21(音々) ナイスキー
宇奈月の左打ちはともかくとして、やはり藤島は規格外だ。こんなに頼もしい味方はいない。そしてこんなに敵に回したくない相手はいない。
今、向こうのローテは、セッターが前衛で、アタッカーが二人しかいない。
そのうち、センターは一年生(なんかすごい名前の)。いや、今のクイックを見る限り彼女は普通に強いんだけど、こればっかりは相手が悪い。
落中の〝黒い鉄鎚〟――藤島透。
藤島が一人でセンターに(付け加えるならセッターのツーアタックにも)プレッシャーをかけてくれているおかげで、あたしと宇奈月はレフトのエースに集中できる。
「ワンターッチ!!」
今度は宇奈月が触れた。ボールはバックライトを守っている三園の頭上を超えて、エンドラインの外側へ。
「ぬあああああ届けええええっス!!」
北山が走っている。……速いな。あれなら届くかもしれない。どこに上がるかは未知数だが。
「北山さん、上です!」
フォローに入る三園。北山がそれに応える。振り回すような片手でボールに触れ、ほんの数センチだけ上に浮かせる。
追いついた三園がボールの下に滑り込み、一番近いところにいる岩村先輩へ。
岩村先輩は全身を使ったアンダーハンドで、山なりのボールを相手コートに返す。
「チャンスボール!!」
向こうのチームが攻撃態勢に入る。またAクイック―レフト平行か? いや、違う、センターアタッカーの踏み込みがクイックのタイミングじゃない。
ライトセミ―レフト平行。コートを左右に広く使った攻撃。センターの一年生・田中ロンダルキア(仮)はライトへ回り込む。これにつられてレフトのマークが疎かになるのは――セッターの注文通りか。
あたしはセッターと田中(仮)のマークを今まで通り藤島に任せ、レフト平行に備える。相手セッターはトスをライトへ。
そのトスを見て藤島がステップを踏み、ストレートコースを塞ぐように跳ぶ。
先ほどと同じ一枚ブロックでも、今度はサイドからの攻撃。ブロックに捕まらないよう、トスもネットから少し離し気味だ。
田中(仮)は藤島を嫌ってクロスへ強打――!
しかし、それを三園が拾う(反応凄っ)。ボールは鏡に正反射する光のように跳ね返り、レフト上空へ。
「任せえー!!」
落下点へ走る宇奈月。藤島は外へ大きく開いて、レフトオープンの構え。相手ブロッカーも全員レフトに寄っている。まあ、藤島なら三枚ブロックでも抜けると思うが。
っていうか、宇奈月、今すれ違い様に小声で何か言わなかったか?
ライト平行、とかなんとか。
まさかと思いつつ、あたしは、アタックラインまで下がる。この場面、あたしがセッターなら間違いなくレフトにオープンを上げる。レフト確実なら、トスに備えるよりブロックフォローに入るべきところだ。
が、しかし、宇奈月はあたしではない。
「とーるう!!」
ボールの落下点に入った宇奈月は、レフトに正対して藤島に声を掛ける。藤島も十分な助走距離を確保してトスを待っている。
そして、
「なんてねっ!!」
その場でくるりと半回転して真上にジャンプした宇奈月は、空中でボールを捉え、ライトにいるあたしに平行トスを持ってくる。
向こうに寄っていたブロッカーが慌ててこちらに回ってくるが、間に合わない。
そう、これは、上がったのを見てから追いかけてもブロックが間に合わない、それくらい速いトス。
つまり、打つ側も、あらかじめ来るものとして構えていないといけない。
一歩間違えれば、たちまちコンビミスで失点だ。
いや、まあ、念のため来ると思ってタイミングを取ってたから、別に問題はないのだけれど。
「及、第、点――ねッ!!」
あたしはほぼノーマーク(向こうのレフトエースが横っ飛びしてぬっと両手を出してきた。一瞬ひやっとした)でスパイクを叩き込む。
ぱしんっ!
「いやっふーう!! 大好きー、ねねちん!!」
たぶんナイスキー(Nice Killの略。スパイクを決めた時の掛け声)のことだろう。気にしたら負けだ。
「もうちょい長めにちょうだい。あたしはあんたと違って右でしか打てないんだから」
あたしが軽く手を挙げてそう言うと、
「おけーい!!」
宇奈月はにこにこ笑ってその手を叩いた。ぱぁん、といい音が鳴る。
とまれ、これで、スコアは3―0。
そろそろ反撃が恐い頃よね。
<バレーボール基礎知識>
・ブロックについて
ブロックとは、ネットから(白帯(ネットの上の部分)に触れないように)腕を伸ばして、相手が自由にスパイクするのを防ぐプレーです。大まかな目的は三つ。
(1)相手のスパイクしたボールをそのまま跳ね返す(止める)。
(2)相手のスパイクしたボールに触れて、その勢いを殺す(ワンタッチする)。
(3)相手のスパイクするコースを限定する(塞ぐ)。
特に(1)で、相手のスパイクしたボールをほぼ真下に跳ね返してブロックポイントを決めることを、シャットアウトと言います。
・トスの形容について
トスは基本的にアタッカーの打点を狙って上げます。が、しばしばズレます。
『短い』は、セッターから見て、本来上げるべきポイントより手前になってしまったとき。
『長い』は、セッターから見て、本来上げるべきポイントより奥側になってしまったとき。
右打ちと左打ちの打点は、単純に考えて肩幅の分だけズレます。なので、たとえ踏み切りの位置が同じでも、アタッカーの打ち手が左右のどちらなのかによって、セッターはトスを上げる位置を調整しなければなりません。
右打ちの選手がライトから打つ場合は、打ち手がセッターから見て奥のほう(遠く)にあります。なので、霧咲さんは宇奈月さんに、少し『長め』にトスを上げるよう頼んでいます。
ほか、トスの形容として、
(意図せず)トスがネットから離れることを『割れる』。
ネットに近いことを『近い』。
『長め』とほぼ同様の意味の『流しめ』(長いトスを上げることを『流す』といいます)。
無闇に高いトスは『高い』。
速攻などで打点より低い位置に上がったトスは『低い』。
トスそのものの速度が『速い』『遅い』。
『速い』『遅い』は同じく、タイミングが合わなかった時にも使います(ただし、『遅い』トスは大抵『短い』『低い』と表現されます)。
打ちやすいトスは『柔らかい』。
などといった単語が使われます。




