表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第七章(明正学園) VS聖レオンハルト女学院
229/374

83(幸果) レギュラー

 セントレオンハルト女学院じょがくいん獨和どくわ大附属楢木(ならぎ)高校、鶴舞つるま女子短期大学附属高校の三校による合同練習試合。かねてより予定されていた、来月のブロック大会へ向けての大事な最終調整だ。


 そこに突然イレギュラーが発生したのは、つい数日前のこと。なんと無名校の飛び入り参加が決まったというのだ。あやめは『くくくっ、やはり動き出したか……〝宿世の輪転(マスプロ・ディスタ)〟が』なんて言っていたけれど、もちろん誰にとっても寝耳に水だった。


 聞けば、その無名校とは大左古おおさこ泰生やすお先生のかつての教え子、つまり私たちの先輩に当たる人が監督を務めるチームらしい。そして、当日は一軍レギュラー同士の練習試合の隣で、その無名校と獨楢どくならの一年生とうちの一年生の三チームが戦うことになるという。


 それだけなら、一軍レギュラーの試合中に一年生を遊ばせずに済むので、急だが悪い話ではないと私は思った。しかし、大左古先生はさらに、もし一年生たちがその無名校に負けるようなことがあれば、一軍レギュラーにその仇を取ってもらうことになる、と言った。茶目っ気たっぷりに、相手の監督とそういう約束をした、と。


 思わず「えっ」と声を上げてしまうところだった。それはいくらなんでも遊び心が過ぎるのでは? と。さすがにレギュラーは事前のスケジュール通りに獨楢どくなら鶴女つるじょを相手にするべきなのでは? と。


 しかしながら、私はいちマネージャーであり、先生が既に決めたことにあれこれ口出しできる立場ではない。もし何か意見があるのならキャプテンの羽田野はたの由衣ゆいが代表して言うだろう。私は由衣の表情をこっそり伺う。由衣はメンバーの顔色をさっと眺めてから、少し思案して、ふふっ、と悪戯っぽく微笑した。


「監督、さては、何かわたくしたちに隠していることがございますね?」


 由衣の問いに、大左古先生は真っ白い髭を揺らして笑った。


「その時が来てのお楽しみじゃよ。ふぉっふぉっふぉ」


 そして、『その時が来た』のは、練習試合も折り返しとなった昼下がりのこと。


「私は明正めいじょう学園二年……小田原おだわら七絵ななえです」


 彼女の姿を見た瞬間の私の気持ちをどう表現すれば伝わるだろう。とにかく驚いた。常日頃から刺激サプライズがあれば率先して騒ぎ立てるあやめですら、例の変な言葉遣いを忘れてただ「あらあらあらあらあら」と感動詞を連発することしかできずにいる。それもそのはずだ。


 小田原七絵――〝偉大なる七《"Big" Seven》〟。雀宮すずめのみや中の〝(Seventh)(Heaven)〟と呼ばれる、世代を代表する二大巨頭の片割れ。そして、セントレ史上屈指の黄金世代であるあやめたちを中学時代に下した張本人。さらに言うなら、その一年前に由衣ゆいらんを下した相手でもある。


 そんな言わば因縁の相手であるところの、〝偉大なる七《"Big" Seven》〟。しかし、高校に入ってから、なぜか一切の消息が途絶えていた。〝(Seventh)(Heaven)〟のもう片方が華々しく活躍する一方で、〝偉大なる七《"Big" Seven》〟のほうだけが、表舞台から姿を消してしまったのだ。


 何かの事情でバレーをやめてしまったのだろう、というのが大方の見解だった。しかし、そうではなかった。彼女はずっと潜伏していたのだ。そして、今この瞬間ついに、その沈黙は破られた。


 〝偉大なる七《"Big" Seven》〟――健在にして、顕在。


 ウォーミングアップを見るだけで十分だった。怪我や病気(アクシデント)に見舞われたわけでも、空白期間ブランクがあるわけでもない。一体どこで何をしていたのか、中学時代から一回りも二回りも成長した勇姿がそこにあった。


 天理てんりたち一年生だけで抑えるのは難しいかもしれない。そんな予感は、ほどなく現実となった。


 かくして、ここに、明正めいじょう学園VS(セント)レオンハルト女学院じょがくいん一軍レギュラーの対決が実現したのである。


 ――――――


「……です。次に、ダブルエースの二人ですが……」


 整列前の全体集合。一年生マネージャー・古門こかど大愛だいあから借りたメモを掻い摘んで読み上げながら、私はちらちらとみんなの様子を伺う。


 キャプテンの羽田野はたの由衣ゆいは、思案げに目を伏せて私の話を聞いている。いつも通りの澄まし顔だが――たぶん妹の天理てんりに勝った相手だからだろう――口の端が上がっている。楽しそうだ。


