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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第六章(明正学園) AT獨和大附属楢木高校
201/374

58-2(夕里) 敵コート

 ぴぃ――――と、笛の音。


 回想と雑念を払い落とし、ウチは現実に戻ってくる。通算三セット目の獨楢どくなら新人チームとの試合。スコア3―0からあっちがタイムアウトを取って、そのきっかり三十秒後。試合再開やった。


 気入れの後、わあっ、と各々声を上げながら選手メンバーが一斉にベンチからコートに戻る。その途中、ウチは左右からぽんぽんっと肩を叩かれた。露木つゆき凛々花(りりか)さんと今川いまがわはやてさん。今のとこ、獲得点数は露木さん1点、今川さん2点。かなりええペースや。


「「さあああっ!!」」


 全員がコートポジションにつき、サービス許可の笛が鳴る。ネット越しに睨みを利かせながら、底無しのやる気で声を張り上げるご両人。こんだけ元気なら電池スタミナ切れの心配は要らへんな。むしろ午前中が不完全燃焼だった分、有り余っているって感じや。


 サーバーは、引き続きキャプテンの星賀ほしか志帆しほさん。フローターの構えを取ったまま、相手コートをじっと見つめて何事か考えている。タイムアウト後の大事なサーブ。さてどこを狙うつもりなんかな……?


 やがて、ぱしん、と軽快に打ち出されたサーブは、がんっ、と白帯に直撃してこっちのコートに落ちた。まさかのサーブミス。……いや、でも、後に続くメンバーのことを考えると、ここで星賀さんがミスしたんはかえってええ方に働くような気もする。もしかして半分くらいわざと外すつもりで際どいとこ狙ったんやろか。


「申し訳ない! サーブカットから、集中していこう!」


 清々しいくらいに潔くそう言うて、星賀さんは真っ先に守備位置についた。おかげで、ウチらも「はいっ!」「一本!」とすんなり気持ちを切り替えられる。スコアは、3―1。タイムアウトで連続得点を切られた形やけど、士気は落ちてない。まだまだ、押せ押せ。


「「さあああ来おおい!!」」


 相手のサーバーは、ミドルブロッカーの小田おだ鹿子かのこ。リベロの平嶋ひらしま連歌れんかが一時的に抜けとる。ほな強気で攻めるんが吉やろ。露木さんと今川さんのどっちにするかは……サーブカット次第。


 だんっ、


 と鹿子のフローター。BR(バックライト)西垣にしがき芹亜せりあさんの正面へ。それを、


「任せ!」


 FC(フロントセンター)の今川さんが大股に下がって、オーバーハンドで取りにいく。自分で拾って自分で打つつもりなんや。こういうやや強引なプレーを、運動量に自信があって且つ守備もできるエースアタッカーは、ようやる。露木さんもそうやし、三坂みさか総合の在原ありわらさんや、あとあきらも同じタイプ。


 こういうとき、セッターとしては若干どうすべきか迷う。できることなら気持ちよく打ってもらいたい。そのほうが本人もチームも盛り上がる。せやけど、あんま正直に上げるんは、相手ブロッカーに読まれる恐れがある。


「速攻!!」


 ぱんっ、とサーブを力強く弾き返すと同時にトスを呼ぶ今川さん。カットは少し短い。けど、Aクイックなら許容範囲。相手ブロッカーのフォーメーションは中央寄り(バンチ)。こっちの本命が今川さんなんは、完全に読まれとる。


 ま、それをどうにかするんが腕の見せどころやんな。


 狙いは、中央突破。助走が鋭く独特のリズムで打つ今川さんのクイックは、慣れるのに少し時間がかかる。今センターにおるミドルブロッカーの山岡やまおか真歩まほは、今しがた前衛フロントに上がったばかりで、今川さんの速攻を間近で見るんはこれが初めて。きっと跳び遅れる。ほな、そこに叩き込んでやれば――成功イメージを描きつつ、落下点へ入る。その直前、


 とっ、


 と足踏みしてセットアップの入りを普段より四半テンポくらい遅らす。これはちょっとした小技テクニック。えっなんか速攻クイックを上げるにしてはジャンプトスのタイミング変やない? みたいに感じてくれれば僥倖。真歩まほの意識が僅かでも露木さん(レフト平行)に向いてくれたらええ。そしたらその意識の隙に、


 ざっ、


 と今川さんが風のように切り込む。真歩がはっとそれに気付く。実際に見る今川さんの速攻はかなり速急に感じるはず。なんやこれタイミング取りにくいな、と。ほなアタッカーの踏み込みよりセッターのトスを見て合わせるんがええか、とウチの動きに注意を向ける。


 せやけど、悪く思わんといてな? ウチはそんなに素直やない――で!


