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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第七章(明正学園) VS聖レオンハルト女学院
245/374

99(夕里) 〝強い〟選手

 獨和どくわ大附属楢木(ならぎ)高校での合同練習試合、延長戦エクストラマッチ


「るおおおおおああっ!!」


 ぱあん!


 と力任せに打ち込まれた鶴舞つるま女子二年・車崎くるまざき通子みちこさんのジャンプサーブ。それを、


「よっ! と――すいません、乱れました!」


 とコート中央にいたウチがカット。威力を吸収しきれず、ボールはネットの白帯近くへ。そこへ、しゅ、と長い腕が伸び上がってくる。


「これ乱れたうちに入んのかよー!? マジ獨楢プロトコル厳し過ぎっしょー!!」


 ケタケタ笑って飛び上がったのは、鶴舞女子二年・宇陀川うだがわ幸絵ゆきえさん。175センチの長身を活かして、高い位置でボールを捉える。


「っしゃあああ! 入ってこいよ、アッキー!!」


「っ……は、はいっ!」


 呼ばれたレフトの獨楢一年・沢木さわきあきらは、アッキーなるアダ名についてはひとまず受け入れて、平行の踏み込みに入る。宇陀川さんはその姿を横目に見ながら、


「そおらっ、よ!!」


 ぱしゅ、とかなり速くて思いきりのいいトスを送る。飛び上がった彰は、高速ながらも正確に手の中に飛び込んできたトスに、


「おっ……?」


 とまんざらでもなさそうな声を漏らして、


 ばしんっ!


 とクロスへ申し分ない強打を叩き込んだ。しかし、それを見透かしたように待ち構えていたブロッカー――獨楢一年・森脇もりわき世奈せなにワンタッチを取られ、決定打にはならず。


「ちょっと彰!? 『おっ』ってなによ『おっ』って!!」


「あっ、いや、その」


「いっやーん悪いねセナリン! 大事な相棒エース盗っちゃってよおー!!」


「大っ――いやそれより誰がセナリンですか宇陀川うだがわさん!?」


「え、えーっと、世奈ちゃん、ナイスワンチー」


 ネット際で繰り広げられる舌戦ちゃばんに呆れつつ、BL(バックレフト)の獨楢一年・町川まちかわ縫乃ぬいのがワンタッチボールをしっかりAカットに仕上げる。そのレシーブを受けるのは、しかし、今回は世奈ではない。


「ナイスカット」


 ぽつりとそう呟いたのは、明正めいじょう学園二年・小田原おだわら七絵ななえさん。左手を軽く上げてセットアップ。世奈はライトへと下がりセミを待つ。そして入れ違いにセンターへ切り込むのは、車崎さんだ。


「っしょああああ行くぜええ小田原あああー!!」


「あ、うん」


 刹那、


 ひゅ、ぱあん!!


 と閃光のようなAクイックが放たれた。すると、


「ぷるおおおっちょおおおお打ちやすいいい!?」


「いやああ嘘っしょあたしのミッチーいいい!?」


「あの、そういうのいいから」


 世界にまた一つ新たな三角形ちゃばんが生まれる。ちなみに、車崎さんの打ったボールは、そこしかないと読んでコミットブロックについた宇陀川さんの手に当たり、ぽーん、とライト側へ高々と舞っていた。そしてその流れだまを、


「あら。これは決めてしまっても構わなくて?」


 ぱしんっ、


 とFR(フロントライト)にいたセントレオンハルト女学院じょがくいん一年・羽田野はたの天理てんりさんが誰もいない対角へと華麗に打ち込んで、ラリー終了。


 笛は鳴らない。ジャッジは自己申告。スコアをつけるなら、1—0。


 半分遊びで半分本気の、有志による四対四ミニゲーム


 ここへ至ったのは単なる偶然なりゆきやった。ウチら明正学園が解散したあと、残ったウチと小田原さんは空いていたBコートを使わせてもろて対人をしていたんやけど、そこへ明朝ミンチョーさんから許可をもろたらしい彰と世奈と縫乃がやってきて、あと一人いれば三対三になるんやけどなーなんて話していたらにこにこと羽田野天理さんがやってきて、何度かチームを変えながらミニゲームを楽しんでいたところにAコートで試合が終わったばかりの車崎さんと宇陀川さんが「ぷるおおおお混ぜろおおおお!」と乱入してきたのだ。


