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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第七章(明正学園) VS聖レオンハルト女学院
224/374

78(颯) 独壇場

 合同練習試合、午後、第三戦。


 明正めいじょう学園VS(セント)レ新人チーム。


 スコア、24―20。


 今日初めてとなるこちらのセットポイントで迎えた、タイムアウト明け。


 コートに戻り、ネットについて相手の前衛アタッカーをチェックする。その時、わたしは相手チームの雰囲気が変化しているのを感じ取った。


 研ぎ澄まされている、とでも言えばいいだろうか。それも、追いつめられて緊張しているって感じじゃない。むしろ適度にリラックスしているからこそ集中が高まっているって感じ。まるで今、試合を優位に進めているのは向こうのほうで、追いつめられているのはわたしたちのほうなんじゃないかと、そんな風に錯覚してしまうほどだ。


「しっかりな、今川さん。ここが踏ん張りどころやで」


 わたしの顔色を見てか、右隣の栄が小声で話し掛けてくる。わたしは頷いた。


「任せろ。わたしが試合を終わらせてやる」


 わたしの宣言に、ふわり、と栄が微笑む気配がした。やがて、小田原おだわら七絵ななえ先輩のサーブが放たれる。ばしんっ、と高い打点から打ち下ろされるジャンプフローター。うちのチームでは一番球威のあるサーブだ。しかしここまで、セントレ新人チームがサーブカットで崩れる場面はほとんど見ていない。今回もやはりコンビを使うのに支障ないレシーブが上がる。


「今川さん、瀬戸せとさん、ボールよく見てな! 一本止めるで!」


「「おうっ!」」


 ミドルブロッカーは本来のポジションでないはずの栄だが、慣れた調子でブロックの指示を出す。わたしと瀬戸は中央さかえ寄りの位置で構えて、セッターのトスをじっと待つ。


 相手の攻撃は三枚。レフトにはさっき特大ホームランをかました右利きのスーパーエース。センターは声の大きいミドルブロッカー。ライトにはキャプテンの羽田野はたの天理てんり。交差する気配はない。レフト平行―Aクイック―ライトセミのコンビで、それぞれがそれぞれの位置から打ってくるんだろう。


 レフトブロッカーのわたしは、羽田野天理の動きを最警戒しつつ、Aクイックにも跳べるように身体を沈める。そしてセッターがボールを捉える。来るか速攻? 来なければ羽田野天理のほうへ移動を――。


「速攻やっ」


 トスが上がるか上がらないかの刹那に、栄が鋭く呟く。わたしはそれに反応して栄の隣にステップし、その途中でボールがミドルブロッカーへ送られるのを見て、すかさず大ジャンプ。瀬戸もわたしに少し遅れて跳ぶ。栄はもちろんとっくにぴったり跳んでいる。


「くっ……!?」


 わたしたちが三人とも速攻に跳んだのを横目に見たセッターが眉を顰める。しかし、もうトスを上げてしまったあとなのでどうしようもない。運命はミドルブロッカーの手に委ねられる。そして、


「よおっ、と!!」


 とんっ、


 と瀬戸のブロックをかわしてFR(フロントライト)へフェイントを落とす。


「フェイントっす!」


「オーライ」


 抜かれた焦りを滲ませ、瀬戸が叫ぶ。それに応えたのは、既に動き出していたBR(バックライト)の小田原先輩。大きな歩幅と長いリーチでフェイントをカット。ボールは高い弧を描いてセンターにいる栄の上空へ。


「絶好球です、小田原さんっ!」


 レフト側に身体の正面を向け、セットアップに入る栄。わたしはレフトへと開きながら、チームにセッターが二人いることの強みを実感する。わたしが中学でバレーをしていたときは、セッターが菊名きくな小玉こたま一人しかいなくて、あいつがファーストタッチをしたときは、その後の選択肢がレフトへの二段トス以外になかった。


 それが今は、わたしのレフト平行、瀬戸のライトセミ、さらには栄のツーと選り取りみどり。それもこれも、フェイントを取った小田原先輩と、そのレシーブが自分に飛んでくると迷いなくセット体勢に入った栄の二人が、事前に打ち合わせしたみたいに連携しているおかげだ。本当に心強い組み合わせである。


「ほな決めたってや――今川さんっ!」


 ひゅ、


 とレフト平行。タイミングはばっちり。わたしは上体を沈めながら素早くネット際に切り込み、溜めた力を一気に解き放つ。跳び上がった高い視界でボールとブロッカーの姿を捉え、空いているクロスへと打ち込む。


 だんっ、


 と強打! どうだ!?


「もーきょーれつー――ですわ!」


 ボールは、果たして、まだ生きていた。BL(バックレフト)のちょんまげ頭が拾ったのだ。わたしは歯嚙みしてボールの行方を追う。ボールは副審側(こちらから見るとライト)へ大きく膨らんでいた。否、膨らみ過ぎていた。ネットの支柱ポールを超え、落下点はちょうどうちのベンチの辺り。よしっ、これはもらっただろ――!