 ひゅ、


 と今川さん(クイック)にトスを上げる。ただし、通常とは違うやり方で。具体的には、ボールコンタクトの位置を下げた上で、指先が触れた刹那に素早くボールをリリースした。要するに普段より『速く』トスしたわけや。この小技テクニックによって、ウチの動きに合わせるつもりやった真歩ブロッカーは一瞬出遅れる。一方で、トスを受ける今川さんにはなんの影響もない。なんとなれば、そうなるようにセットアップの入りを『遅く』して、全体としては帳尻が合うように調整したからや。


 ――だがんっ!


 クイックらしからぬフルスイングの強打。ボールは跳び遅れた真歩の指先を弾いてクロス後方へ。鹿子かのこが「あわっ!?」と手を伸ばすも、届かず。そのままブロック・アウト。


 スコア、4―1。


「ナイストス、栄!」


 よしっ、とガッツポーズした今川さんが、ウチに手の平を見せる。すかさず獨楢コートに背を向けて、その手にハイタッチ。ぱぁん、とええ音が響く。


「ナイスキー、今川さん。その調子でなー」


「おう! どんどん来い!」


「ちょっと栄! あたしのことも忘れないでよね!」


「もちろんやって。ほな、次行くでー」


 ひらひらと手を振って、ウチは後衛バックへ下がる。そのとき、なんや言いたげな微笑を浮かべた星賀ほしかさんと目が合った。


 いや、心配せんでも、わかってますよ。ウチが前衛フロントでの3点ノルマを達成してへん件についてですよね? もちろん、努力義務を怠るつもりはありません。ただ、さすがに露木さんと今川さんのサポートをする役割上、前衛フロントの間って縛りはキツいんで、勝手に後衛バックの間も含めてってことにさせてもらいますけど。


 淡々とウチはサービスゾーンに立つ。露木さんから星賀さんを経由してボールを受け取り、表面の感触を確かめつつ、相手コートを見やって狙いを定める。FC(フロントセンター)の彰と、FR(フロントライト)付近で構えるリベロの平嶋ひらしま連歌れんかの守備範囲をまず除外――ほなレフト線やな。BL(バックレフト)におる江本えもとつむりはまだ硬さが取れてへん。そこを強襲。となれば、助走の踏み切り位置は中央センターがええか。そこから、レフト線の奥の角へ、外へ逃げる軌道で打ち込む……と。


 ぴっ、と笛の音。一呼吸を置いて、ウチはサーブのモーションに入る。両足踏み切りのジャンプフローター。ボールを放り、たたっ、と助走。宙を漂うカラーボールの真芯を、叩く。


 ぱしっ、


 とボールは狙い通り相手コートのレフトサイドへ。まず彰が反応する。サイドステップでFL(フロントレフト)の真歩とポジションをスイッチしながら、レシーブしたそうな素振りを見せる。が、さすがに高い。後衛バックつむりに託す。請け負った瞑が落下点に急ぐ。初動や連携に不備はない。あかん、これは拾われそうや。


 しかし、果たしてボールは、相手コートの中程を過ぎたくらいから急にぐんと伸びた。すわアウトか、と冷や汗が出る。けど、どうやら小・中学時代の行いがよかったらしい。ウチのサーブが外れるわけがない、と思うてくれたんか、瞑は伸びるボールをアンダーハンドで追う。ボールはさらに伸びる。瞑の腰が浮く。ボールはまだ伸びる。それでも瞑は手を引っ込めない。そして、


 がつっ、


 とボールの勢いを殺せず、瞑はカットを後ろへ逸らした。後衛バックのレシーバーがコート外へ弾いたボールを余人が追えるはずもない。たあん、とワンタッチボールがバウンドする軽い音がいやに響いた。


 スコア、5―1。ほっと一息。直後、


 ぴりっ、


 と彰のものと思しき視線を感じた。けど、なるたけそっちには目を向けない。集まってきたみんなとハイタッチすることに集中。それが済んだら、くるりと踵を返して、再びサービスゾーンへ急ぐ。


 まだまだ……やらなあかんことがいっぱいあんねん。ウチの一周目ノルマ達成まであと2点。今川さんはひとまず達成済みやけど、露木さんのほうがウチと同じく残り2点。彰のヤツになんか――敵になんか、気を遣うてる余裕は、絶無ない


 そう、敵や。今の彰は、倒すべき敵なんや。


 ボールを受け取ったウチは、サービスゾーンから敵コートを見つめ、ふうー……と、いつもより長く息を吐いた。

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