 そして、ジャンケンでチーム分けをして、今さっき四対四ミニゲームが勃発した、という流れ。


 ちなみに、Aコートでは、スペシャルマッチで一時休止となっていた対戦ローテが一回りして、セントレオンハルト女学院と獨和大附属楢木高校が試合中やった。っちゅーか、羽田野さん、お姉さん試合してはるけどこっちおってええの? あと車崎さんと宇陀川さんは体力すごいですね……。


 とまあ、心の中でツッコミを入れつつも、この試合のようで試合やない気楽な延長戦エクストラマッチを結構楽しんでいるウチやった。


 ――――――


「「っつあああー……さすがに疲れた」」


「うん、それはそうだと思う」


 切りよくスコア5―5となったところで、車崎さんと宇陀川さんがリタイアを宣言した。小田原さんは軽く汗を拭って、深く頷く。ウチや彰も肩の力を抜いて、息を整えた。車崎さんと宇陀川さんの熱狂フィーバーにつられて、ミニゲームは遊び要素ほぼゼロ本気度限りなく百のガチンコ勝負になっていたのだ。当然、体力的に一番キツいのは今朝の開幕第一戦第一打から大活躍していたお二人。しかも、ウチや小田原さんや彰たちと違って、二人はこの後も試合が残っている。


「ちょっち休憩すっかあー、ミッチー」


「それそれそれっしょー、サッチー」


 そして車崎さんと宇陀川さんは「「おっつー」」とコートから去っていく。その様子を眺めていた小田原さんは、ウチに訊いた。


「私も今日はここまでにするけど、栄さんは?」


 ウチは彰を横目に見て、その物言いたげな視線に苦笑しつつ答える。


「ウチはもうちょっとだけ。お疲れ様です」


「わかった。気をつけてね」


 そう言うて、小田原さんはコートの外に出る。すると、今度は羽田野さんがウチらに声を掛けてきた。


「わたくしもこれで失礼しますわ。沢木さんたちは、またブロック大会で。栄さんは、インターハイ予選でお会いしましょう。本日はどうもありがとうございました」


 羽田野さんは優雅に一礼して、小田原さんの後を追っていく。コートにはウチら獨楢メンバーだけが残った。ウチと彰のところに世奈と縫乃がやってきて、この後の相談をする。


「ねえ、夕里ゆうり。あたしにトスを上げてくれない?」


 と、世奈がスパイク練習を所望。断る理由はない。


「よし! ほなみんなボール持って好きなとこ並び! どんな注文にもお応えしたるで!」


 るんるん気分でネット際に立ち、ウチは親指を立てる。まずは世奈がライトから打った。次に彰がレフトから打った。そして縫乃がレフトから。さらに天那あまながセンターから。輝美てるみがレフトから鹿子かのこがセンターから香華きょうかがレフトかられつがライトから真歩まほがセンターからつむりがライトから連歌れんかがバックから由紀ゆきがセンターから。ついには知らない長身の方がセンターから打った。


「ってむっちゃ増えとる!?」


「あ、どうも、初めまして。二年の中塚なかつかはじめです。果心かしんにミンチョーさん以外のセッターに上げてもらうといいって勧められたので。でも、あれだね。やっぱりトスは見てなくても手元にくるものなんだね。ありがとう。勉強になりました」


「あっ、いえ、こちらこそ初めまして。ほんでどういたしまして」


 ひょこと頭を下げられたので、ウチもぺこぺこお辞儀を返す。と、離れたところでお目付け役をしていた軍場いくさばゆふるさんが呆れたように溜息をついた。


「夕里、お願いだから、うちの秘密兵器(ハコイリムスメ)に偏った常識を植え付けるのはやめて」


「ウチがなにしたって言うんですか!? あとさりげにグー握るのやめてくださいゆふるさんっ!!」


 そうしてわいのわいのとスパイク練習をすること数十分。AコートのほうでセントレVS獨楢が終わり、次に始まった獨楢VS鶴女が佳境を迎えた頃に、星賀ほしかさんと小田原さんと神保じんぼ先生が帰ることになった。ウチは残していたボールの片付けを手伝い、用具の積み込みと星賀さんたちの見送りのために、体育館の外に出た。聞けば、星賀さんと小田原さんはここから桜田さくらだ駅まで神保先生の車で送ってもらえることになったらしい。


