20(ひかり) 当たり前
「まりーなもナイスカット! 次も頼むぜーい!!」
「あざっス!!」
「ねねちんもナイスワンチー!!」
「ちょ、つっつかないでよ!」
初得点を決め、方々にVサインを振りまいて(あるいは突き刺して)いる宇奈月さん。
人の目の前にいきなり下がってきたときは何事かと思いましたけれど、エンドライン際からの二段トスをまさか左で打ち抜くとは。
スパイク練習のときも右打ちでしたし、普段の生活でもペンや箸は右で扱ってましたので、さすがに予想の遥か外でした。
「宇奈月さん、左でも打てる人だったんですね。両利きなんですか?」
「ん? ああ、バレーに関しては、そんな感じ。詳細を聞きたいかね!?」
「いえ。さほど興味があるわけではないので、結構です」
「ひかりん、なんか日に日に私に冷たくなってない?」
「はて。なんのことでしょう」
さて、次のプレーが始まります。元の位置に戻らなくては。
途中、ちらりと北山さんを見ましたが、さっきの一球でテンパり状態は脱したようです。いきなりボールが飛んでいったときはひやひやしましたが、実際にボールに触れたことが、かえっていい効果を生んだようですね。
サーブは、もちろん、再びの岩村先輩。
宇奈月さんの奇声を受けて、伸びのあるフローターサーブを放ちます。
わわわ、と敵味方から複数の声が同時に上がります。大抵のチームスポーツがそうであるように、バレーボールもまた、声掛けが重要な競技。常にマイクを握って生きているような宇奈月さんもプレー中は意味のない大声は出しません。
岩村先輩のサーブは、敵コート後方、バックライトで構えている柴田和美先輩のところに飛んでいきます。
柴田先輩はそれを難なくセッターの獅子塚美波先輩に返球。文句のつけようがないAカットです。あの人できる、と対抗心が湧きます。
センターの鈴木アンドロメダ(しかし思い切った名前ですね)さんがクイックに切り込み、レフトの鞠川千嘉先輩――マリチカ先輩がコート外まで大きく開きます。
Aクイック―レフト平行のコンビ。
鞠川先輩へ上げるか、と思いきや、獅子塚先輩はルーキーの鈴木さんにトスを上げました。そして、
だんっ!!
最初からクイックに狙いを定めていた藤島さんが、一枚ブロックでぴたりとシャットアウト。以下、主な反応。
「げっ」(獅子塚先輩)
「ちょ、透、いきなりっ!?」(鈴木さん)
「高……」(霧咲さん)
「とーるう強っえー!」(宇奈月さん)
「あちゃー」(相原先輩)
当の藤島さんは「え、えっと」と困ったように顔を硬直させて周りの顔色を伺っています。普通、あれだけ綺麗なブロックを決めたらもっと喜ぶものなのですが、恐らく藤島さんにとっては『当たり前』のことなのでしょう。
その『当たり前』と、周囲の反応とのギャップに、藤島さんはどうしていいかわからずにいるようです。
「ナイスブロックです、藤島さん」
私は藤島さんの大きくて厚い背中をぽんぽんと叩いて、助け舟を出します。藤島さんは硬直が解け、笑顔(ちょっとぎこちないですが)を見せ、控え目に手を挙げました。
「え、その……やったぞ、おおー!」
「「「おおー!!」」」
賑やかし担当の宇奈月さんを筆頭に湧き立つ、我らが城上女バレー部。
スコアは、2―0。いい感じです。
<バレーボール基礎知識>
・Aカット
カットとはレシーブのことです。サーブカット=サーブレシーブ。また、キャッチ、パス、といった単語もほぼ同様の意味で使われます。
セッターの定位置にぴったり上がるカットを、Aカット(Aキャッチ・Aパス)と言います。コンビ攻撃をするのにほとんど支障がないカットです。
Bカットは、セッターの定位置からややズレたカット。
Cカットは、大きくズレたカット。
Dカットは、トスが困難なカット。
なお、上記の定義には揺れがあるかもしれません。ニュアンスとしては、ええカット、ぼちぼちな(びみょうな)カット、しょぼいカット、だめなカット、といった感じです。




