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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第七章(明正学園) VS聖レオンハルト女学院
230/374

84(七絵) 甘美令嬢《Sweet Iris》

 それは、私たちが気入れを終えた直後のこと。


せー――――――――――」


 高く、甘い、伸びやかな声が聞こえた。


 その声はまるで砂漠の真ん中に湧き出る水のように、瞬く間に体育館全体に染み渡っていく。この声を聞くたび、私は、よく晴れた青空に架かる虹、あるいは黒い雨雲の隙間から射し込む光条を連想する。それくらい、彼女の声は神秘的で、とても美しい。


甘美(Sweet)令嬢(Iris)〟――鶯谷(うぐいすだに)あやめさん。


 小学六年生のときも中学三年生のときも、鶯谷さんとは決勝で戦った。小学生のときは負けて、中学生のときは勝った。県選抜では同じコートに立ち、共に戦った。


「「レオン(れっ)!! ハルト()!!」」


 ぴったり息の合った「せーれっは」。あちらも準備完了だ。私は鶯谷さんの美声に耳を奪われていた一年生たちの目の前を、わざとのそのそ横切って、エンドラインに向かう。慌ててついてくる一年生たち。その息遣いを背中に感じつつ、私はキャプテン(正確に言うと今回は諸事情によりキャプテンではないのだけれど、これまでの例に倣い周囲からはそのように扱われている)の星賀ほしか先輩の隣に並んで、対岸に整列しているセントレの面々と向き合う。


 鶯谷さんだけじゃない。仲村なかむらさん、萩原はぎわらさん、篠田しのださん、六波ろくはさん、河合かわいさん、花見沢はなみざわさん――みんな見慣れた人たちだ。一つ上の羽田野はたの由衣ゆいさんと奥沢おくざわらんさんも、同期メンバーほど接点は多くなかったけれど、大体の人となりやプレースタイルは把握している。


 鶯谷さんの「せーれっは」の直後だからか、ああ……セントレと対峙しているなあ、としみじみ思う。


 セントレという集団が纏う、独特の雰囲気。さっきの羽田野はたの天理てんりさんたちもそうだった。ぴりぴりというか、ちらちらというか、とにかくそういう鱗粉みたいなもの。具体的に言い換えれば、恐ろしいまでの統一感と一体感。つまり、彼女たちは個々人ではなく、チーム全体として一匹の〝不死蝶《Crawling Butterfly》〟なのだ。


 たおすのは、むろん、容易ではない。


 私は横目で一年生たちを見る。栄さんはいいとして、他の四人は最後まで気力が保つか不安だ。なんといっても対外試合だから、入部試験で私を相手にしたときとは掛かる重圧プレッシャーがまるで違うわけで。


 なんて考えているうちに、ぴぃぃぃ、と心地いい笛の音が響く。


「「よろしくお願いします!!」」


 互いに礼をして、私たちはネットへ向かう。私の握手の相手は鶯谷さんだった。


「この〝邂逅リユニオン〟をあなたは何と呼ぶかしら、〝第七戦艦(ナンバー・セブン)〟?」


 何を言っているんだこいつと思いつつ、意味は大体わかるので、それっぽく返してみる。


「〝運命カジュアル〟、かな」


「ふふっ……さすが我が〝盟友チャーミィ〟にして〝宿敵ハウザー〟にして〝君臨者ティーゼル〟にして〝超越ネムナル〟せし〝儀装シャルト〟の――」


「うんわかったからもうそのへんで」


 いつまでも手を離そうとしてない鶯谷さんを振り切って、私は自分のスターティングポジションにつく。こちらのラインナップは、さっきと同じ。


 ―――ネット―――


 小田原 露木 西垣


  栄  今川 瀬戸


 ―――――――――


 私はネット際から自軍を見回す。こちらの前衛フロントは私と露木つゆきさんと西垣にしがきさん。二枚攻撃で速攻無し。続いてあちらの前衛(フロント)を確認。萩原はぎわらさんと篠田しのださんと……県内最高こと奥沢おくざわさん。そしてサーブは聖レ(あちら)からでしかも六波ろくはさん、と。


 ―――ネット―――


 奥沢  萩原  篠田


 仲村 羽田野 六波


 ―――――――――


 いきなり超難易度アルティメイト――うーん、どうしたもんかな。

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