「ちょっと失礼いたしますわよっ!」


 高らかにそう叫んだのは、羽田野天理。わたしは声のしたほうに目を向ける。ちょうど羽田野天理が副審側ライトのネット下をくぐり抜けるところだった。ってまさか!?


知沙ちさ、すぐ立つんだ。こっちへ」


「えっ、わっ、はい!?」


 羽田野天理の声にいち早く反応した星賀先輩が、早鈴先輩の手を引いてベンチから避難する。当然、神保先生も既に移動していた。無人の明正ベンチ。そこへ羽田野天理が駆け込む。


「ご協力感謝いたしますの――」


 そう言って微笑するだけの余裕を残し、落下点へと入っていく羽田野天理。パイプ椅子のすぐ前に立ち、さっきまで早鈴先輩の頭があったところでアンダーハンドを構え、飛んできたボールを膝を使って自軍コートへ返す。


巳頼みらい、ラストボールですわっ!」


 とーんっ、


 と大きな弧を描いて、支柱ポールの上を通って相手ベンチの前へと戻っていくボール。そこにはリベロが片手を挙げて待っている。これは、つまり、


「「チャンス来るよ(で)! みんな構えて!」」


 小田原先輩と栄の声が重なる。そういうことだ。まだラリーは続いている。


 どんっ!


 とリベロが天井近くまでボールを打ち上げる。その間に羽田野天理はきっちり自身のFL(フロントレフト)のポジションまで帰り、涼しい顔でこちらの前衛アタッカーを見据える。


「三枚来ますわよ! ブロック集中!」


「「はいっ!」」


 わっ、と強烈なプレッシャーが放たれる。熱い、というより、厚い。粘土の壁が四方からじわじわ迫ってくるみたいな、不気味な圧力。


「チャンス、行きますっ!」


 コート中央でオーバーハンドの構えを取っている露木。ミスったら承知しないぞ、というわたしの睨みが利いたのか、とん、とそこそこのボールが小田原先輩へ返る。小田原先輩はそこから、栄のAクイックを選んだ。それを見て相手のミドルブロッカーと羽田野天理がブロックに跳ぶ。


「これで――どやっ!」


 空中で左腕を大きく振りかぶった栄は、ばちんっ、とクロス(相手コートのライト側)へ叩き込むかと思わせて、


 ちょんっ、


 と逆のレフト側へとフェイントを落とした。レフトブロッカーの羽田野天理は、自身のブロックの上をすり抜けていくボールを見送りながら、微笑む。


宇絋うひろっ! わかってますわね!?」


「あいあいさーですわー、とう――!」


 BL(バックレフト)のちょんまげ頭が走り込んでいる。わたしの目にはぎりぎり届かなそうに見えた。そして、それはちょんまげ頭も同じだったみたいだ。両手で取るのを諦めて、無理矢理片腕を伸ばす。


「りゃーですわー!」


 ごつっ、


 とどうにか拳一つでボールに触れた。パンチングに近いカットは、ひゅ、と直線軌道で斜め上に飛んでいき、がざっ、とネットの中程に直撃する。格子網ネットに掛かって衝撃を吸収されたボールは、勢いを失い、そのまま重力に従って真下へ。


「上出来ですの!」


 さっきセンターでブロックに跳んでいたと思った羽田野天理が、いつの間にかフライングしたちょんまげ頭の傍へと移動していた。身体の正面をネットに向け、片膝をついて落ちてくるボールを待ち構える羽田野。そこから、


巳頼みらい、もう一発お願いしますね」


 たんっ、と自身の背後へ柔らかいボールを繋ぐ。名前を呼ばれる前からそこにいたリベロは、またしても、身体全体を使ってラストボールを大きく打ち上げた。


 高々と宙を舞うボール。その数秒の間に、リベロもちょんまげ頭も羽田野天理も、それぞれのポジションへ悠々と戻っていく。


「も、もう一本! チャンス!」


 おいっ、露木! お前なんか構えが硬くないか!?


「うっ!?」


 と思って見ていたら露木のヤツ、ごがっ、と案の定ダブルコンタクトしやがった。一応セッターのところには飛んでいるが、軌道が低い。セット位置が恐ろしく高い小田原先輩にとってはやり辛いだろう。腰を落として窮屈そうにボールの下に入った小田原先輩は、それでも正確に、トスをライトへ送る。


「瀬戸さんっ、全力でな!」


「わかってるわよ……!」


 相手ブロッカーは二枚。瀬戸は大きく踏み込んで、だんっ、とボールを叩く。さっきの試合で見せた気合と根性のライトセミ。ボールはミドルブロッカーの手を弾き、相手コートの中央ややライト寄りのところへ落ちていく。FR(フロントライト)で守っていた特大ホームラン女は、ワンタッチで急に軌道の変わったボールに反応できていない。しかし、


水華すぅちゃぁぁん、前ですのぉぉ!」


「く、このっ……!」


 リベロの悲鳴にも似た指示で、代わりにBR(バックライト)のセッターが走り出す。またしてもぎりぎりの片腕ワンハンドレシーブ。ボールは辛うじて生きる。それを、


「ナイスレシーブですわ、水華! そして舞紗まいさ、あなたは――」


 深く腰を沈めた羽田野天理が、床すれすれを漂うボールの下にアンダーハンドを差し入れ、そこからオープントスをライトへ。


「あなたの役目を果たしなさい!」


 とーんっ、


 とアンダーハンドとは思えない柔らかな二段トスが上がる。わたしはそれを見上げながら、ブロックの構えを取る。栄がすかさず隣へ詰めてくる。二枚ブロック――止めてやる!


