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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第七章(明正学園) VS聖レオンハルト女学院
220/374

74(天理) 狙い

 合同練習試合、午後、第三戦。


 明正めいじょう学園VS(セント)レ新人チーム。


 わたくしはそのコートのFL(フロントレフト)に立ち、相手のラインナップを確認します。


 ―――ネット―――


 小田原 露木 西垣


  栄  今川 瀬戸


 ―――――――――


 チームキャプテンの星賀ほしか志帆しほさん(逆さにしてもホシカシホさん)はベンチに座ってどうやらお休みのご様子です。


 そして、その穴を埋める形で投入されたのが、〝偉大なる七《"Big" Seven》〟こと小田原おだわら七絵ななえさん。この方の存在感たるや――もはや言うまでもないでしょうが――凄まじいものがあります。


 わたくしたちの同期の県選抜でレフトエースを務めた藤島ふじしまとおるさんをも越える超長身(185センチ)指高しこう(手を真っ直ぐ上に挙げたときの地面から指先までの高さ)が白帯ネットより上という、正しく規格外の怪物バケモノですわ。


 そんな小田原さんのポジションがミドルブロッカーではなくセッターだというのは、ある意味ではよかったのかもしれません。ただ、そのもう一つの異名である『エース殺し』のことを思いますと、レフトであるわたくしとしては複雑ですわ。


 というか、小田原さんがわたくしと同じFL(フロントレフト)スタートなのは意図的ですの? もしかしてわたくし殺意を向けられていますの?


天理てんり……あなたなんか楽しそうですわね」


 ネット際に構えて堀川ほりかわ宇絋うひろがサーブを打つのを待っていますと、隣の織部おりべ水華すいかに声を掛けられました。わたくしは相手を見据えたまま応えます。


「乗り越えるべき壁は高いほど燃えるというものですわ」


「ちょっと高過ぎる気もしますけれどね」


 軽く苦笑する水華。それと同時に、宇絋がサーブを放ちました。わたくしたちはそれぞれのプレイヤーポジションに移動します。その間あちらでは、FR(フロントライト)の位置にいたボサっとした髪の瀬戸さんがFC(フロントセンター)の西垣さんをフォローするようにカット。やや短く上がったそれを、小田原さんはレフトの露木さんへ。さすがにファーストプレーからBカットをドンピシャというわけにはいかなかったようで、露木さんは先程までよりいくらか低い打点でボールを捉えます。


 ばしっ、


 と、それでも十分力強い音。ミドルブロッカーの大朧おおおぼろ久穂ひさほがそれに触れ、リベロの鬼島きじま巳頼みらいが繋ぎます。


水華すいか!」


 高々と上がったボールを目で追いながら、わたくしはトスを呼びます。水華は逡巡しているのか無言のままにボールを捉え、そして、


「っ……わかりましたわよ!」


 しゅ、


 とわたくしに平行トスを上げます。恐らく水華の中ではセンターの久穂で牽制という場面だったのでしょう。いきなり我儘で彼女の采配(プラン)を曲げてしまったことに心中で詫びつつ、わたくしはネットへ向かって踏み込みます。


 目の前には――断頭台とでも呼ぶべき圧力プレッシャーでもってわたくしを待ち受ける一つの巨大な影。


 一枚ブロックなら通常はアタッカー側のほうが有利なはずなのですが、どこへ打っても止められるイメージしか湧きません。張り切ってトスを呼んでおいてドシャットでは格好がつきませんからそれだけは避けたいのですけれど……困りましたわ。まったく隙がありませんの。


「かくなる上は――ですわっ!」




 ばちんっ!!




 激しい打音。かなり力を入れて打ち込んだボールは小田原さんの左の手の平付近に衝突して、ふわりと上空へ跳ね上が――――らずに、わたくしの身体とともにゆっくりと下へ落ちていきます。


 ……あら?


 首を傾げて着地すると同時に落球。宇絋がフォローに飛び込んでくれましたけれど、届きませんでした。


「狙いは……うん、悪くなかったよ」


 小声でそう言われ、わたくしはそちらへ目を向けます。左手首を擦りながらネット越しにわたくしを見下ろすのは、むろん、わたくしを止めたご本人――小田原七絵さん。


「でも、そのパターン(リバウンド)は、ちょっと前にやられたばかりなんだ」


 言い終わるか終わらないかのうちに、小田原さんはわたくしに背を向けてしまいました。そびえ立つ巌のようなその後ろ姿を見送っていますと、その影からひょっこり顔を出した栄さんと目が合いました。


 ああ、なるほど……そういうことでしたの。わたくしは思わず微笑を浮かべてしまいます。


「てーんーりー……っ!! シャット食らっておいてなぜにやにやしてますの!?」


「あ、水華。申し訳ありませんの。やられましたの。たはーですの」


「『たはー』じゃないですわよ! てっきり何かあるのかと思ってましたのに!」


「もちろん色々ありましてよ? でも悉く潰されてしまったので緊急避難したんですの。そしたらその避難路さえ通行止めだったのですわ」


「言い訳など聞きたくありませんわっ!」


 目を三角にしてがなる水華。その肩に久穂が手を置きます。


「落ち着いて、水華。まだ始まったばかりだよ。それに相手は偉大なる七《"Big" Seven》なんだから……」


 久穂の言葉に、水華は顔を顰めました。そしてそれをほぐすように眉間に指を当てます。


「……そう言われたら、なんだかかえって不安になってきましたわ。あたしたち……本当に今、あの〝偉大なる七《"Big" Seven》〟を相手にしているんですわよね。あの雀宮すずめのみや中の――」


 そこで、水華の呟きは止まりました。水華の顔色が優れないのを見て、不安になった巳頼みらいが水華のシャツの裾を引っ張ったからです。水華は「うっ……」と恥ずかしそうな声を漏らし、びしっ、とわたくしを指差します。


「とにかくっ! 次は頼みますわよ、天理!」


「ええ、かしこまりですわ」


 わたくしが微笑で応じると、水華はのっしのっしと大股にコートポジションへと戻っていきました。そんな水華を巳頼はまだ少し不安げに見ていましたが、わたくしが肩を叩くとはっと我に返って小走りにポジションに向かいます。


「天理……」


 小さな声で呼び掛けてきたのは、久穂です。わたくしは片手を挙げて、頷きます。


「大丈夫ですわ。お互いできることをやっていきましょう」


「……わかった」


 久穂は小さくそう言って、前を見据えます。明正学園は一つローテを回し、前衛フロントには向かって右から露木さんと小田原さんと栄さん。


 開始早々怪物バケモノ二人にエース一人とは、随分と気の利いたラインナップですこと。さては高さにものを言わせて押し切るつもりですわね? ならば、こちらとしては速やかに小田原さんを後衛バックに追いやって粘り合いに持っていきたいところですが……ちょっと、いや、かなり難易度が高いですわね。こちらのボールがまともにネットを越えるかも怪しいですの。


 こんなとき、お姉様たちならどうなさるでしょう……。否、考えずとも、きっと答えは一つですわね。すなわち――〝不死蝶《Crawling Butterfly》〟の名に恥じぬバレーを貫くまで。


 スコア、1―0。


 立ちはだかるは〝偉大なる七《"Big" Seven》〟、傍らには〝不沈の(Gloaming)黄昏(Glory)〟。これが鉄壁でなくてなんでしょう。けれど、やはり、勝負はこうでなくてはつまりません。


 逆境・上等・大歓迎、ですわ。

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