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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第七章(明正学園) VS聖レオンハルト女学院
238/374

92(真紀) 七天《Seventh Heaven》

 ドモ。ワタシは鶴舞つるま女子短期大学附属高校バレーボール部のキャプテン、葉山はやま真紀まき


 コートでは今、飛び入り参加の明正めいじょう学園とかいうところと、セントレオンハルト女学院じょがくいんのレギュラーが試合している。けど、ワタシは観戦せずに休憩していた。ギャラリーの床に腰を下ろし、窓際のひんやりとした鉄骨の柱にもたれ、それまでの戦いの疲れを癒していた。


 だって、フツーに、獨楢どくならセントレの相手とか、キツイ。つーかワタシより運動量多いはずの車崎くるまざき通子みちこ宇陀川うだがわ幸絵ゆきえはなんであんな元気なんだよ。柵に寄りかかってかぶりつきで見てスゲーギャーギャー言ってるけど。


「るおおおっ! 四人レシーブ来たああああ! リボンの攻撃特化ポイントゲッター来たああああ!」


「いや待てミッチー! これあれじゃね? リボンセッターなんじゃね? 小田原おだわらで勝負じゃね? なんつったって相手奥沢(おくざわ)さんよ?」


「うっおおおやべえサッチー! それはなかったわああ! もうそれマジ超あるっしょおおおおお!」


 ウルセー。つーか、ないのか、あるのか、どっちなんだ車崎。などとワタシが思っていたら、


「っるせーぞツインバカ!! 面白えんだからちっと黙ってろ!! それとないのかあるのかどっちなんだよ通子みちこ!!」


 リベロの祀木まつりぎ和沙わすなが全部言ってくれた。しかし車崎と宇陀川は悪びれもせず「「さやっせえー!!」」と平謝り。ちなみに、すいません、と言っている。そして結局あるなしの真相は闇の中だ。


 ニシテモ、面白いのか。ドレ、ちょっとくらいは見てみるか……。


「あれ、真紀まき? 寝てたんじゃないの?」


「イヤ」


 寝たかったけどこのうるさいのに寝れるわけないしならいっそ観戦も悪くないかなと思って――と言うのを全部省略して「イヤ」の一言で済ます。副キャプテンの岡本おかもと奈津実なつみは「そう」と微笑んで、自分の隣にワタシ一人分のスペースを作った。ワタシはそこにお邪魔して、柵に片肘を乗せ、頬杖をついてコートを見下ろす。


 ちょうど、セントレのセッター対角がサーブを打ったところだった。直後、車崎と宇陀川が大騒ぎしている小田原とかいうデカいのと、美川明朝ミンチョーの愛弟子とかいうリボンが、同時に動き出す。小田原はセッターの位置、リボンはセンターの位置へ。


「あっ、リボンの子で勝負するんだ」


 奈津実が意外そうにそう呟く。宇陀川の言った『小田原アタッカー説』が念頭にあったからだろう。ワタシも拍子抜けしてしまった。奥沢VS小田原……さっき勃発したらしい一度目は見逃してしまったから、ちょっと期待していたんだけどな。


 ぼむっ、


 とリベロがサーブを拾った。小田原の身長や、リボンの移動を考慮した高い軌道のカット。丁寧な仕事だ。悪くない。と、次の瞬間、


 たんっ、


 とリボンが助走に入った。でもこれは、


「っぷるおおお早ええっ!」


 車崎の言う通り。タイミングが早過ぎる。このまま行けば、リボンはセッターがボールに触れる前に跳ぶことになる。つーかこれ、


「Cクイック……」


 奈津実の言う通り。リボンは小田原セッターの背中側へ踏み込んでいた。まあリボンは左利きみたいだからむしろCクイックはアリっちゃアリだ。でもこれ小田原が合わせられるのか? 自身の死角に、それも自分がボールに触れるよりも先に跳んでいるアタッカーの打点に、正確なトスを送れるのか? そんなの、


「無茶しやがる」


 和沙わすなの言う通り。そうそうできるもんじゃない。だが、


 たっ、とっ――。


 とリボンは迷いなく跳び上がる。ほぼ同時に小田原もセットアップ。その大きな手がボールを捉える。瞬間、


 ひゅ、ぱすん!