「まっかされましたわっ!!」


 ぐわっ、


 と特大ホームラン女が、トスを見てないんじゃないかってくらいに右腕を振りかぶる。しかし、アタッカーの踏み込みのタイミングが良かったのか羽田野のトスが良かったのか、跳び上がった特大ホームラン女が腕を振り下ろすと、その手は吸い込まれるようにボールの真芯を捉えた。


 いけない――これじゃわたしと栄の間(クロス)を抜かれる!?


 がっ、


「っ……!?」


 なっ――んでだよ!? とわたしは叫びたくなる。特大ホームラン女のスパイクは、踏み込みも腕の振りもクロス狙いで、なおかつボールを真芯で捉えていた。なのに、次の瞬間、ボールはわたしの左手に直撃していた。つまり、ストレートコースへ飛んできたのだ。


 完全に裏を掻かれたわたしは、堪え切ることができなかった。ボールが左側へ零れていく。誰もいない、コートの外側へと。


 ざっ、


 とボールが落ちる。なんか床に這いつくばっている露木が視界に入ったけれども、とにかくボールは落ちた。


 スコア、24―21。


「んー……さすがにそう簡単にはやられてくれへんか」


 ぽつり、と呟く栄。その視線の先には、謎の『せーれっは!』という掛け声を上げながらコートを走る羽田野天理の姿。


「今川さん、それに露木さんも、ここで集中乱したらあかんで。今勝ちに王手を掛けとるのはウチらやない。羽田野さんたちや」


「「……そうみたいだな(ね)」」


 上がった息を整えながら、わたしと露木はネットの向こうを見据える。掛け声&ぐるぐる走りを終えたセントレ新人チームは、激しいラリーの後にも関わらず、息を乱している選手プレイヤーが一人もいない。


「あの〝不死蝶《Crawling Butterfly》〟は土壇場こそが独壇場――セントレオンハルト女学院じょがくいんの〝強さ〟は、ここからが本領やで」


 栄はいつぞや小田原先輩について語ったときのように、たっぷり実感を込めてそう言った。

<バレーボール基礎知識>


・乱れたレシーブのフォロー可能範囲


バレーボールのコートは全体で9×18メートルです。そして、そのコートの外側の領域をフリーゾーンと言います。


乱れたレシーブのフォロー可能範囲ですが、まず、ボールがネットの左右に立っているアンテナとアンテナの間を通過した場合は、『アタック・ヒット』、つまり『相手コートにボールを返した』ことになるので、それ以上手出しすることはできません。相手がこちらへボールを返してくるのを待ちます。


そうではなく、ボールがネットの左右に立っているアンテナの外側を通過した場合は、フリーゾーンを通ってどこまでも追い駆けることができます。コート後方や左右にレシーブが乱れたときと同様の扱いです。相手ベンチ、あるいは隣のコートまで、追いかけていって構いません。


ただし、セカンドタッチで自軍コートへボールを戻す際は、飛んでいったときと同様、ボールをアンテナの外側から通さなければなりません。アンテナの内側を通してしまうと、その時点でボール・アウトになります。


また、アンテナの外を通って相手側まで飛んでいったボールを追う際、選手プレイヤー支柱ポールなどの障害物に触れても構いません。しかし、ボールはダメです。ボールが支柱やアンテナ、アンテナ外のネットやひも、審判台などの物体にぶつかってしまったら、その時点でボール・アウトとなります。


・ネットに掛かったボール


プレー中にネットに掛かったボールは、フォアヒット(ブロックを除き、チーム全体でボールに四回触る反則)になるまで触ることができます。また、ダブルコンタクト(一人がボールに二回続けて触る反則)も有効ですので、自分がネットに引っ掛けたボールを自分でフォローすることはできません。

(例外として、九人制バレーでは『ネットプレー』なるものが存在します。ボールがネットに触れた場合に、『誰でも』それを繋ぐことができるのです。さらにこの『ネットプレー』が発生した場合は、全体で四回までボールに触ることができます)。


ちなみに、上でも説明した通り、ここで言う『ネット』とはあくまでアンテナとアンテナの間の白帯及び網部分のことを指します。アンテナを含めたアンテナ外の障害物にボールがぶつかってしまった場合は、その時点でボール・アウトとなります。


また、ネットに掛かったボールを繋ぐときに、ネットを引っ張るなどしてボールに力を加えてはいけません。タッチネットの反則になります。これは逆の立場でも同様で、ネットを叩いたり引っ張ったりして相手のプレーを妨害すると、タッチネットの反則になります。

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