもらってレシーブ練習をしていました。入部以来一番多いパターンです。宇奈月さんも宇奈月さんで、ただ私に付き合うだけでなく、一打ごとに左右をスイッチしてスパイクフォームの確認をします。


 ばしんっ、ばしんっ、と対人の要領でラリーを続けていく私と宇奈月さん。宇奈月さんが打ち、私が拾い、打てそうなら連続で打ち、乱れた場合は一旦私に戻して二段トス、そしてまたばしんっ――といった具合。


「およ?」


 テンポよく強打を拾っていたところで、宇奈月さんが不意にボールをキャッチしました。はて、と首を傾げますが、思い返せばこのパターンは今までにも何度かありました。私は呼吸を整えて、出入口のほうに目を向けます。すると、ちょうどそのタイミングで、


「集合ぉー!」


 と岩村先輩の号令が掛かります。「「はいっ!」」と返事をして、私と宇奈月さん、それからコートに散らばっていた他のメンバーも、急ぎ足で出入口近くの壁際へ集まりました。


 そこにいたのは、岩村先輩より一回り小さいくらいの、黒縁眼鏡を掛けたスーツ姿のアラサー女性。私たち城上女バレー部の顧問、付け加えるなら私と宇奈月さんが在籍する一年二組の主担任で現代国語の担当でもある、山野辺やまのべしきみ先生です。


「「よろしくお願いします」」


 ばっ、と一斉に礼をすると、山野辺先生はちょっとびっくりしたように目を丸くして、「え、えー、はい」とワンクッション置いてから話し始めました。


「み、皆さん。今日もお疲れ様です。なにか、練習していて困ったこととか、ありましたか?」


「大丈夫ですっ!」


「あっ、そ、それは何よりです。えー……あ、そうっ、明後日からいよいよ合宿になりますがっ」


 授業中はそうでもないのですが、担任や顧問としてはちょっと慌てやすいところがある山野辺先生は、手をぱたぱたさせながら話します。


「明日はお休みなので、最終確認をしたいと思いますっ。集合時間は、部室に朝の八時、で、ボールなんかは全部みんなで持っていく……のよね?」


「はい、そのあたりは、わたしたちでも再確認しました。明日の夕方にも、念のためメッセージを回す予定です」


「あっ、ありがとう。えっと……じゃあ、先生から改めて伝えることは二つです。一つ目は、保険証を必ず、忘れずに持ってくること。

 二つ目は、貴重品についてです。高額な装飾品や電子機器など、合宿に不必要な私物の持ち込みは禁止です。事前に相談のなかったものは、見つけ次第こちらで預かりますので、そのつもりで。

 あとは、現金。こちらも必要以上に持ってこないこと。緊急で入り用の場合はこちらで立て替えますし、基本的には行き帰りの交通費と初日の昼食以外、必要なお金は部費と参加費で賄いますので。

 あと……ああっ、そうでした! ええ、食べ物アレルギーや、持病、常用薬があって相談してない人はもういませんね? みんなの前で言いにくいことでも、先生には必ず教えてください。大丈夫ですね?」


「「はいっ!」」


「よかった……じゃあ、そろそろ体育館を閉めるそうですから、今日は早めに上がって合宿に備えてください。先生からは以上――うん、はいっ、以上です!」


「「ありがとうございました!」」


「は、はい、こちらこそ……」


「じゃあみんな、片付けを始めましょう!」


「「はい!」」


 山野辺先生に一礼し、私たちは片付けのためにコートに散ります。岩村先輩と立沢先輩は、その場に残って山野辺先生と合宿の最終打ち合わせ。他校との合同合宿は先生にとっても先輩たちにとっても初めての試みだそうなので、色々と大変そうです。


「いよいよ明後日から合宿ですか……。そう言えば、今回は珍しく、相手校についてなんの情報もないですね」


「気になるの、ひかりん?」


 ボールをボール袋に詰めつつ、ポールに巻く筒状のクッションを大剣に見立てて市川先輩を襲う油町先輩とその騒ぎに対してなぜか市川先輩に「うるさい」と叱責する立沢先輩たち三年生を横目に眺めながら、私は合同合宿の相手校について想像を巡らせます。


「そうですね。地区大会の時はある程度予備知識があったので心の準備ができましたが、今回は本当になんの事前情報もありませんゆえ」


 三年生曰く、今回の相手校の顧問は、先輩たちが一年生の頃に城上女バレー部の顧問をしていた方(つまり山野辺先生の前任者に当たります)なのだそうです。今回の合宿が実現したのもそのご縁があったからこそというお話でした。なので、その先生――神保じんぼ沙貴子さきこ先生については、実業団経験者であることや、その手腕が確かであることなどを先輩たちから聞き及んでいます。しかし、実際に合宿を共にするメンバーについては、まったく未知のままなのでした。今までその情報通っぷりを遺憾なく発揮してきた立沢先輩も、今回に限っては守備範囲ではないとのこと。


「困ったことに、私は中学では県大会に出てないので、あまり他地区のことには明るくないんですよね……」


「それを言ったら私はもっとさっぱりだよ!」


 まったく仰る通りです。宇奈月さんはさすらいの転校少女。この県に住むようになったのだってつい最近のことなのです。ここは県大会経験者の藤島さんや霧咲さんにお尋ねしたいところですが――今は油町先輩に襲われてそれどころではなさそうです。