 別れ際、ウチは星賀さんと駐車場で少しだけ立ち話をした。


「今日は実に有意義な一日だったよ。これも君がうちに来てくれたおかげだ。改めて礼を言う。ありがとう、さかえさん」


 星賀さんは仰々しくそんなことを言った。ウチは恐縮して首を振る。


「ウチのほうこそ、今日はホンマにお世話になりました。ありがとうございます。明日からも、なにとぞよろしくお願いします。ウチにできることならなんでもしますんで、どうぞこき使うてください」


「とても嬉しいことを言ってくれるね。では、お言葉に甘えて、今後も遠慮なく振り回すことにしよう」


「あっ、いや、多少は加減してくださいね……?」


「大丈夫。そのあたりの見極めは得意だ」


 隙のない微笑を浮かべる星賀さん。読めない人やけど、ウチらのことを真剣に考えてくれているのはわかる。獨楢を飛び出して辿り着いた先が明正学園やったのは、きっと、ウチの人生でトップ5にランクインする幸運だろう。


「じゃあ、また明日。お先に失礼するよ」


「はい、お疲れ様です」


 ぎゅ、と握手を交わしたあと、ウチは車から少し離れた。星賀さんはボール袋などがひしめく後部座席の隙間にするりと乗り込む。ややあって、アイドリングしていた車が発進。助手席からは小田原さんが軽く手を上げ、運転席の神保先生はテールランプをちかちかさせて別れの言葉に代えた。


 校門のほうへ走り去っていく車が校舎の向こうに消えたあとも、ウチは少しだけその場に残った。日は傾き始めていて、風も昼間に比べるとずっと冷たくなっている。ぶるっ、と身震いしたところで、早足で体育館に戻る。


 正面入口からロビーに入ると、例のタイル絵の前で彰と世奈が待っていた。お馴染みの顔を見て懐かしい、と思う。せやけど同時に、今さっき見送った車のことを思うとちょっとだけ寂しくなった。こうして少しずつ、ウチは獨楢中の栄夕里から、明正学園の栄夕里に変化していくのだろう。


セントレのアップが始まったから、Bコートは一旦明け渡し。またすぐに使えるようになると思うけど、どうする?」


 世奈の質問に、ウチは少し迷ってから首を振った。


「いや、監督が帰ってもうたし、ウチはここで上がりにするわ。それより、次って獨楢はお休みやんな? 先輩らが忙しくなければ、ちゃんと挨拶しに行きたいんやけど」


「今回は勝ってたから、たぶん大丈夫だと思う。様子見て呼ぶわ」


「おおきにな」


「というか、時間空いたらむしろ先輩たちのほうから声掛けてくる気がするけどね」


 ふっ、と微笑を浮かべ、世奈は体育館の中に戻ろうとする。ウチもそれに続く。しかし、どういうわけか、彰は体育館の入口を見たまま動かなかった。


「……夕里」


「ん、どないしたん?」


 呼ばれたので、立ち止まる。彰は入口のほうを見たまま静かに言うた。


「やっていけそうなのか、あの明正学園チームで」


 そして、彰はゆっくりとこちらに振り向いた。お得意の心配顔や。たぶん、さっきウチが寂しさを感じたとき、彰のほうではそれを何かしらの不安と読み取ったのだろう。獨楢へ戻る選択肢をはっきり捨てた今、ウチと彰たちは、これから完全に別々のチームの選手メンバーとして歩んでいく。彰の過保護もこれが最後やと思うと腹は立たない。ウチは素直に、正直に言った。


