表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第六章(明正学園) AT獨和大附属楢木高校
202/374

59(輝美) 横顔

 ハロー。突然だけど、私の名前は狭川さがわ輝美てるみ。コールミー・テルミー。ポジションはレフト対角よ。どーもよろしくね。


 で、町川縫乃ニューイと代わってスタメン出場してるんだけど、あれよあれよという間にスコア5―1。この1点ってのは相手のサーブミスだから、実質ゼロみたいなもん。スタメン変えた途端にこの様かい、みたいな感じだけど、いや、エクスキューズ。ちょっと言い訳させてほしい。


 全ての仕業は、栄夕里ジュリアなの。


 もーね。あいつ半端ない(アメイジング)。細かいことはわかんないけどさ。なんつーの? まさに暗中飛躍ニンジャ


 ま、だからって焦んのも思う壺なんだろうから、落ち着いてプレーしていこうとは思うけどね。どうなることやら。


 ぱしんっ、


 とその夕里ジュリアがサーブを放つ。さっきは江本瞑トミーで、今度は私。左へ右へと揺さぶってくるわねー。けど、コースはほぼ正面だし? よく見れば取れるはずよね? よしっ、んー――のわっ!?


 がんっ、


 とアンダーハンドの先っちょでボールを弾いてしまった。いや、エクスキューズ! 最初はぐーんと伸びてきたのよ! そっから左に右にブレたの! でも私も素人じゃないからちゃんと対処したわけ! きっちり引き付けて取ればいいってね! そしたら直後にがくんと落ちたの! こんなジーザスなことってある?


 なんて言い訳している場合じゃなかった。私が弾いたボールは世奈セーニャの頭を越え、ネットを越えようとしている。この手のネットに近いミスカットは、ツーアタックを得意とする世奈セーニャにとってむしろ絶好球だったりするんだけど、今回はいささか高過ぎたみたい。世奈セーニャは咄嗟にジャンプし、利き手の左腕を伸ばす。しかし、ボールはその指先の数ミリ上を通ってネットを越え――否、




 ――だんっ!




 越えなかった。ものの見事に叩き返された。ダイレクト・スパイク――ご冗談でしょうアー・ユー・キディング? 世奈セーニャが届かなかったボールをジャストミート? 一体全体イン・ザ・ワールドどこのどいつが?


 私も含めたメンバーの視線が、ネット際に立つそいつに集まる。赤茶髪のサイドテール。さっき名乗ってた――凛々花(リリー)とかいう。


 いや……知ってたわよ? 午前中もあの赤茶髪リリー黒髪ハーティの二人は目立ってた。小細工なしでうちやセントレから点を取ってたのは、同じレフトのウイングスパイカーとして素直にすごいと思った。でも、午前中は、言うなら、それだけだった。


 今は、なんて言ったらいいのか……雰囲気が変わったわ。よく言えば無我夢中ひたむきに、悪く言えば五里霧中やみくもにスパイクを打ってた午前中とは別人。いい意味で力が抜けて、冷静になってる。今のダイレクトだって、こっちのレシーバーがいないとこを狙ったように見えた。午前中だったら、力み過ぎてふかしていたかもわからない。


 彼女たちにここまでの変化をもたらしたものが何か――たぶん、さっき夕里ジュリアを巡ってキラー世奈セーニャと揉めていたことが無関係ではないと思うけど、突っつくのは薮蛇だろうし……。


「大丈夫か、輝美てるみ?」


 コートに膝をついたままだった私に、キラーが手を差し伸べてきた。私は有難くその手を取って、立ち上がる。


「サンキュー。そんでごめん。やられたわ」


「今のは仕方ない。次は頼むぞ。みんなも――」


 言って、彰はぐるりと私たちを見回した。


「硬くなる必要はない。多少のミスは構わない。わたしが取り返す。だから、もっと思い切ってプレーしてくれていい」


 キラーの言葉に、私たちはそれぞれ頷きを返す。キラーは「よし」と落ち着いた声で言って、人差し指を頭上に掲げた。


「一本、確実にいこう」


 低い声でそう言って、コートの中央でどっしり構えるキラー。彼女は試合になると普段にもまして口数が減る。けれど、その引き結んだ口元や、汗の滲んだ背中を見れば、考えていることは大体わかる。というか、大体にしてキラーが試合中に考えていることは、いつだって一つだ。


 勝つこと。


 私たちは、だから、彼女を信じてついていく。その先に勝利があるとみんな知っている。私も、トミーも、連歌レイニーも、真歩マーフィも、鹿子カノンも、もちろん世奈セーニャも――。


「ん……?」


 喉に何かつかえたような違和感を覚えて、目を擦る。世奈セーニャキラーを見つめる横顔が少し物憂げに見えた。でも、それは一瞬のことで、はっきりとはわからなかった。私の思い過ごしだろうか。


 もう一度確かめよう、と思ったところで、ぴっ、と笛が鳴った。夕里ジュリアのサーブ。二度もやられるわけにはいかない。世奈セーニャのことはいったん脇に置く。


「カット集中!」


「「おおおおっ!」」


 キラーの声にみんなが応える。その『みんな』の中に世奈セーニャがいない気がして、気になったけれど、やがてサーブが放たれるとそれどころではなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