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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第七章(明正学園) VS聖レオンハルト女学院
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95(彰) 緊急事態

 コート内にいる選手プレイヤーを除けば恐らく一番近くから、わたしはそれを見ていた。小田原おだわら先輩と夕里ゆうりのファインプレーで繋がったボールに、今川いまがわはやて露木つゆき凛々花(りりか)の二人が同時に突っ込んでいくところだ。どちらもラストボールを強打で返すこと以外考えていないのは火を見るよりも明らかで、にわかに体育館の空気が張り詰めた。




「「「危ない!!!」」」




 誰もがそうしたように、わたしもまた叫んだ。しかし時既に遅し。どんっ、と鈍い音がして二人の身体は衝突する。次の瞬間、わたしはラインジャッジの職務とフラッグを放棄して走り出していた。


「今川っ!! 露木!!」


 二人から近い順に、人が集まる。最初にわたし、次に明正めいじょう学園の監督、三番手は副審の村木むらき天馬てんま先生だ。先生たちはもつれ合うように倒れている今川と露木を引きはがして、声を掛けたり、肩を叩いたりする。どちらも薄く目を開け、小さなうめき声を漏らすなどの反応を見せる。が、意識がまだ朦朧としているようで、自力では動けそうにない。


「一旦、医務室に運びましょう。――おい、沢木さわき、担架の場所はわかるな? すぐに持ってきてくれ」


 村木先生が低い声で冷静に指示を出す。わたしは脊髄反射で「はい!」と返事をして動き出す。そこへ、


「私が、運びます」


 息を切らした小田原先輩がやってきた。そしてすぐさま、まるで赤ん坊か人形を持つみたいに、ひょいっ、と露木のほうを軽々抱き上げる。いわゆるお姫様抱っこの要領で、左手で両足、右手で背中、右肩で頭の三点を支えている。そのままどこへでも連れ去っていきそうだった。


「沢木さん、医務室はどこ?」


 小田原先輩が視線で「案内して」とわたしに訴える。わたしは村木先生に支えられている今川のほうに目をやった。こうなったら担架なんて使わず、今川のほうはわたしと村木先生で運んだほうが速いか――と逡巡する。すると、


「てっ、てて手伝いまふっ!」


 わたわたと噛みながらそう言い、駆けつけてきた人がいた。その人は「すいませんっ、し、失礼しましゅ――すっ!」と大慌ての様子で、しかし動作自体は慎重且つ丁寧に、村木先生から今川を受け取り、ぎゅっ、と抱き上げた。


 ぬうっ、


 と立ち上がったその人を見上げ、わたしは思わず一歩引く。それもそのはず――目の前に立つその人は、170センチ以上ある人間いまがわをたった一人で抱き上げられるほどの巨躯を持っているのだ。小田原先輩と並ばれると増し増しで威圧感が半端ではない。比喩ではなく遠近感が狂う。さておき――言うまでもなく『その人』とは、セントレオンハルト女学院の奥沢おくざわらん先輩だった。


「「沢木さんっ」」


 190センチの高みから二つの声を浴びせられ、わたしは忘我ショックから抜け出した。「こっちです!」と、小田原先輩と奥沢先輩を早足で先導。先生たちはその後から付いてくる。行く手では世奈せな羽田野はたの天理てんりさんがコート間の仕切り網を持ち上げて、道を整えてくれていた。スペシャルマッチでみんな休憩中だったのは不幸中の幸いだろう。アクシデントへの対処はこの上なくスムーズに行われた。


 二人を医務室へ運ぶ、その、道中。


「奥沢さん、ありがとうございます」


「おっ、お礼なんていいよ小田原さん! 私、おおお大きいし! ちちち力持ちだし! どんどん使ってよ!」


「お言葉に甘えさせていただきます。ところで――」


「なっ、ななななにかな?」


ボロ出てますけど、いいんですか?」


 という小声の会話が聞こえた。振り返って見たわけではないが、自然と、無表情の小田原先輩と顔を真っ赤にした奥沢先輩の絵が浮かんだ。


「いっ、いみゃ、今は緊急事態だから! いいいいいのっ!」


六波ろくはさんにその言い訳が通じることを祈ってます」


有理子ありすちゃ――っ! うえぇぇ、えっと……あとで怒られたら一緒に謝ってくれる、小田原さん……?」


「…………考えておきます」


 そうこうしているうちに、わたしたちは医務室へと到着した。

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