「ええ仲間がおるから、大丈夫やで」


 それを聞いた彰は、そうか、と少し寂しげに、でも穏やかに微笑んだ。


「……なら、あとはどれだけ勝ち上がれるかが問題だな」


 ちょいちょい、一つ心配事が解消したと思ったらまた新しい心配事を見つけるんかい。ここまでいくともはや騎士ナイトっちゅーか母親オカンやな……。


「手応えとしてはどうなんだ、実際にセントレと対戦してみて」


「んー……せやな。ぶっちゃけると力不足を感じたで」


「力不足……?」


 彰は少し考えてから、コメントに困ったように肩を竦めた。


「……いや、だが、それは仕方ないだろう。というか、おまえや小田原先輩レベルの選手プレイヤーが役不足にならないチームなら、普通に全国優勝を狙えるぞ」


「ん? ああっ、いや、そやないって。力不足を感じたっちゅーのは、周りやなくてウチ自身のことや」


「小田原さん抜きであたしたちに張り合っといて何を言うのよあんた……」


 世奈が後ろから髪をくしゃくしゃしてきた。たぶん照れ隠しの一種やと思う。


「わたしも世奈と同じ気持ちだな。おまえは十分に力を発揮していたと思うし、チームに貢献していたように思う」


 彰は彰でド直球ストレートに褒めてくる。ウチは顔が火照りそうになるのを手の甲で冷まし、おおきに、と二人に言う。


「……せやけど、現実に、ウチらはセントレに勝てへんかった」


 最終スコアは、4―16。勝てないどころか、一セット戦い抜くこともできずに終わった。彰たちとの勝負でウチが露木つゆきさん・今川いまがわさんを振り回し過ぎたことが遠因となっての強制終了やったけど、仮に二人の体力が満タンやったとしても、勝てたとは思えへん。それくらいに力の差があった。


「何を言うかと思えば……それこそ仕方ないことだ。相手は現在進行形で県代表――明朝あきとも先輩たちや宇陀川うだがわ先輩たちと互角に渡り合うほどのチームなんだぞ」


「昨日今日チームを組んだばかりの無名校が勝てる道理はない、と?」


「……言葉は悪いが、おまえが本気でそれを実現できると思っているのなら、さすがに自惚れが過ぎると思う。先輩たちにも失礼だ」


 いや睨むなて。わかっとるわかっとる。


「それで、結局何が言いたいのよ、夕里?」


 さすが世奈は話がわかる。彰は、どういうことだ、と首を傾げた。ウチは鈍い彰にもわかるように順を追って説明する。


「……春高の後やったかな。月刊バレーボールで九条くじょうさんの記事を読んでん。そこでな、あの人言うてはったんよ。『強いバレーボール選手とは、〝勝てる〟選手です』『チームを勝利に導くことが、何よりも〝強さ〟の証明である』ってな」


「それがどうかしたの?」


「やから、さっきのセントレとの試合……九条さんが言うような〝強さ〟がウチにあれば、結果も違うものになってたんやないかなって思うねん」


 ウチがそう言うと、その記事はわたしも読んだ覚えがあるが……と彰は腕組みして反論した。


「しかし、あれは『〝強さ〟があれば〝勝てる〟』という話ではなく、実際に三冠を成し遂げた上で『〝勝った〟北鳴谷(きためいこく)にはそれだけの〝強さ〟があった』と、結果論を語ったものだろう?」


「いや、まあ、言うたことの真意は本人に聞かへんとわからへんけど……とにかく、ウチは今回、セントレに勝てへんかった。九条さん風に言えば『〝強さ〟の証明』に失敗したんや」


「そういうものなのか……? わたしは、しかし、たとえおまえの代わりにあの〝女王クイーン〟が明正学園に入っていたとしても、結果はセントレの勝利で変わりなかったと思うが……。バレーボールはチームスポーツだ。たった一人の強い選手プレイヤーがいれば必ずしも勝てるわけではない」


「彰、あんた大丈夫? ものすごいブーメラン投げてるけど?」


「うっ……いや、その、だから、一般論として、だ」


「ふーん。へー。そーなの」


「な、何が言いたい、世奈……」


 彰と世奈の痴話漫談を聞きつつ、ウチは考えを進める。彰が今言うたことは、なかなか興味深い。


「……チーム、か」


女王クイーン〟――九条くじょう綺真きさね。今の高校女子バレーボール界で最も決定力のあるスパイカー。そんな九条さんを投入しても、チームとして戦えば、明正学園VS(セント)レはセントレに軍配が上がると彰は見積もった。ウチ的には九条さん&小田原さんとかそれこそ鬼に金棒でどうにでもしてまうように思うが……まあ、見積もりのさじ加減はさほど重要やない。引っかかったのは、彰の最後の台詞や。


『たった一人の強い選手プレイヤーがいれば必ずしも勝てるわけではない』


 今日の事案ゴタゴタで彰が露木さんに説教されてたことほぼそのまんまの台詞。バレーボールはチームスポーツ。ルールとして一人の選手プレイヤーが連続でボールに触ることはできない。ゆえに一人では試合に勝てない――。


 力のあるスパイクが打てる彰。華麗なレシーブで見ている者を魅了する鶯谷うぐいすだにさん。自在にトスを操る明朝ミンチョーさん。盤石のブロックで圧倒できる奥沢おくざわさん。速くて高い速攻クイックや強烈なジャンプサーブを決められる車崎さん。あるいはトンデモ作戦を立案してウチらを率いた星賀さん。それだけやない。世奈や小田原さんや宇陀川さんや仲村なかむらさんや羽田野さん姉妹――強い選手プレイヤーなら、この場に大勢いる。