 県内最高の超々長身を誇るセンターの奥沢おくざわらんは、真面目な顔できちっと口を真一文字に結んでいる。油断している様子はない。こっちも大丈夫そうだ。


 リベロの鶯谷うぐいすだにあやめは、祈るように両手を組み合わせ、目を閉じて天を仰いでいた。ポーズ自体に特に深い意味はないと思われる。何を考えているのかは不明。ま、大きな問題はないだろう。


 セッターの仲村なかむら由有希ゆうきは、話している私をちゃんと見ていて、視線を向けると目が合った。ちゃんと聞いてますよ、と人好きのする微笑を浮かべる。問題なし、と。


 レフトの萩原はぎわら葉子ようことライトの篠田しのだ朔夜さくやは、こそこそと何か囁き合いながら明正学園ベンチを熱心に見ていた。コラそこ。興味津々なのはいいけどちゃんと話聞きなさい。


 センターの六波ろくは有理子ありすは、だらっと姿勢を崩して大欠伸をしていた。せめて聞くフリくらいはしてほしい。これで試合まで弛んでいるようならあとでお説教だからね。


 ピンチサーバーの河合かわい真佑子まゆこは、私が有理子ありすのだらけた態度に目を細めたのを見てか、有理子を肘で突っついていた。よく気のつく子である。


 控えライトの花見沢はなみざわライラは、静かに目を閉じて話を聞いている……と見せかけて、立ったまま寝ていた。相変わらず器用なことを、と逆に感心してしまう。


 と、以上がセント一軍レギュラー――全員とも平常運転である。


「と、以上が明正めいじょう学園の詳細です」


 敵の説明と味方の観察を終え、私は監督の大左古おおさこ先生に視線を送った。毛の長い牧羊犬を思わせるふわふわで真っ白な眉毛と髭を蓄えた大左古先生は、腹話術みたいに口を動かさずに喋る。


「ありがとう、幸果さちかくん」


 いえ、と私は軽く目礼して半歩下がる。大左古先生はしばしみんなの反応を伺ってから、昔話をするように静かに言った。


沙貴子さきこくんは小さい頃から元気でなぁ……元気過ぎるくらいじゃった。言うならスーパーボールじゃな」


 それは跳ねっ返りと言いたいのだろうか、と思ってしまう私はたぶん性格が曲がっている。ちなみに大左古先生の言う「沙貴子さきこくん」とは、明正学園の監督である神保じんぼ沙貴子さきこ先生のことだ。


「そんな沙貴子くんの教え子なら、多少叩いたところで潰れることはあるまい。遠慮はいらん。全力で迎え撃ってきなさい」


「「はい!」」


 力強く返事をするメンバー。私は少しだけ明正学園の子たちに同情する。〝偉大なる七《"Big" Seven》〟と〝不沈の(Gloaming)黄昏(Glory)〟とキャプテンの人以外はごく普通(体格はともかく)の一年生だったはずだが……。


「では、由衣ゆいくん。あとはお願いするよ」


「はい、お任せください」


 大左古先生からパスを受け取った由衣は、メンバーの顔を見回して、すっと輪の中心に手を差し出す。そして、その手に全員が次々と手を重ねていく。


「わたくしから特別に言うことはありませんわ。いつものように、全力をもって試合に臨みましょう」


「「はいっ!」」


「よろしい。では、行きますわよ――」


 言って、由衣は深く息を吸うために丸く口を開いた。と、そこへ、


「由衣さん、ちょっとよろしいですか?」


「あら。どうしました、あやめ?」


 声出しに待ったを掛けたのは、あやめだった。由衣は楽しそうに首を傾げる。あやめは不敵に微笑み、目を細めた。


「此度の〝詠唱セイレーン〟――どうかわたしにやらせてほしいのです。〝許可ギギリ〟を」


 そう言って、あやめは恭しく頭を垂れる。由衣は微笑して、どうぞ、と迷わず許諾した。あやめは「有難き幸せ」と仰々しく畏まって、すぅ、と大きく息を吸い込む。そして――。

登場人物の平均身長(第五章〜):165.3cm

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