72-2(明朝) その人物
私と多部遥火と二年生の氏島右季は、Bコートの彰たちの決着を見届けるとすぐ、コートへ戻るために移動を始めた。Aコートの試合もまもなく決着というところだったので、ちょうどいいタイミングだった。
「ったくひやひやさせやがってよー、アイツら」
「まったくだね。でも、無事に終わってよかったよ」
「沢木さんと森脇さんと夕里さんのアレは、一件落着ってことでいいんですよね?」
「恐らくは。まあ、あの手の問題は、叩けば他にも色々と出てくると思うけど」
「小学校ん時からずっと一緒だかんなー。そりゃ色々あるわな」
「えっ、じゃあ先輩たちも……?」
「「聞きたい(てーか)?」」
「え、遠慮しておきます」
なんて雑談をしながら、私たちはギャラリーからロビーへと繋がる階段を降りていた。と、その途中、前を行く右季が急に立ち止まった。その視線はロビーへと注がれているようだが、私のいる位置は縦列の最後尾で、両脇にある壁が邪魔で視界が狭く、右季が何を見ているのかまではわからない。
「あん? 右季、どうし――」
私の数段先にいた遥火が、後ろから右季の肩に覆い被さって同じ方向を見、そしてぴたりと固まった。どうしたのだろう。というか、よくわからないけれど、階段の途中で挙動不審にならないでほしい。単純に危ない。
なかなか動き出そうとしない二人の時を進めるべく、私は慎重に二人の傍へと降りていった。そこで、ようやく私も、二人が見ているものがなんなのかを知った。
ロビーにいたのは、果たして、一目でそれとわかる怪物だった。
その人物は、団子みたいに固まって見つめる私たちの視線に気付いているのかいないのか、すたすたとロビーを横切ってコートへ通じる扉を開け、中に入っていった。
「なんで……あの人がここに……?」
扉が閉まってその姿が見えなくなってから、やっと右季が絞り出すようにそれだけ言った。遥火が怪訝そうに訊く。
「今のヤツはオマエの知り合いなんか、右季?」
「え、えっと、あの人はお隣の、私とタメの――とにかく滅茶苦茶ヤバイ人です!!」
「いやヤバイのは見りゃわかるっつーの。一体どこの誰だって」
「ど、どこから説明したらいいのか……っ!!」
右季はかなり動揺していた。遥火も興奮気味である。私は二人を落ち着かせるために、会話に割って入る。
「彼女、明正学園の制服だったみたいだけど……」
私がそう言い差すと、右季も遥火も私を向いた。よし、これで主導権は私が握った。あとは、なるべく自然に、何気ない調子で、答えやすい質問をすればいい。
「とりあえず、右季。知っているなら、名前だけでも教えてくれないかな?」
「は、はいっ! あの人は……あの人の名前は――!」