 とトスが上がるや否やスパイクが打たれた。僅か一秒にも満たない間で繰り出された速攻。恐らくボールの下を指先で掠めるように叩いたのだろう――バックスピンの掛かったボールは、そのまま誰もいないセントレコートの真ん中へ滑るように落ちていく。セントレの面々はまるで時が止まったようにぴくりとも動かない。ただ驚いた様子でボールが床につくのを見ていた。


 いや、驚いた様子で見ていたのはコート内の選手プレイヤーだけではない。観戦しているワタシたち鶴女つるじょメンバーもそうだった。ただし、その驚きの種類は、たぶんセントレメンバーとは微妙に違う。


「今のって……アレだよな?」


 と呟いたのはライトの梶井かじい遠子とおこ


「アレだったわね。Cだったけど」


 と返したのはワタシの対角の知念ちねん由奈ゆな。声にこそ出さなかったが奈津実なつみとワタシも視線で同じやり取りをした。そうして現状の確認作業を終えたワタシたちは、やがて同じ疑問に辿り着く。


「オイどういうことだよツインバカ? なんであいつらがお前らの〝高架(Over)高速(the)攻撃(Road)〟を使ってんだ?」


 珍しく黙ってる車崎と宇陀川に、和沙わすなが荒っぽく尋ねた。答えたのは宇陀川だ。


「いやあ、言っちゃいますと、あっちがオリジナルっすよ」


「なにぃ?」


 へらへら笑う宇陀川に、和沙わすなが睨みを利かす。車崎がフォローに入った。


「いやマジなんですって和沙わすなさあん! あっしとサッチーのはアレの真似なんすってえー!」


「んなわけねえだろうが!」


「いやいやマジっすマジマジ!!」


「えっと……小田原さんとリボンの子のコンビってたぶん今日が初お披露目だと思うけど、どこかで見る機会があったの?」


 噛み合ってない会話に、奈津実が潤滑油を差す。しかし、それを聞いた車崎は「いやいやそうじゃなくてえー!」とますます要領の得ないことを言い、和沙が「わけわかんねえから!」とさらにキレた。結果として潤滑油は火に油になってしまった。困り顔の奈津実を一瞥して、ワタシは仕方なくキャプテン命令を下す。


宇陀川うだがわ、セツメー」


「さー、いえっさー!」


 宇陀川は楽しそうに敬礼して、「つまりっすねー」とまとめに入る。できるなら最初からやれよ。


「あたしらの高架高速アレって、中学時代の小田原の真似なんすよ。まあコンビ技なんで、正確に言うと小田原とその相方の真似っすけど」


「……中学生でアレを成立させてたのか?」


 和沙が軽く引きながら眉を顰める。宇陀川はなぜかしたり顔で頷いた。


「ヤバイっすよね?」


「ああ、それが事実ならかなりヤバイ」


「だからあっし偉大なる七(あいつ)はヤバイっつったじゃないっすかー!」


 確かに車崎は小田原が現れたときに『ヤバイ』と言った。むしろ『ヤバイ』しか言ってなかった。和沙も同じことを思ったらしく「あのな通子バカ――」と呆れたように溜息をつくが、宇陀川が「まあまあ」と宥めた。


「とにかく、あたしとミッチーの〝高架(Over)高速(the)攻撃(Road)〟は、先に小田原と天久保の〝(Seventh)(Heaven)〟ってのがあったんすよ。っつーか、あたし的には曲がりなりにも小田原と合わせた獨楢の栄夕里リボンにビックリっすけどねー」


 ぺらぺらといつもの軽い口調で話を締めくくり、「なあ?」と車崎を小突いて観戦に戻ろうとする宇陀川。だが……オイ、ちょっと待て。オマエ今誰だって言った?


