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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第七章(明正学園) VS聖レオンハルト女学院
223/374

77(舞紗) 特大ホームラン

 合同練習試合、午後、第三戦。


 明正めいじょう学園VS(セント)レ新人チーム。


 まさかまさかの〝偉大なる七《"Big" Seven》〟の加入により、恐ろしいまでの戦力アップを果たした明正学園は、その〝偉大なる七《"Big" Seven》〟の高さを最大限に活かす前衛フロント勝負を仕掛けてきました。


 これがもし東の覇者――『一撃決殺』を掲げる〝毒蜜蜂《Killer Honey Bee》〟こと音成おとなる女子なら、嬉々として打ち合いが始まったところでしょう。しかし、セントレのバレーは彼女たちとは真逆。掲げる標語は『臥薪嘗胆』――守りと繋ぎを重んじる〝不死蝶《Crawling Butterfly》〟にとって、前衛フロント勝負による点の取り合いは望むところではありません。


 ま、わたくし山口やまぐち舞紗まいさにとっては、しかしながら打ち合いは大歓迎なのですけれど。どかんと打って、どかんと決める。わっかりやすくて好きですわ。セッターの織部おりべ水華すいかも、それがわかっているからわたくしにトスを集めます。


「たっらあああああ!」


 ぱあんっ、


 と快音を鳴らし、わたくしの打ち出したボールは凄まじい速さで飛んでいきます。明正学園のレシーバー陣は誰一人として動けません。しかし、無理もないことです。今のスパイクに触れられるレシーバーなどこの世界には存在しません。それはもう自信を持って言わせていただきますわ。


夕里ゆうり、投げるわよ!」


「おーきに、世奈せなー!」


 獨楢どくなら新人チームのセッターである森脇もりわき世奈せなさんが、ひゅん、と明正コートに立つ栄さんにボールを投げます。二階うえ観客席ギャラリーから。


 はい。というわけで、何人たりとも触れられないスパイク、もとい本日最高飛距離の特大ホームランを打ってしまったわたくしですの。


舞紗まいさああっ、あなた競技ルールわかってますの!? 柵を越えたら追加得点ボーナスポイントとかないですわよ!!」


 目をぐるぐるさせて頭を抱える水華。そんな混乱した水華を見てあたふたするリベロの鬼島きじま巳頼みらい。で、そのプチパニック状態を収めるために、水華すいかの肩に針ヶ谷(はりがや)的子まとこが、巳頼みらいの頭に堀川ほりかわ宇絋うひろが、それぞれぽむっと手を置きます。


「毎度のことながら派手にやらかしてくれますわねー、舞紗」


「本当にな。いや、でも、逆に吹っ切れたってのはあっけどよ!」


 揃って苦笑する宇絋うひろ的子まとこ。しかし、その笑みには少し力がありません。どういうことでしょう? わたくしははてと首を傾げ、そう言えば打ち合いに燃えていてあんまり状況見てなかったですけれどスコアって今どんなもんでしたっけ、とスコアボードを見てみます。


 表示は、24―20。


 …………やっちまったですの。


「皆さん、タイムアウトでしてよ」


 集まっていたわたくしたちに、キャプテンの羽田野はたの天理てんりが声をかけます。同時にぴぃぃと笛が鳴り、わたくしたちは駆け足にベンチへと移動します。


「はい、というわけで、見ての通り明正学園のセットポイントですわ」


 間口まぐち剛健よしたけ先生の隣に立つ天理が、にこやかにそう告げます。


「そして、まさかお忘れではないと思いますけれど、わたくしたち新人チームが明正学園あちらに負けた場合は、先輩方レギュラーが彼女たちのお相手をする約束となっております」


 みんなの顔に緊張が走ります。もちろん誰も忘れてなどいません。いや、実を言うとちょっと点数状況とともに失念していましたけれど、でも決して忘れていたわけではありませんわ。頭の隅に置きっ放しにしていただけですわ。


「まあ、元々先輩方も彼女たちに興味を持っていましたし、小田原おだわらさんが登場したことでかえって試合をしたくてたまらないような雰囲気になっていますけれど……だからといって、わたくしたちが負けてもいい理由にはなりませんわ」


 いつもの流々とした調子でそう言って、天理は明正学園ベンチへと目を向けます。


「先に王手を掛けられた形ですが、状況はわたくしたちにとって決して悪いわけではありませんわ。今のサイドアウトで小田原さんは後衛バックに下がり、しばらく戻ってきません。高さの不利はこれで最小限。ここからデュースに持ち込み、小田原さんが前衛フロントに復帰する前に逆転、という流れは十分に可能ですわ。どころか、わたくしたちにとってはそれこそ本領。そうでしょう?」


 天理はわたくしたちに視線を戻し、とても楽しそうに、柔らかく微笑みます。


「午前中は大差で勝ってばかりでしたからね。むしろ、この試合展開は歓迎すべきなのかもしれません」


 すっ、と天理が右手を輪の中心に差し出します。わたくしたちは天理の言葉と仕草の両方に頷きを返し、その手に自らの手を重ねます。


明正学園あちらにはわたくしたちのことをよく知らない方も何人かいらっしゃいますわ。ならばせっかくのこの機会――骨の髄までたっぷりと教えて差し上げましょう。わたくしたちがなぜ、〝不死蝶《Crawling Butterfly》〟と呼ばれているのかを」


 すうっ、と天理が大きく息を吸い込みます。そして、


せーええええええええええ――――っ!!」


「「レオン(れっ)!!」」「「ハルト()!!」」


 ぴったり揃った『せーれっは!』。直後にタイムアウトの終わりを告げる笛の音が体育館に響き渡ります。天理は満足げに顔を上げ、軽やかな足取りでコートへ向かいます。


「さあ、気を引き締めていきますわよ!!」


「「はいっ!」」


 わたくしは大きく肩を回し、天理の後に続きました。

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