「ふむ。それでひかりは何を知りたいの?」


「立沢先輩! いつの間に!?」


「先生との話が終わったみたいだから連れてきたよっ!」


「真面目に片付けをしているあなたたちには特別サービス。なんでも聞くといい」


「それはまた……過分の御贔屓を賜り幸甚の至りです」


 藤島さんたちも真面目に片付けをしようとしていたとは思いますが――さておき。


「今回の相手校――私立明正(めいじょう)学園高校について、立沢先輩はどこまでご存知なんですか? 県庁地区の高校だというのは既に聞きましたが……そもそも県庁地区がどういったところなのかもよくわからない次第で」


 なるほど、と立沢先輩は相槌を打って、それから何も見ずにすらすら答えてくれました。


「県内には東・西・南・北・中央・県庁――全部で六つの地区があるわけだけれど、県庁地区はその中でも最も規模が小さい。

 そのせいか、過去の記録を見る限り、県庁地区はあまりバレーが盛んじゃないみたい。中学総体インターミドルだと、和田わだ中と光ヶ丘(ひかりがおか)中ってとこが地区二強なんだけど、どちらも県大会では例年一回戦敗退。

 唯一の例外が三年前で、何があったのか無名校ダークホースが二強を抑えて地区一位、さらに県大会一回戦突破を達成していた。詳しくは目下調査中。

 それ以外に変わったことがあったのは、去年。やっぱり無名だった米沢よねざわ中と千川せんかわ中ってとこが地区代表になって、二強の片割れである光ヶ丘中が地区代表から漏れてる。これについては――」


 立沢先輩はそこで言葉を切って、きょろきょろと周りを見回します。遊んでいた油町先輩は市川先輩と岩村先輩に連行されてモップ掛け、藤島さんと霧咲さんと北山さんは油町先輩がやり残したネットの片付け、とそれぞれ忙しそうです。立沢先輩は「ま、いいか……」と呟き、こちらに向き直りました。


「中学での県庁地区は、今言った通り。高校でも、やっぱりあまり成績は振るわないみたい。明星めいせい学園ってところがここしばらく安定の地区一位なんだけど、そこも県大会で一回戦を突破するかしないかってレベル。つまり、県八強未満ってこと」


 ただし――と立沢先輩は声を落とし、『ここだけの話』感を出して言います。


「過去の記録は……今回に限っては、たぶん当てにならない。あっちも一年生が主体らしくて、チームとしては未完成ってことなんだけれど、神保先生――向こうの顧問の先生の言い方からして、何か裏があるっぽい。

 ところで、二人は獨和どくわ大附属楢木(ならぎ)高校ってわかる?」


 やや急に感じる話題転換。しかし、宇奈月さんは戸惑いを見せずに即答しました。


「知ってます、隣の県の強豪ですよねっ!」


 ああ、と私も頷きます。


「言われてみれば……春高などでよく耳にする名前かも知れません。その獨和大附属楢木高校がどうかしたんですか?」


「向こうの先生曰く、わたしたちがみなみ五和いつわと練習試合をした週の日曜に、明正学園はそこへ遠征に行ったらしい」


「それはそれは……一体全体なにがどうなってそのような」


 私たちが南五和と練習試合をしたのは、チーム発足直後のことでした。一年生主体だという明正学園とて事情はそう変わらないはずです。それがどうして全国大会に出場するような強豪――それも県外の高校への遠征にこぎ着けられるのでしょう。


「わたしもそこが気になったんだけれど、残念ながら向こうの先生には誤魔化されて、詳しくはわからない。SNSや呟きサイトで検索してみたところによれば、元々獨和大附属楢木に進学するはずだった有力選手が明正学園に転校したみたいで、その繋がりで実現したんじゃないかと思う。たぶん、獨和大附属楢木のほうが、遠征にかこつけてその有力選手を引き戻そうとしたんじゃないかな」


「かなり詳しくわかっているじゃないですか!」


 立沢先輩はなんなんですか? 将来は探偵にでもなるおつもりですか?


「というわけだから、二人も気をつけて」


「それは情報化社会のネットリテラシーについてですか? それとも強豪校から来たらしい転校生についてですか?」


「両方」


 ふっ、と悪戯っぽく苦笑して、立沢先輩は話を打ち切ります。見ると、他のメンバーもちょうど片付けを終え、こちらに集まってくるところでした。私と宇奈月さんが詰めたボールやボール籠を部室に運ぶためです。それぞれ適当に用具を手に取っ――もし、藤島さん、あなたは一人でいくつボール袋を持つおつもりですか――たりしつつ、私はこっそり宇奈月さんの表情を伺います。


「どうしたの、ひかりん?」


 一瞬で気付かれました。相変わらず察知能力の高い人です。


「いえ、なんでもありません」


 私は視線を切って、藤島さんが玩具を掴んで離さない子供のように抱え込むボール袋を引き剥がす作業に戻り、頭では立沢先輩の調査結果について考えます。


 県外からの転校生……もし本当にその人物を巡って遠征が組まれたのだとすれば、よほどの実力と事情があると見えます。奇態というか胡乱というか、どうにも曲者の匂いがしますね。しかし、そういった人物なら、あるいは――。


「だからどうしたの、ひかりん?」


「……いえ、なんでもないですよ」


 いずれにせよ、ゴールデン合宿、今から楽しみでなりません。


 うきうきるんるん、です。

ご覧いただきありがとうございます。ご無沙汰しております。

実に一年ぶりの三園さんの語り……ようやくホームに帰ってきた気がします。


ひとまず邂逅までは行く予定です。

そこから先はまた時間が掛かりそうです。気長にお付き合いくださると幸いです。

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