「「天久保あまくぼ――?」」


 ワタシたち三年の声が揃う。宇陀川は不思議そうに首を傾げた。


「あっれ? 言ってなかったっすっけ、小田原の相方」


「聞いてねえな……。つか念のため確認だが、その天久保っていうのはあれだよな? 左打ち(サウスポー)の」


「そっすそっす」


「今は法栄ほうえい立華(りっか)にいる」


「そっすそっす。……えっ? なんすか?」


「『なんすか』じゃねえよ! んでそういう大事なことを最初に言わねえんだよ!」


「いやでも考えたらなんとなくわかるじゃないっすかー。隣々県で、あたしらとタメで、あの小田原(185センチ)がセッターに収まっててケチのつかない相方エースなんて」


「言われてみりゃ確かにそうなのがムカつくなオイ!」


「そもそもそんくらいのビッグネームが揃ってないとブロック大会準優勝とか無理っすから」


「「ブロック大会準優勝!?」」


 またワタシたちの声が揃う。声が大きかったからか、宇陀川より先に車崎が反応した。


「ヤバイっすよね!? マジヤバイっすよね!!」


「ブロック大会で……その小田原と天久保のいたとこが決勝に行ったってことでいいんだな?」


「そっすよ。ま、ぶっちゃけると、準々決勝であたしらに勝った帝徳ていとくに勝ったのが小田原と天久保で、あの二人が帝徳をぶち抜くのに使った必殺技が〝(Seventh)(Heaven)〟で、だからあたしらはそれを真似たってわけっすよ。ってコレ言いたくなかったっすけどねー」


「お、おう……なんか悪いな。いや、しかし、道理でどこの二年も大騒ぎだったわけだ」


「まー、なんつっても〝偉大なる七《"Big" Seven》〟っすからね。この周辺ブロックじゃちょっとした生きる伝説(レジェンド)なんっすよ、あの小田原おだわら七絵ななえってヤツは」


 宇陀川はいつもの適当な調子でそう言うと、コートを見下ろし、目を細めて口元には薄い笑みを浮かべた。試合はセントレがサーブ権を取り返し、2―7となっていた。小田原やリボンやリベロの奮闘で長いことラリーが続いていたものの、やはり奥沢の壁は高く、最後にレフトの黒髪が止められて終了だった。


「ちなみにっすけど」


 薄い笑みを保ったままで、宇陀川は誰にともなく言った。


「あたしらの年の中学総体インターミドルブロック大会――優勝は言わずもがなで、準優勝は小田原と天久保。で、三位はあたしらに勝った帝徳学園中と、もう一校ってどこだったと思います?」


 誰もすぐには答えられなかった。一つ上ならともかく、一つ下の世代の大会結果なんて、卒業後のことだからよほど興味がなければ詳しくは知らない。少しの間があって、和沙が「さあな」と首を振った。


「お前らじゃねえんなら、あとは獨楢どくならか、じゃなきゃ初芝はつしば松四まつよん相模台さがみだいのどっかだろ」


 和沙わすなは的確にブロック各県の代表校の名を挙げた。しかし、宇陀川は笑って「違いまっすよー」と否定した。


「そういうんじゃないっすよ、和沙さん。話の流れ的に、ちょっと考えたらなんとなくわかるじゃないっすかー」


「あ?」


 ドスの聞いた声で睨みつける和沙に、宇陀川は「っさやっせさやっせー!」とハンズアップして謝り倒す。和沙は溜息をついて呆れたように言った。


「んで、どこなんだよ?」


 宇陀川はにやりと得意げな笑みを浮かべた。そして、テーピングの巻かれた長い指で、コートのほうを指差す。


セントレオンハルト女学院中等部っす」


 ちっ、と和沙が舌打ちした。言われてみれば確かに話の流れ的にそうと予想できる答えだったことにムカついたのだろう。宇陀川はケタケタと楽しそうに笑った。


「あん時のメンバーに羽田野(姉)さんと奥沢さん――どっすかね。即興の〝(Seventh)(Heaven)〟もどきだけじゃ、ちとキツいと思いますよ」


 ぴぃ、と笛が鳴る。セントレの羽田野じゃないほうのレフトが、ばしっ、とサーブを放った。

登場人物の平均身長(第五章〜):165.2cm

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