 せやけど、どんなに強くても、たった一人では試合に勝てない。


 スパイクも、レシーブも、トスも、ブロックも、リーダーシップも――サーブだけは少し例外かもしれへんけど――バレーボールがチームスポーツである以上、その役割に長けた選手プレイヤーが一人いても、周りのメンバーがその力を支えられなければどうにもならない。


 例えば、ウチと彰と世奈はかつて獨楢中の中心にいた。せやけど、獨楢が勝てたのはもちろんウチら三人だけの力やない。同期に縫乃ぬいの天那あまな香華きょうかたちがいたからこそ、ウチらは獨楢でも県選抜でも上に行くことができたんや。


 でも……やから、九条さんは『強いバレーボール選手とは?』と尋ねられて、あんな風に答えたんやないか……?


『強いバレーボール選手とは、〝勝てる〟選手です』


 この回答やってもっとずばりと、『強いバレーボール選手とは、ここぞというときに決められるアタッカーです』――みたいに言うてもよかったはずなんや。他ならぬ九条さん自身が全国最強のアタッカーで、しかも三冠を成し遂げた北鳴谷の立て役者(エース)なんやから、強さとは決定力である、と断言して誰がケチをつけられよう。


 でも、九条さんは、〝強さ〟とは〝勝てる〟ことやと言うた。


 スパイクでもレシーブでもトスでもブロックでもリーダーシップでもサーブでもなく、『チームを勝利に導くこと』に長けた選手こそ〝強い〟と。


 それは、しかし、果たしてどういう選手のことを指すんやろか? 九条さん自身のこと? あるいは北鳴谷の他の誰か? 対戦した別の強豪の選手? それとも理想像? いったい九条さんはどういう選手プレイヤーを想定して『〝勝てる〟選手』なんて言うたんやろか?


 例えば、今日の一戦や。昨日今日チームを組んだばかりの無名校。味方メンバーは大半が一年生で初心者も含む。そこに加えて頼りになる上級生数人。個々の技量や潜在能力もろもろ合わせたチーム力は少なくとも羽田野さんたちに勝てるくらいにはある。対するは現在進行形の県四強の一角。ブロック大会常連で明朝ミンチョーさんたちともほぼ互角の強豪校の一軍レギュラー


 この試合に――あるいは一つ二つ条件が違うてもええ――〝勝てる〟選手。


 そんな選手が、もし仮におったとしたら、どやろか……?


 考えるまでもない。


 そんな怪物バケモノがもし本当におるんなら、そいつは間違いなく〝強い〟。それ以外の表現が当て嵌まらんくらい〝強い〟。全国最強の〝女王クイーン〟が自らを措いて称えるんも納得するほどに〝強い〟選手や。


「………………」


 あかん。自分で言うといてなんやけど、そんな真性の怪物バケモノと比較して力不足っちゅーのは、なんやちょっと違う気がしてきたわ。そもそも前提として九条さんより〝強い〟ことになるやん。ほんで九条さんて全国最強やん。あかんあかん。やっぱりちょっと自惚れ入ってたかもしれへんな。反省反省……。


「――で、随分長いこと考えていたが、何か結論は出たのか、夕里?」


 ウチの顔から思考の流れを読んだ彰が、ちょうどいいタイミングで声を掛けてきた。ウチは細かいところははしょって、ざっくりまとめた結論を言う。


「いや、とにかく、やれるだけやってみようと思うわ。ウチが力不足を感じたっちゅーのは、なにはともあれ本当やし。それは言い換えれば、不足しとる分だけまだまだ強くなれるっちゅーことやもんな」


 ウチの答えを聞いた彰は、そうか、と言って微笑した。世奈もうんうんと頷いている。自然とウチも笑顔になった。もちろん天然成分百パーセントのヤツや。


「これはわたしたちも負けてられないな、世奈」


「そんなの当たり前じゃない。ねえ、夕里?」


「もちろんや。ヘタレたら許さへんからな、彰も世奈も!」


 ウチらはウチらの作る三角の中心に拳を突き出して、こつんっ、とぶつけ合う。ほなあれこれ積もる話はまたご飯のときにでも――と、そこで立ち話を切り上げ、ウチらは三人揃って体育館へと戻った。

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