72-3(志帆) 真打ち
彼女が体育館に姿を見せたその瞬間、ぴた、と全ての音が停止した。
「すいません、遅刻しました」
そのおかげで、決して大きな声ではなかった彼女の第一声は、試合後の簡単なミーティングをしていた私たちや獨楢新人チーム、それにちょうど試合が終わって整列したところだった向こうのコートの面々にまで、しっかり漏れなく届いた。
まさに、真打ち登場、という場面だった。
驚愕の波紋がみるみる広がっていく様はなかなか痛快だった。あちこちで「え?」「は?」といった疑問の声が上がる。その中でも、特に二年生の子たちの反応はそれぞれの個性が出ていて興味深い。鶴舞女子のツインタワーの子たちは「っるぷえええ!?」なんて奇怪な声を上げているし、聖レのほうでも「あらあらあらあらあら」と「あら」が止まらなくなっている。きっとその辺りは彼女の顔見知りなのだろう。
「遅かったな!」
私は入口に棒立ちしたまま(どのタイミングでどう動くべきかを見計らっているのだ)の彼女にそう声を掛けた。十数メートルほどの直線距離と、せっかくなのでもっと彼女を目立たせたいという意図があったので、かなり大きな声で、だ。
「返す言葉もないです」
ほどほどの声量でそう言って、私たちのところへやってくるための一歩を踏み出す彼女。その足を止める形で、私は両手を広げて館内全域を示しながら彼女に言った。
「待て。みんな突然で困惑している。ひとまず名乗ってやれ」
私の指示に彼女はちょっと首を傾げたが、すぐに従った。
「えっと、皆さん、お騒がせして申し訳ありません」
ざわついていた館内が、しん、と一気に静まる。誰もが彼女の言葉に耳を澄ませていた。
「私は明正学園二年……小田原七絵です」
直後、どどんっ、と方々から花火みたいに『〝偉大なる七《"Big" Seven》〟!!』と叫び声が上がった。よしよし私好みのインパクトのある登場シーンになったぞ――と、その演出に一役買ってくれた各校の有力選手たちに感謝しつつ、ちら、と私は本命の敵を横目で盗み見た。
すなわち、私が是非とも手合わせしたいと願っている相手――我が県の四強にして西の王者――聖レオンハルト女学院、その現レギュラーメンバーを、である。
さあ、かくして役者は揃い、懸案事項も解決を見た。
明正学園の戦いは、これから(が本番)だ。
ご覧いただきありがとうございました。そして大変お待たせして申し訳ありませんでした。第六章はこれでひと区切りとなります。
次もある程度まとめてから更新すると思うので、少し先になると思います。年内には本編に戻りたい所存です。
では、今後もよろしくお願いいたします。猛暑が続いておりますので熱中症などにはお気をつけ下さい。失礼します。




